東京弁護士会

クルド系トルコ人難民の強制送還に対する会長声明

2005年02月24日

東京弁護士会 会長 岩井 重一

日本政府は、2005年1月18日、UNHCR(国連難民高等弁務官)事務所が同事務所規程に基づいて認定した難民(いわゆるマンデート難民)であるトルコ国籍クルド人家族7名のうち、父及び長男の2名(以下それぞれ「クルド人父」「クルド人長男」という。)をトルコに送還した。同送還手続は、1月17日仮放免の期間更新のために東京入国管理局に出頭した父子を収容し、翌日朝には成田空港に連行して午後2時10分の航空機に搭乗させるという前例のない早急さで行われたものであった。
当会は、ここに、政府に対し、UNHCRが難民と認定した者を送還しないという従来の慣行に立ち戻るよう求めるとともに、送還されたクルド人父子の日本に残された家族5名(母親および4人の子どもたち)をはじめとするマンデート難民については、少なくとも退去強制令書発付処分取消の裁判が確定するまで、収容、送還することのないよう、強く求めるものである。その理由は以下のとおりである。

(1)送還されたクルド人父は、来日後、一貫して法務大臣に対して難民認定を求めており、今回の送還行為の根拠となった退去強制令書が2002年1月に発付された後にも、同人の来日後の事情を理由として難民認定申請を行っており、この申請に対する法務大臣による不認定処分はなされたものの、異議申出に対して、その理由がない旨の裁決は送還の前日である2005年1月17日まで告知されることがなかった。クルド人長男についても、難民不認定処分に対する異議申出についての裁決は、同日まで告知されることがなかった。UNHCRがクルド人父に対して上記のとおりUNHCR事務所規程に基づく難民の認定を行ったのも、本人の来日後の事情が迫害のおそれを発生させるとの判断に基づいたものであったのであり、この父子の難民認定申請は相当の根拠を有するものであった。にもかかわらず、裁決の告知の翌日に送還してしまうということは、この父子に対する難民不認定処分の適法性について司法審査を求める機会を事実上、剥奪してしまうものであったといわなければならない。 
(2)さらに、今回のクルド人父の送還の基礎となった退去強制令書発付処分の適法性についても、最高裁判所に対して上告・上告受理申立をしていたものであって、未だ裁判係属中であった。また、クルド人長男の送還の基礎となった退去強制令書発付処分の適法性については、告知の翌日に送還されてしまったため、事実上、全く司法審査の機会を与えられることはなかった。
(3)また、UNHCR事務所規程の定める難民の定義は、日本国も加入している難民の地位に関する条約(以下、「難民条約」という。)上の難民の定義と同じであり、今回の送還は、UNHCRがトルコに送還された場合には迫害を受けるおそれがあると認めた者をあえて迫害を受ける危険性のある領域に送還する行為(ルフールマン)であり、難民条約33条1項に違反する可能性がある。これまで、日本政府は、UNHCRが難民と認定した者に対しては、退去強制令書が発付されていても、また難民条約上の難民ではないという日本政府の判断が確定していても、これを送還したことはなかった。今回の送還はこのような、従来の慣行からの憂慮するべき逸脱であるといわなければならない。
(4)ことにUNHCR日本韓国地域事務所は、昨年来、このクルド人家族7名を日本国以外の第三国に定住させるための方策を種々講じている最中であったとのことであり、そのことは、あらかじめ日本政府にも伝えられていたものであるから、彼らをこのような早急さで送還する必要性があったとは到底考えがたいものである。

今回のクルド人父子の強制送還は、難民不認定処分についても、退去強制令書発付処分についても、裁判を受ける権利を奪う行為というほかない。
また、難民条約は、UNHCRの難民条約の履行を監督する権限を承認しており、日本国もまた、難民条約の締約国として、これを前提としてUNHCRに対する協力義務を負っている(難民条約35条)。そして、昨年の出入国管理及び難民認定法の改正についての国会審議の際にも、参議院法務委員会において、「出入国管理及び難民認定法に定める諸手続に携わる際の運用や解釈に当たっては、難民関連の諸条約に関する国連難民高等弁務官事務所の解釈や勧告等を十分尊重する」べきである旨の附帯決議がなされたところである。
今回のクルド人父子の強制送還後の本年2月7日に、やはりUNHCRより難民と認定され裁判係属中であった別のトルコ国籍クルド人男性が、送還を前提として東京入国管理局に収容されたという事案が発生していることに鑑みても、近時の入管・難民認定実務がUNHCRとの十分な協議と相互理解の上にたって適正に運用されているものとは到底評価できず、上記附帯決議の趣旨にも反する状況にあると言わざるを得ない。

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