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集団的自衛権行使容認閣議決定後10年を迎えるにあたって改めて違憲であることを確認する会長声明

2024年07月01日

東京弁護士会 会長 上田 智司

1 2014(平成26)年7月1日に、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定(以下「本閣議決定」という)が行われて、10年の歳月が流れようとしている。

同日、安倍内閣は、長年維持されてきた政府の憲法解釈を変更し、「我が国を取り巻く安全保障環境が激変した」として、「我が国と密接な関係にある他国が武力攻撃を受け」た場合に、我が国が直接武力攻撃を受けておらず、またそのおそれすらないにもかかわらず、日本が他国のために武力を行使することを可能としてしまったのである。本閣議決定にもとづいて、翌2015(平成27)年9月19日に参議院本会議で安保法制が成立したが、そこには、集団的自衛権の行使容認にとどまらず、住民保護における武器使用の容認、他国の戦闘行為に対する後方支援、武器等防護などの規定が含まれていた。これに対しては、日本弁護士連合会はもとより、当会を含む全国全ての単位弁護士会がその違憲性を指摘して、廃止を求める声明を発出した。

2 言うまでもなく、違憲の最たるものは、集団的自衛権の行使容認である。

我が国は、憲法前文及び9条において、徹底した恒久平和主義を定めており、政府も、自衛のための実力については、専守防衛・必要最小限度の実力に限定し、実力行使の要件については、1972年に、具体化する武力行使3要件が定められた。その要点は、①我が国に対する急迫不正の侵害(武力攻撃)が存在し、②これを排除するために他に適当な手段がない場合、③自衛のための必要最小限度の実力行使にとどめること、というものである。

そして、以後40年以上にわたり、歴代内閣は、集団的自衛権の行使は、我が国では、憲法9条に違反するものであり、現行憲法の下では認められない旨答弁して、この立場を堅持してきた。

しかし、安倍内閣は、上記のとおり、それまで長年に亘って積み重ねられてきた政府の憲法解釈を変更し、「我が国を取り巻く安全保障環境が激変した」として、第一要件に、「我が国と密接な関係にある他国が武力攻撃を受け」という文言を加えて、我が国が直接武力攻撃を受けておらず、またそのおそれすらないにもかかわらず、他国のために武力を行使することを可能とした。

これに対しては、歴代内閣法制局長官、最高裁判事、ほとんどの憲法学者が、違憲であり許されないと反対し、当会も反対声明を発出している。

そして、翌年成立した安保法制には、集団的自衛権行使のほかに派遣地の住民保護、武器等防護、後方支援等の任務及び武器使用を認める規定が定められているところ、これらも、紛争に事実上加担したり巻き込まれることになる危険性が強いと解されるため、戦争を放棄した憲法9条の趣旨に違反するものである。

3 内閣は閣議決定の前に、憲法学者が一人もおらず、全員が集団的自衛権 容認論者で占められていた私的諮問機関に諮問し、その後、集団的自衛権は違憲であるとしていた内閣法制局長官を更迭し、集団的自衛権容認論者を 新たな内閣法制局長官に抜擢している。

そして、衆議院では強行採決を行い、参議院の委員会では、議事録を書き換えるなど、およそ慎重に熟議したとはいえない非民主的な手続で強行されたものであり、憲法9条に反するだけでなく、憲法の基本原則である立憲 主義にも反し、憲法改正権者である国民の意思も権利も無視して成立させられたという点においても、極めて重大な問題を含むものであった。

国会での法案審議中の2015年8月には、10万人を超える人々が国会前に集結し、政府及び国会が横暴極まる方法によって憲法規範が破壊されることに抗議の声を上げたにもかかわらず、無視されて進められたことを、我々は忘れてはならない。

4 そして、その後の10年間に、政府は、安保法制に基づいて、武器等防護として米艦防護を何度も実施し、戦闘機に中距離巡航ミサイルを搭載できることを認め、ヘリ空母と称していた護衛艦「いずも」に垂直離着陸機F35Bを搭載できるように改造し、さらに防衛費を倍増し、安保関連三文書に おいて敵基地攻撃能力の保有を宣言し、防衛装備移転三原則の運用指針の変更によって多国間共同開発戦闘機の第三国輸出を可能とするなど、その「平和安全法制」の名に反する、緊張を高める武力増強政策を進行させている。

特に、尖閣諸島の領有問題で対立していた中国との間では、「台湾有事」などを意識した南西諸島の基地化を急速に進めるなどして緊張関係を高めているが、憲法の恒久平和主義との関係では、深刻に憂慮すべき事態である。

5 当会は、憲法が容認しない軍備増強や軍事同盟化に突き進むことなく、 憲法が定める武力によらない平和の実現を尊重することを強く求め、本閣議決定の違憲性を改めて確認し、これに強く反対すると共に、安保法制の廃止を求めるものである。

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