東京弁護士会

教育基本法「改正」法案に反対し、廃案を求める会長声明

2006年05月18日

東京弁護士会 会長 吉岡 桂輔

 政府は、2006年4月28日、教育基本法改正法案(以下「本法案」という。)を閣議決定し、国会に提出した。今国会での法案の成立に向けて、衆議院においては、教育基本法に関する特別委員会が設置され、審議が開始されようとしている。
しかし本法案は、以下に述べるとおり、教育の理念を変容させ、国家が、教育の名のもとに、ひとりひとりの子どもや大人の内心に踏み込み、一定の価値観を強制し、教育の管理統制を推し進めることを可能にする。それは日本国憲法ならびに経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(以下「社会権規約」という。)、国連子どもの権利条約(以下「条約」という。)に違反する重大な問題をはらみ、現在の子どもたちが抱える困難な状況を解決することにはならず、却ってこれを深刻化させる危険をもつものである。

  • 1 教育については、憲法26条、社会権規約13条、条約2条、28条に定められているとおり、個人の権利・子どもの権利である。国家は、この権利が実現されるよう、心身の障害による差別を含むいかなる差別のない、教育の機会均等を保障しなければならない。教育の目的は、条約29条に基づき、人権および基本的自由の尊重、自他の国の文化・言語・価値観等の尊重、相互理解・平和・寛容・平等の精神に従う自由な社会における責任ある生活等を、育成するものであらねばならない。そのためには、憲法に定められた思想信条・良心・宗教・学問の自由の保障、親や教員による教育の自由の保障が不可欠である。
    現行の教育基本法は、こうした国際的、普遍的理念の実現を十分に可能にさせる基盤となっている。
  • 2 しかし、本法案は、前文、2条、5条、6条などに、「公共の精神」「伝統の尊重」「我が国の未来を切り拓く」「社会において自立的に生きる」などの文言を用いて、教育を、個人の権利・子どもの権利保障というよりも、国家にとって都合のよい人材育成ができる制度に変容させようとしている。
    なかでも2条5項は、教育の目的として「我が国と郷土を愛する態度を養う」と規定しており、学校での子どもへの指導、評価を通じて、個人の内心に踏み込み、国家にとって都合のよい愛国心を強制することが懸念される。
    現実に東京都においては、教育委員会の通達に基づき、校長が教員に対し「日の丸掲揚」「君が代斉唱」時の起立、発声を義務づけ、これに従わない教員を処分する事態が続いており、さらに本年3月13日には、生徒への起立・斉唱指導を義務づける通達が発せられた。まさに「国を愛する態度」を、教員への強制を通じて、子どもたちにまで強制しようとする措置である。本法案は、このような教育現場での「愛国心」強制の実態を、正当化させるものであって、思想信条・良心の自由を保障する憲法に違反する。
  • 3 また、本法案は、10条を変更することにより、「教育は不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接責任を負って行われなければならない」という理念を消失させている。そして、本法案16条、17条に、教育が「法律の定めるところにより行なわれるべきもの」とし、政府が「教育振興基本計画」を定めるものとしている。これは、旭川学テ最高裁大法廷判決が述べる、国による「教育の機会均等の確保等の目的のために必要かつ合理的な基準」の設定の範囲を超えて、国家が法律により教育に介入し、統制することができる根拠を設けるものとなっている。本法案が新設しようとしている、教員の養成、研修(6条)、家庭教育(10条)、幼児教育(11条)、学校・家庭・地域住民の連携協力(13条)等の規定と合わせて読めば、国家が国民の教育全般を管理し、統制することができる制度をめざしていることが危惧される。
    教育が国家により管理統制されることの危険は、戦前の軍国主義教育の苦い経験により明らかである。そればかりでなく、現在の教育現場の困難な状況は、当会の子どもの人権救済センターに寄せられる相談に現れているとおり、教育行政による管理統制が進み、いじめ、虐待などに苦悩する子どもたちの声に耳が傾けられず、教師や子どもたちの人間としての権利が保障されないことにこそ、起因しているのである。本法案は、このような現実を十分に検討したものとは到底いえず、子どもたちを取り巻く状況の改善をめざすどころか、これをさらに深刻化させるものといわざるを得ない。
  • 4 本法案が提出されるまで、教育基本法「改正」に関する与党協議会での審議状況及び議論結果については、十分な情報が開示されていないため、上記のような重大な問題をはらむにもかかわらず、国民の間での十分な議論も行なわれていない。準憲法的な性格をもつ重要な基本法を、拙速に、「改正」するなどということは、我が国の憲法の理念をなし崩し的に崩壊させる危険があるものである。
  • 5 よって、当会としては、本法案に強く反対し、廃案を求めるものである。
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