「飯塚事件」第2次再審請求棄却決定に対する会長声明
2024年06月13日
東京弁護士会 会長 上田 智司
福岡地方裁判所第4刑事部(鈴嶋晋一裁判長)は、2024年6月5日、いわゆる飯塚事件の第2次再審請求について、再審請求を棄却する決定をした(以下「本決定」という。)。
飯塚事件は、1992年2月20日に、福岡県飯塚市で通学途中の小学1年生の女児2名が行方不明となり、翌21日に同県甘木市内の山中で遺体が発見された事件である。事件発生から約2年7か月後の1994年9月23日、久間三千年氏(以下「久間氏」という。)が死体遺棄の被疑事実で逮捕され、久間氏は当初から一貫して無実を主張していたが、死体遺棄、略取誘拐、殺人で起訴された。1999年9月29日に福岡地裁は久間氏に対して死刑判決を言い渡し、控訴、上告も棄却され、2006年10月8日に死刑判決が確定した。
飯塚事件は、久間氏と事件を結びつける直接証拠は全くなく、①被害女児の遺体から検出されたDNA型と久間氏のDNA型が一致したとするDNA鑑定、②誘拐現場とされる通学路上で被害女児を見たとする目撃供述、③遺留品発見現場付近で久間氏の所有車両と特徴が一致する車両を見たとする目撃供述等の情況証拠によって有罪認定がされている。
しかし、飯塚事件のDNA鑑定(MCT118型鑑定)は、再審無罪が確定した足利事件と同じ手法のものであり、もともとその信用性に疑問が呈されており、久間氏の弁護団は再審請求の準備を行っていた。2008年10月17日には足利事件でDNA再鑑定が行われる見通しであることが広く報道されたが、それにもかかわらず、同月24日に当時の森英介法務大臣が死刑執行を命令し、同月28日に久間氏に対する死刑が執行されたのである。
しかも、第1次再審請求において、科警研のDNA鑑定には写真の改ざん等の極めて重大な問題点があったことが明らかとなっている。裁判所も、「MCT118型鑑定の証明力減殺」「犯人と事件本人のMCT118型が一致したと認めることはできない」ことを認めたのである。
今般の第2次再審請求では、上記②の目撃者は、捜査機関の強引な誘導で供述調書が作成され、被害女児を見たのは事件当日ではない旨新たに証言した。また、別の目撃者は、事件当日に後部座席に2人の女児を乗せた犯行使用車両と思われる車を目撃したが、久間氏の所有車両とは特徴が異なり、運転していた人物も久間氏ではなかった旨新たに証言した。
このように、飯塚事件の主要な情況証拠は全て崩壊したのであり、本件は再審が開始されなければならなかったのである。しかし、本決定は、「警察官がこのような捏造を行うというのは考え難い」等として、上記目撃者の新証言の信用性をいずれも全面的に否定し、再審請求を棄却したのである。
白鳥決定(最一小決昭和50年5月20日)、財田川決定(最一小決昭和51年10月12日)は、新旧全証拠の総合評価を要求し、「疑わしいときは被告人の利益に」の刑事裁判の鉄則が再審請求にも適用されると判示している。しかし、本決定は新証拠のみを孤立的に評価し、しかも新証拠のみで旧証拠を完全に否定する証明力を要求するものであり、白鳥決定、財田川決定に違反し、「疑わしいときは被告人の利益に」の鉄則にも反しており、到底是認することができない。本決定は、捜査機関による証拠の捏造の可能性が指摘される袴田事件の教訓から、何も学んでいないといわざるを得ない。
また、第2次再審請求において、裁判所は検察官に対して、警察からの送致文書リストの開示を書面で勧告したところ、検察官は、裁判所にそのような勧告をする権限はないとして、その開示を拒否している。このような検察官の対応は、えん罪被害者の救済をさらに困難にするものであり、「公益の代表者」(検察庁法第4条)とはかけ離れている。再審請求手続は、もはや運用では適正化することはできず、法改正が必要不可欠であることを如実に示している。
そして、このようにえん罪の可能性が強く疑われる事件について、既に死刑が執行されているということは、上述した久間氏に対する死刑執行の経緯等も含めて、我が国の死刑制度に極めて重大な問題点を提起するものである。
当会は、飯塚事件の再審請求について引き続き注視していくとともに、えん罪被害者を速やかに救済するための再審法改正、死刑制度の廃止並びに死刑執行の停止に向けて、努力していく所存である。
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