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安保法制違憲訴訟仙台高裁判決を受け、改めて裁判所に違憲審査権の適切な行使を求める会長声明

2024年03月25日

東京弁護士会 会長 松田 純一

2023(令和5)年12月5日、仙台高等裁判所は、安保法制違憲訴訟の控訴審判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。本判決は、一審原告らの控訴を棄却したものの、全国で展開されている安保法制違憲訴訟の判決の中で初めて、一定の憲法判断に踏み込んだものである。
本判決は、2014(平成26)年7月1日の閣議決定(以下「7・1閣議決定」という。)による憲法解釈変更の結果が憲法9条1項の下で許される武力の行使の限界を超えると解する余地はあるとした上で、他国に対する武力攻撃の発生を契機とする武力の行使は、日本が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況が、客観的、合理的に判断して認められる場合に限られるという厳格かつ限定的な解釈の下に運用されるのであれば、変更後の解釈の下での集団的自衛権の行使の違憲性が明白であると断定することまではできないとした。
すなわち、本判決は、集団的自衛権の行使が、日本が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況が、客観的、合理的に判断して認められる場合以外に行われれば、違憲であることを意味している。ところで、日本が武力攻撃を受けていないが他国への武力攻撃によって、日本が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況は、現実には、想定しにくい。そうすると、本判決は、集団的自衛権を憲法適合的に行使することは実際には困難であるという司法の判断を暗に示している。
従って、本判決は、安全保障関連法について合憲の判断をしたものでは全くなく、むしろ、集団的自衛権の行使を制約する内容となっている。政府は、このような指摘を真摯に受け止めるべきである。
しかし、本判決が憲法保障機能を十分に発揮したといえるかについては、疑問がある。政府が、日本が武力攻撃を受けた場合と同様な深刻、重大な被害が及ぶことが明らかな状況が、客観的、合理的に判断して認められないのに、そのような状況が認められるとして集団的自衛権を行使する危険は、本判決を前提としても残る。本判決の立場からすれば、そのような形で集団的自衛権が行使された場合には、裁判所は、それは違憲であるとの判断をすることになる。しかし、日本が集団的自衛権を行使した時点で日本は戦争当事国になっているのであり、その段階で裁判所が違憲判断を下しても遅きに失する。
このように考えると、集団的自衛権の行使は憲法上許されないとの長年に亘って確立していた政府の憲法解釈を変更した7・1閣議決定及び安全保障関連法について、司法は、違憲であると明言すべきである。
そこで、当会は、改めて、裁判所に対し、違憲審査権を適切に行使し、7・1閣議決定及び安全保障関連法に対し、違憲との判断を下すことで、裁判所に期待される憲法保障機能を十全に発揮することを求める。

以上

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