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憲法記念日にあたっての会長談話

2025年05月03日

東京弁護士会 会長 鈴木 善和

私たちの憲法、日本国憲法は、国民の権利自由を守ることとそのために国家権力を制限することとを本質とする近代立憲主義の思想に立脚し、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義の三つを基本原理とするものです。1947(昭和22)年5月3日に施行され、本日78周年を迎えました。

日本国憲法は、アジア・太平洋戦争とその敗戦の結果生まれました。本年は戦後80年でもあります。戦争の放棄と戦力不保持を定めた憲法9条は、わが国が誤って犯すに至った軍国主義的行動を反省し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、深く恒久の平和を念願して制定されたものであります。

日本国憲法は、この間に全体として国民の間に定着し、そして何よりも、わが国が自ら戦争をすることなく、再び日本を戦場とすることもなく歩んだ戦後の道のりには、大きな感慨を覚えます。

しかし、戦後80年を経て、戦争への反省と戦争の惨禍の記憶、これらが薄れ、そのことが、敗戦の結果生まれた日本国憲法を支える意志、すなわち憲法への意志を弱めることになってはいないかとの危惧を抱きます。ここに戦前、戦中の歴史に学ぶ必要を感じます。

1933(昭和8)年の滝川事件、1935(昭和10)年の天皇機関説事件、そしてその後も学問研究に対する弾圧事件が続きました。大学は自由な学問にとっての防波堤たり得ず、1937(昭和12)年の盧溝橋事件、1941(昭和16)年には遂に対米英との開戦に及び、天皇機関説事件から数えてわずか10年で1945(昭和20)年の未曾有の敗戦という結末を迎えました。諸外国の憲法には例の少ない独立の条項として日本国憲法23条に学問の自由の保障が定められたのは、このような戦前の反省に基づくものです。ところが、今深く憂慮せざるを得ないことが進行しています。それは、国会で審議中の日本学術会議法案の問題です。同法案はナショナル・アカデミーとしての日本学術会議の独立性と自律性を損なうものです。所要の修正なしでは、憲法23条に違反するものとして、到底容認できません。

わが国が近代立憲主義を学んだ欧米の国々では、今社会の分断が進んでいるとも指摘されます。勿論、他人ごとではありません。分断の元を断つとともに、異なる価値観を持つ人々が共存する努力が求められています。近代立憲主義に基づく憲法はそのための道具でもあります。

弁護士の使命は基本的人権の擁護と社会正義の実現にあります。戦後80年となる年の憲法記念日にあたり、私たち東京弁護士会は、9500名余の会員を擁する弁護士会として、主権者である国民とともに、そしてこの日本国で生活する全ての人々とともに、日本国憲法の規範力を支え、そしてその内容を社会の中でさらに実現・発展させるため、これからも不断の活動を続けて参ります。

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