能登半島地震・能登豪雨災害及び今後発生する非常災害における被災者が弁護士等法律専門職によるサービスの提供を身近に受けられるように総合法律支援法を改正又は特例法を制定することを求める会長声明
2024年12月26日
東京弁護士会会長 上田 智司
第一東京弁護士会会長 市川 正司
第二東京弁護士会会長 日下部真治
1 2024年(令和6年)1月1日に発生した能登半島地震(以下「能登半島地震」という。)及びその後の同年9月21日から23日にかけて能登半島で発生した豪雨災害(以下「能登豪雨災害」という。)に見舞われた被災者、また、今後発生する非常災害における被災者が現在の総合法律支援法の定める1年を越えない政令で定める期間を越えてその生活の再建に当たり必要な法律相談、さらには代理援助等を受けられるようにするべく、国に、総合法律支援法を改正又は特例法を制定することを求める。
2 現行の総合法律支援法第30条第1項第4号は、政令で指定する非常災害を受けた地区において1年を越えない期間に限り、被災者が、法テラス(日本司法支援センター)が行う生活再建に必要な法律相談を資力を問わず無料で受けられることを定めている。 しかしながら、これはあくまでも法律相談の援助にとどまり、かつその期間は災害発生から最長で1年と限定されている。能登半島地震の被災者は、現在においても被災した自宅からの避難を余儀なくされ、また、その後に発生した能登豪雨災害によって生活再建にさらに時間を要する事態になっている。 能登半島地震・能登豪雨災害の被災地である石川県能登地方は司法過疎地であり、被災地弁護士会の弁護士が多く所在する地域から被災者の居住する地域に移動するまで時間がかかり、かつ、公共交通機関の整備も十分とはいえない状況である。このような状況の中、被災地弁護士会は被災者が抱える法律相談需要を満たすため非常に大きな時間的・経済的負担を強いられながら支援活動を行っている。
3 災害時法律相談の特徴として、時間の経過とともに被災者の法的ニーズが変容することが挙げられる。したがって、わずか1年という期間の経過により被災者の法的ニーズ全てが解決するということはありえない。このことは、2011年(平成23年)3月11日の東日本大震災、2016年(平成28年)4月の熊本地震、2018年(平成30年)7月の西日本豪雨災害、2019年(令和元年)10月の台風19号災害、2020年(令和2年)7月の九州北部を中心とする豪雨災害でも実証されているところである。 東京三弁護士会は、2024年(令和6年)2月5日から能登半島地震電話相談(同年9月24日以降は能登豪雨災害に関する相談も含む。)を実施し、現在も継続しているが、その相談内容も期間の経過により変容している。 すなわち、災害時法律相談の開始初期には、使える支援制度を知りたい、制度の内容を知りたいといった相談が多かったが、現在は、住家被害認定の再調査・3次調査を経て受けた判定結果についての相談等、個別に時間をかけて対応すべき相談へとその内容が変化しつつある。
4 また、能登半島地震・能登豪雨災害においては、建物が倒壊し隣の建物を損傷しているといった相隣関係の相談が突出して多く寄せられている。そのような倒壊建物は、解体が済むまで危険を排除できず、補修費用の分担等についても、そもそも損害が確定しない。石川県は2025年(令和7年)10月に公費解体終了見込みとの計画を立てているが、2024年(令和6年)10月末時点で解体見込み数に対する解体率はわずか23.9%にとどまっている。 さらに、倒壊建物が相続未登記建物であった場合は何代にもわたる相続人の調査を時間をかけて行う必要があり、仮に相続人が判明したとしても、全員の同意や協力を得ることにさらに時間を要するといった場合もあり得る(なお、こうした問題は、能登半島地震・能登豪雨災害に限られる問題ではなく、高齢化の進んだ過疎地域が今後の災害において直面する、日本全体の問題である。)。
5 その上、能登半島地震・能登豪雨災害においては複合災害、すなわち災害発生後の生活再建を妨げる災害がさらに発生したため、被災者の生活再建をより困難にかつ長期化させる事態が生じている。
6 上述のとおり、現行の総合法律支援法の定める法律相談の援助の最長期間は災害発生からわずか1年であり、被災者の法律相談需要を十分に満たすことができないことは明らかである。能登半島地震から1年を経過した2025年(令和7年)1月以降、資力基準を満たさない多くの被災者が無料法律相談を受けられないこととなり、法律相談を躊躇する被災者が多く発生することが予想される。 いうまでもないことであるが、法的問題の迅速な解決は被災地域の復興スピードにも大きく関わることである。弁護士の助言・援助を受け法的問題を解消し、迅速に生活を再建することは個々人の問題ではなく、被災者が迅速に社会復帰をすることにもつながることであり、ひいては被災地域社会の復旧・復興にもつながるものである。 なお、2024年(令和6年)12月20日、総合法律支援法第30条第1項第4号に規定する著しく異常かつ激甚な非常災害として、能登豪雨災害が、政令により指定された。しかしながら、これは2025年(令和7年)9月までの期間限定にすぎず、なおかつ、その対象地域は、地震による対象地域と完全に一致するわけではなく、能登豪雨災害の指定だけでは不十分である。
7 被災者が生活再建に必要な期間、法的支援を躊躇無く受けられるようにするべく、国がこれを整備することは国策として当然の義務である。特に能登半島地震・能登豪雨災害は、上述した地理的要因及び災害の複合性から見ても、被災者が法的問題を解決するための期間を1年間という短期間ではなく、生活再建に必要と考えられる合理的な期間まで弁護士等の法律専門職から躊躇無く法律相談を受けられるようにし、かつ、必要に応じて代理援助等も受けられるようにするべきであることは明らかである。 以上より、国に、早急に総合法律支援法を改正又は特例法を制定することを求めるものである。
印刷用PDFはこちら(PDF:104KB)