東京弁護士会

「ゲートキーパー」立法(弁護士による警察への依頼者密告制度)に反対する声明

2006年03月14日

東京弁護士会 会長 柳瀬 康治

 政府は、2005年11月17日、資金洗浄対策やテロ資金対策のため、弁護士等に、依頼者の行う金融・不動産売買等の取引がこれらの資金によるものと「疑わしい取引」であるときに警察庁に置かれる金融情報機関(FIU)に通報義務を課す制度、いわば弁護士等を資金洗浄・テロ資金の門番とする「ゲートキーパー」法案を2007年の通常国会に提出することを決定し、立法化をめざしている。
しかし、弁護士による警察庁に対するこのような通報制度(警察への依頼者密告制度)は、市民が弁護士の守秘義務のもとで助言等を受ける権利を侵害するものであり、市民の弁護士に対する信頼を破壊するものである。取材における秘匿権を例に出すまでもなく、守秘義務は信頼関係の源である。自分の知らないうちに、自分の取引が「疑わしい」というだけで依頼した弁護士により警察に密告され、警察・公安等から監視されるとすれば、市民は安心して弁護士に相談し依頼することはできず、適切な助言等も受けることはできない。
また、弁護士による警察への依頼者密告制度は、弁護士の存立基盤である国家権力からの独立性を危うくし、弁護士に対する市民の信頼を損ね、弁護士制度ひいては司法制度の根幹をゆるがすものである。
弁護士は、刑事弁護人として如何なる国家権力からも独立して市民の権利を擁護する使命・職責を負っており、警察・捜査機関とは制度的に対峙する関係にある。その弁護士が依頼者を常に「疑わしい」かどうかの視点で監視して警察に密告する義務を負うこととなれば、到底国家権力からの独立性は保たれず、弁護士の使命・職責を果たすことは著しく困難となる。このような密告制度は、適正な刑事手続の保障を損ねるものであり、司法制度の根幹を揺るがせるものである。
この弁護士の警察への依頼者密告制度は、FATF(OECDの加盟国等で構成されている政府間機関)がテロ資金、資金洗浄対策として出した「40の勧告」を日本国内で実施しようとするものであるが、諸外国の弁護士会もこの勧告の国内法化に反対している。テロ対策を優先課題としているアメリカにおいても、弁護士が依頼者の秘密を守ることは当然との認識の下、立法化の動きは見られない。カナダではいったん法制化されたものの、弁護士への適用は憲法に反するとの裁判所の決定があり、弁護士への適用は撤回されている。また、ベルギーの行政裁判所は「被告人が弁護士に開示した内容が他に漏らされる可能性があれば、信頼関係を構築・維持することは到底不可能である」との判断を下している。
もとより、資金洗浄やテロを防止するための対策は重要であり、われわれ弁護士も、資金洗浄やテロ資金のための資金移動や資金作りのような違法行為を察知したときは、それを事前に止めるべく助言、説得するなど未然防止につとめることは当然である。
「ゲートキーパー」立法は、国民と弁護士との信頼関係を損ねる結果、かえって弁護士が違法行為を止めるよう助言、説得する機会を奪い、資金洗浄対策、テロ資金対策という立法目的に反する結果となりかねないものである。
以上のとおり、当会は、弁護士の警察への依頼者密告制度、「ゲートキーパー」立法に強く反対するものである。

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