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原発事故による避難者に対する住宅無償提供終了に反対する会長声明

2015年05月27日

 

東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭
第一東京弁護士会 会長 岡 正晶
第二東京弁護士会 会長 三宅 弘

 東日本大震災以来、被災者に対する無償住宅提供は、災害救助法に基づき1年ごとに期限が延長されてきたところ、本年5月17日、朝日新聞において、福島第一原発事故により政府からの避難指示を受けずに避難した自主避難者について、福島県が避難先の住宅の無償提供を2016年度(平成28年度)で終える方針を固めたとの報道がなされた。
 仮に当該報道が事実だとすれば、原発事故による区域外避難者への住宅提供は2017年(平成29年)4月以降もはや延長されず、打ち切られるということになる。
 自主避難者は、政府による避難指示区域外から避難したということで「自主」と呼ばれるが、実際自ら望んでわざわざ避難生活を選んだ者はいない。放射能による健康被害に不安を持ち、避難生活を選択せざるを得なかったという点では、避難指示区域からの避難者と本来変わるものではない。そして、自主避難者の多くは、災害救助法に基づく無償住宅の提供を各自治体から受けて生活している。その正確な数は公式には発表されていないが、福島市、郡山市、いわき市などから約2万1000人が、また既に避難指示が解除されている旧避難指示区域・旧緊急時避難準備区域からの約2万人が、現在も避難を続けているとされている(2015年1月28日内閣府原子力被災者生活支援チーム公表資料)。東京都内にも2015年4月16日現在7424人の避難者がいるとされているが(復興庁調べ)、この中にも数多く自主避難者がおり、災害救助法に基づく無償住宅の提供を受けている。
 自主避難者の中には、仕事を失った者、子どもを転校させた者、家族が別れて生活している者などが多数存在する。その精神的・経済的負担は測りしれない。しかしながら、東京電力から受けている賠償額は不十分であり、生活費増加分や交通費すら十分に支払われていないのが現状である。そのような中で、自治体から無償で提供されている住宅は避難生活を続けるための重要な支えとなっている。
 仮に無償住宅の提供の打ち切りがなされ、福島県への帰還をすることになれば、避難先での仕事、学校生活、その他ようやく築きあげた人間関係を捨て去ることになるが、それは容易なことではない。一方で、避難生活の継続を選択すれば、家賃負担がのしかかり、たちまち経済的困窮に立たされる可能性が高い。このような事態を招くことは絶対にあってはならない。
 自主避難者に対しても幸福追求権(憲法13条)、生存権(憲法25条)に鑑みて、将来的な生活支援のための計画が立てられなければならない。
 被災市町村の一部には「無償提供を続ける限り、帰還が進まない」との考えを持っている関係者もいるとのことであるが、帰還するか否かは被害者が自由に選択するべきものである。被害当事者の意向を無視し、苦境に立たせることは復興政策ではなく、「避難する権利」などの人権侵害に他ならない。
 よって、福島県は区域外避難者への住宅無償提供を打ち切るという方針を直ちに撤回するべきである。また、政府は被害者の意向や生活実態に応じた立法措置を早急に講じるべきである。

以上

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