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改めて少年法第68条の速やかな撤廃を求める会長声明

2023年07月25日

東京弁護士会 会長 松田 純一

2021年の少年法改正(以下「改正少年法」という。)により、18歳及び19歳の少年(以下「特定少年」という。)については、家庭裁判所が検察官送致決定を行い、その後、検察官が公判請求をした場合に限り、推知報道禁止が一部解除された(第68条)。当会は、この規定について、2022年3月7日付「「改正」少年法に関する意見書」において同条の速やかな撤廃を求める意見を述べている。特定少年であっても少年法の「健全育成」すなわち成長発達権保障の理念(第1条)は及ぶところ、インターネットが普及した現代社会では、いったん実名報道がされれば、瞬く間に世間に知れ渡り、しかも半永久的に情報が残ることになり、その中で本人が更生していくことは容易ではなく、少年の「健全育成」を害するからである。
去る7月7日、東京地方検察庁は、本年5月に東京都内で発生した強盗事件(以下「本件」という。)につき、特定少年3名を起訴するとともに、その実名を公表し、一部の報道機関は、この公表を受け、当該少年らにつき実名報道を行った。本件においては、当会会員である当該少年らの弁護人が、担当検察官宛に、実名公表をすべきでない旨の申し入れを行い、その中で、実名公表が本件の特定少年らの更生にどれだけ害が生じるのかを詳細に伝えたにもかかわらず、東京地方検察庁は、実名を公表した。裁判員裁判対象外事件で特定少年の実名公表が行われるのは東京地方検察庁では初めてである。報道によれば、「首都の中心部分で白昼堂々と計画的に行われた多額の強盗事件で、裁判員事件に匹敵する重大事件と考えた。」とのことであるが、犯罪の客観的な態様や結果という犯情のみを重視して、少年が事件に至った背景や少年の「健全育成」すなわち成長発達権保障や更生の視点を鑑みないものであり、改正少年法の衆議院・参議院の各法務委員会の附帯決議の趣旨にも反し、到底許されるものではない。今般の東京地方検察庁の対応に、当会としても抗議するものである。
本件は、事件当初からセンセーショナルな報道が繰り返しなされているが、実名公表をきっかけに、現に報道が再燃している。このことが、少年らの更生に甚大な被害を与えることは明らかであり、推知報道禁止の特例を設け、起訴後の実名公表を許容してしまった改正少年法第68条の問題点が改めて明らかになったといえる。
現代社会において、少年の成長発達権保障と、実名報道を許すこととは両立し得ないのであり、少年法第68条は、速やかに削除されるべきである。
また、本件に対する報道機関の対応は、東京地方検察庁の実名公表にもかかわらず、主体的な判断により実名報道を行わなかったところもあり、それらについては上述の附帯決議に即し少年法の理念を貫徹するものといえるが、実名報道に至った一部報道機関に対しては、実名報道の危険性を十分に認識されていないものとして遺憾の意を表せざるを得ない。実名報道を行った報道機関には、インターネット上に実名報道が残るようなことがないように記事の削除等、速やかに対応されるよう要請する。
当会は、少年法第68条を削除する再改正を求める2022年3月7日付「「改正」少年法に関する意見書」を発出したところであるが、改めて、同条の撤廃を強く求めるものである。

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