東京弁護士会

個人情報保護法改正案に反対する会長声明

2006年03月31日

東京弁護士会 会長 柳瀬 康治

 自由民主党は、個人情報保護法の改正案を、今国会提出をめざして準備中という。改正案の内容は、「業務に従事している者または従事していた者らは、業務に関して知り得た個人データの内容をみだりに他人に知らせ、または不当な目的に利用してはならない。」(22条の2)との規定を新設し、これを受けて、「業務に従事している者または従事していた者が、その業務に関して知り得た個人データを自己または第三者の不正な利益を図る目的で提供したときは、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。」(55条の2)との罰則規定を設けるとのことである。
その改正理由は、個人情報保護法が、情報漏えいの罰則の対象を個人情報取扱事業者に限定しているため、罰則の対象とならない従業員らによる営利目的の情報流出事件が続発したので、このような個人情報漏洩防止措置のためには、分野横断的な罰則規定を設けることが必要だというにある。
しかしながら、一般法たる個人情報保護法に一律に分野横断的な罰則規定を設けることには、以下の問題がある。
「個人データ」には、プライバシー等の法的保護の必要の高い情報以外の情報も含まれるところ、これらのデータを第三者に提供することに対し一律横断的な刑罰の適用をするとすれば、人は情報を他人に提供することに対し、著しく慎重にならざるを得ず、それは、情報の自由な流通、それに基づく各人の自由な意思決定の保障という民主主義社会の基盤を損うことになりかねない。
このことは、たとえ法の構成要件において、「自己または第三者の不正な利益を図る目的で」との限定をなし、「55条の2の規定の適用に当たっては、表現の自由、学問の自由、信教の自由及び政治活動の自由を不当に妨げることのないように配慮しなければならない。」との配慮規定(55条の2の2)を設けたとしても同じである。一般法たる個人情報保護法にこのような罰則規定を入れた場合、処罰範囲が不明確にならざるを得ず、個人情報の漏洩を口実とした警察による市民生活への広範な介入の危険性も生まれてくるからである。
また、現行法のもとで、個人情報取扱事業者に対して刑罰の適用がなされるのは、主務大臣の命令に従わなかった場合に限定されているのに対し、改正案では、従業員に対して、主務大臣の命令等を経ないまま直接、刑罰の適用がなされることになる。これは、本来の被害者たる個人情報の主体の保護より企業利益を擁護する発想に基づくものといわざるを得ない。
個人情報保護法に関しては、現在、法の構造に由来し、あるいは過剰反応等に基づいて、個人情報を第三者に提供することに対し国民等が過度に慎重になり、その結果、民主主義社会の基盤である情報の自由な流通が妨げられ、「匿名社会」化が進行しているとの指摘、憂慮が各方面からなされている。改正案は、この傾向、弊害をさらに一層推し進めるであろう。
よって、個人情報保護法に一律に分野横断的な罰則規定を設けることは、反対である。

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