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防災の日に寄せる会長談話

2023年09月01日

東京弁護士会 会長 松田 純一

令和5年9月1日、東京は関東大震災から100年目の節目を迎えました。マグニチュード7.9と推定される大地震の犠牲者は、死者(行方不明者含む)10万5385人、家屋全壊10万9713戸、半壊10万2773戸、焼失21万2353戸、流失埋没1301戸ともいわれています(内閣府「災害教訓の継承に関する専門調査会報告書 平成18年7月 1923関東大震災」)。また、死者の中には、"朝鮮人が放火や井戸への毒物投入等を行っている"といったデマを信じた民衆の自警団や戒厳令で出動した軍・警察によって命を奪われた方々が多数おられ、ここに、全ての犠牲者とそのご遺族に対し、謹んで哀悼の意を表します。
当時テレビ・ラジオもなかったという背景の違いはありますが、今日においても、災害時におけるデマや誤情報による混乱を防ぎ、人命を守るためには、災害時に人々に正しい情報を届け、あらゆる属性の被災者に対して災害情報へのアクセス(災害時の情報アクセスビリティ)を確保する工夫が、なお欠かせません。例えば、スマートフォンから情報を得ることが困難な高齢者、放送・警報が聞こえない聴覚障害者、避難誘導地図の識別が困難な色覚特性のある方、日本語や日本式の標識が理解できない外国人等々、災害時の情報格差の問題は、IT技術が発達しグローバル化した現代社会において喫緊の課題であり、いざ発災となれば深刻な命の危険を生じかねません。
内閣府は、令和3年に「避難勧告等に関するガイドライン」を「避難情報に関するガイドライン」と改めたうえで、高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(以下「要配慮者」)に対して多様な伝達手段や方法を活用して確実に情報伝達できる体制を整えるべきとし、また、災害対策基本法第8条第2項も、要配慮者に対する防災上必要な措置に関する事項(同15号)と被災者に対する的確な情報提供(同17号)の実施に努めることを国および地方公共団体に義務付けました。しかしながら、災害に関する情報は、避難に関するものにとどまることなく、事前の防災や事後の支援等災害に関するものも含め、子どもから高齢者、日本人だけでなく外国居住者・外国人旅行者、病気やけがを負った人、障害のある方と、およそあらゆる人に届かせる工夫が求められます。従来型のメディアを用いる際の多言語化やユニバーサルデザインの採用、HP・SNS等インターネットによる情報発信、言語に頼らないピクトグラムの活用等が検討されるべきですが、これらがあっても、地域内の直接的な声かけの重要性はいささかも失われるものではなく、日常の避難訓練を通じたコミュニティの形成等も課題とされるべきです。
昨今、地球の温暖化の影響により、地震や火山活動による災害以外にも毎年のように全国で人命に関わる風水害が発生しています。
東京弁護士会は、日頃の研鑽を怠らず、また関係各所との連携強化を構築することにより、情報格差の解消を含めた災害法制およびその運用の改善に向けた提言を続け、災害時においてこそあらゆる属性の人々の基本的人権が護られる社会の実現に向け、全力で取り組んでまいります。

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