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少年審判公表に関する会長声明

2004年10月06日

東京弁護士会 会長 岩井 重一

 さる9月28日、近時マスコミに注目されているいわゆる新宿事件といわれる触法少年の少年審判に関し、保護処分決定前の審判手続の内容がマスコミ各社により報道され、9月30日には少年に対する審判決定の要旨がマスコミ各社に対して公表された。
 少年審判は、発達途上にある少年の立ち直りを目指して行われるので、少年をさらし者にせず、その情操を保護し、社会復帰を妨げないために、非公開とされている。裁判官、家庭裁判所調査官などが職務上知りえた少年の非行、要保護性に関する事実の秘密を守る義務があるのは当然のことであり、ことに少年事件については、非公開の制度趣旨からも、厳に遵守されなければならない。
(保護処分決定前の少年事件の審理内容の開示について)
 上記9月28日の報道の内容は、少年が審判過程で非行事実につき否認に転じたこと、否認の内容やその時期、否認に転じた理由などに関するものであり、審判内容の核心部分である。しかもその背景事情等は捨象されており、また、裁判所が認定した事実ではなく、審判などにおける少年の主張が取り上げられている。このような内容の公表は、少年本人や保護者・付添人から了解を得ることなくなされている。
 少年審判途中でのこのような断片的な情報の公表は、一般市民に少年に対する悪印象を与えたり、少年の受け入れ先の確保や被害者との関係修復を阻害する虞があるなど、少年の社会復帰を徒に困難にし、また、少年や保護者を萎縮させ、少年審判の機能を低下させ、少年の地域社会で健やかに成長する権利を著しく侵害しかねないものであり、極めて重大な問題であって看過しえない。
 少年審判手続が非公開であることから、上記報道の前提となる情報は、東京家庭裁判所によって開示されたものと考えざるを得ない事情がある。
 当会は、東京家庭裁判所において、このような事態が二度と生じないよう十分な配慮がなされることを強く求める。
(審判要旨の公表について)
 当会は、かねてより、審判決定要旨の公表については、上記審判非公開の趣旨に照らし、少年を特定する情報を除外し、少年の成長発達権を阻害しないよう配慮するとともに、手続的に、付添人の同意ないし意見を聞き、それを十分に尊重すること等を要件とするなどして、必要性が極めて大きいためやむをえず審判要旨を公開する場合について、公開の基準を慎重に法定化することが必要であると主張してきた。今回の公表が審判の結果を開示する制度の法制化がなされないまま、そして付添人の意見や同意を求めることなくなされたことは極めて遺憾である。
 当会は、少年事件に関する情報の公表や被害者への開示の問題について、国民的議論に基づき公表・開示の基準や手続きの立法的な解決を慎重に行うよう指摘してきたところであるが、重ねて慎重な立法的な解決を図ることを求めるとともに、かかる法的基準もなく、付添人の意見を求める手続きもなされない中でのこのような審判決定要旨の公表が行われないよう、関係者の配慮を求めるものである。