被爆80年目を迎えるにあたっての会長談話
2025年08月06日
東京弁護士会 会長 鈴木 善和
1945年8月6日と9日に、広島と長崎に原子爆弾が投下されてから、今年は80年となる節目の年となります。原爆投下によって広島では約14万人、長崎では約7万4千人の方々が即死または5か月以内に亡くなり、両地域において合計15万人以上が負傷したと推計され、今なお被爆による後遺症に苦しんでいる方々がおられます。両地域においては、今年も原爆が投下された日に犠牲者を追悼し平和を祈念する式典が行われます。当会においても、あらためて原爆犠牲者とその御遺族に哀悼の意を表するとともに、世界の恒久平和と核兵器廃絶に向けた取組を続けていくことを誓います。
核兵器とは、その爆発が発生させる爆風、熱線、及び放射線等によって人間の生命・身体・財産を地域共同体ごと根絶やしにしようとするもっとも反人間的な兵器です。しかし、2025年1月現在、9か国の核兵器保有国によって約1万2千の核兵器が保有され、そのうち約4千が即使用可能な配備核弾頭とされています。2022年1月、米国、ロシア、イギリス、フランス、中国の核兵器保有5か国は「核戦争に勝者はなく、核戦争は決して戦ってはならない」と共同声明を発表しましたが、それら核兵器保有国の首脳は「核兵器の不使用」を述べることはあっても、「核兵器の廃絶」に言及することはありません。しかも、同年2月に始まったウクライナ侵攻では、核超大国ロシアのプーチン大統領は執拗に核兵器使用の威嚇を行い、また、2023年10月から始まったパレスチナ自治区ガザにおける紛争では、イスラエルの閣僚がガザでの核兵器使用を「一つの選択肢」と発言するなど、核の先制使用を禁ずる国際規範「核のタブー(the Nuclear Taboo)」すらも、薄れつつあると感じさせるのが現状です。直近では、トランプ米大統領が、米軍によるイラン核施設攻撃を広島と長崎への原爆投下と「戦争を終わらせた点では本質的に同じ」と述べました。こうした原爆投下の正当化が、今なお発せられることには強い憤りを覚えます。核兵器廃絶への道はいまだ遠いと言わざるを得ません。
一方で、昨年2024年12月、被爆者の立場から長年にわたって核兵器廃絶を訴え続けてきた日本原水爆被害者団体協議会が、ノーベル平和賞を受賞しました。その受賞理由は「"ヒバクシャ(被爆者)"として知られる広島と長崎の生存者たちによる草の根の運動で、核兵器のない世界を実現するための努力と、核兵器が二度と使われてはならないことを目撃証言を通じて示してきた」というものでした。同協議会の田中煕巳代表が、オスロでの授賞式において行った記念講演は「人類が核兵器で自滅することのないよう、核兵器も戦争もない世界の人間社会を求めて共に頑張りましょう。」と結ばれています。世界の市民に対するこの呼びかけに当会も応じたいと思います。
当会は、憲法前文の平和的生存権、憲法9条の戦争放棄、戦力不保持の理念に基づいて、平和を愛し核兵器廃絶を目指す世界の市民と連帯しながら、戦争における唯一の被爆国の法律専門家団体として、核兵器廃絶を訴え続けていきます。
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