東京弁護士会

少年法等「改正」法案に反対する会長声明

2005年05月19日

東京弁護士会 会長 柳瀬 康治

政府は,2005年3月1日,「少年法等の一部を改正する法律案」(以下「『改正』法案」という)を閣議決定し,同日付けで今国会に提出した。
「改正」法案は,(1)警察の調査権限の拡大強化,(2)少年院送致年齢の下限撤廃,(3)保護観察中の遵守事項を守らない少年に対する施設収容処分など,児童相談所の調査機能や児童自立支援施設の「育てなおし」機能を大きく後退させ,保護観察制度の根底を揺るがすものであることから,当会は,以下のとおり,国選付添人制度の拡充の点を除いて,反対の意思を表明する。

1 触法少年・ぐ犯少年に対する警察の調査権限の付与
触法少年,とくに重大な事件を犯した触法少年の多くは,被虐待体験を含む複雑な生育歴を有しており,少年自身が人格を傷つけられてきた経験を有している。そのような少年に対しては,福祉的・教育的な観点から,少年が非行に至る背景を探り,ケアをすることが必要である。したがって,従来,触法少年に対しては,警察の捜査ないし調査権限を認めず,児童相談所の調査に委ねてきた。
そして,児童相談所が,少年に対して適切な福祉的働き掛けをする前提として,家庭裁判所の調査・審判を経ることが望ましいと判断した場合には,家庭裁判所に対して審判を求めていた。家庭裁判所は,審判を行う上で必要と判断すれば,自ら調査をし,または他の機関に対し援助・協力をさせることができるのであって,その方法により,少年の処分を決めるために必要な事実の解明ができるはずである。これまで,補充調査を行ってもなお事件の真相が解明されなかったというような事例は法制審少年法部会における審議の中でも報告されていない。
かえって,警察が少年や関係者から,自白の強要等の不適切な取調べを行ったことにより,真相解明が阻害されるという例も多い。
また,「改正」法案は,「ぐ犯少年である疑いのある者」も調査対象としているが,警察による社会の監視を強め,教育・福祉の後退につながる制度であって,国民の人権との衝突を招来し,極めて危険である。けだし,2003年中に「喫煙」や「深夜はいかい」などの不良行為で警察に補導された少年は130万人いるところ,同年の10歳から19歳までの人口は1,311万人であるから,10人に1人が警察から声を掛けられている現状にある。「改正」法案は,このような監視社会化を公認するものであって危険である。

2 少年院送致年齢の下限の撤廃
「改正」法案は,少年院送致年齢の下限を撤廃し,法的には,小学生はおろか幼稚園児でも少年院に送致できるような内容で「厳罰」化を進めている。
少年院における集団的矯正処遇は,少年に規範を遵守する精神を育てることを目的としていると言われるが,年少少年にふさわしい処遇とは言えない。触法少年,とりわけ重大な事件を犯すに至った少年ほど,被虐待体験を含む複雑な生育歴を有していることが多く,そのため,人格形成が未熟で対人関係を築く能力に欠けており,規範を理解して受け容れるところまで育っていない子どもが多い。したがって,再非行防止のためには,まずは温かい擬似家庭の中で「育てなおし」をすることが必要なのである。生育歴の中で自らが傷ついた体験を持っている少年は,自らが一人の人格として大切にされる経験を経て初めて,自分の犯した罪の重大性に向き合い,贖罪の気持ちをも持つことができるようになる。
なお,神戸事件の少年を受け容れた医療少年院では,通常の少年院教育を施したのではなく,児童自立支援施設の手法を取り入れて「育てなおし」を行ったと言われている。それほど児童自立支援施設の処遇は評価されるべきものであるにもかかわらず,なぜ,逆に少年院送致年齢の下限を撤廃する必要があるのか,その立法事実は,法制審少年法部会においても明らかにされなかった。

3 遵守事項違反を理由とする少年院送致
「改正」法案が,少年にいったん保護観察処分を言い渡した後に,新たな非行事実がないのに,単に遵守事項違反を理由として保護観察処分を取り消して少年院送致処分を言い渡すとしているのは,憲法が禁止する「二重処罰」に当たり,許されないものである。
遵守事項を守らないことが,新たな「ぐ犯事由」といえる場合には,現行法上,ぐ犯通告制度(犯罪者予防更生法42条)があり,少年院送致することも可能である。しかし,非行を犯すおそれがあるとまではいえないのに,単に,約束を守らなかったというだけで,少年院送致するというのは行き過ぎというほかない。
このような制度を導入することは,少年と保護司との間の信頼関係に基づいて行われるべき保護観察制度の変容をもたらす。保護司は,長期的な視点で,少年のトライ・アンド・エラー(試行錯誤)を見守り,立ち直りに向けた少年自身の努力を助けながら,更生へと導いていく。そのためには,少年が保護司を信頼して,不都合なことや,ときに遵守事項違反を犯してしまった事実をも率直に話せる関係を築くことが必要である。遵守事項を守らなかったら施設に収容されると脅されるような関係の中では,保護司と少年との関係は表面的なものとなり,真に少年の立ち直りを図ることができなくなってしまう。それは,今まで無償のボランティアである保護司に支えられて,概ね良い成果を誇ってきたわが国の保護観察制度の瓦解につながる。

4 国選付添人制度の拡充
なお,「改正」法案は,極めて限られた範囲ではあるが,従前の検察官関与事件と切り離して,国費で付添人を付する制度を設けた点は評価できる。
しかし,当会は,平成16年10月より「当番付添人制度(=全件付添人制度)」を発足させており,その目指すところは,少年鑑別所に収容された少年の全員に国費による付添人選任権を保障することであるから,「改正」法案は未だ不十分であり,国選付添人制度のいっそうの拡充を求めるものである。

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