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法務省入国管理局「在留期間『5年』を決定する際の考え方(案)」に関する会長声明

2012年06月15日

東京弁護士会 会長 斎藤 義房

法務省入国管理局は、本年7月9日に新しい在留管理制度が導入されるに当たり、多くの在留資格で最長「5年」の在留期間が新設されることになったことを受け、今般、「在留期間『5年』を決定する際の考え方(案)」(以下「法務省案」という。)を公表し、意見募集を行っている。

この在留期間「5年」の新設は、入管法の改正によって、従前は最長3年とされていた在留期間の上限を最長5年とすることにより、本来、外国人の日本における地位の安定に資することを目的とするものである。

しかしながら、法務省案は、在留期間「5年」を決定するに当たり、多くの場合に従来の永住許可以上に詳細かつ厳しい条件を課すものとなっており、この在留期間「5年」を決定されることが永住許可の要件とされた場合には、従来は永住許可がされていた多くの事案で永住許可を取得できなくなるなど、日本に滞在する外国人の地位を著しく不安定にするおそれがある。

まず、法務省案は、申請人が新設された入管法上の届出義務を履行していることを求めているが、これらの届出は、いずれも届出事由が生じたときから14日以内という短期間のうちに行うものとされており、軽微な届出の懈怠をもって在留期間「5年」の決定を拒否するとすれば、外国人への不利益は著しいものとなる。

また、法務省案は、多くの在留資格について、学齢期の子を持つ親及びその子について、子が小学校又は中学校に通学していることを必要としているが、在日外国人の子どもの不就学の問題は、教育現場における日本語を母語としない子どもの受入れの体制が必ずしも十分でないことなどにも原因があるものであって、子どもの不就学の事実をもって親や子の在留資格の決定に不利益を課すことは相当でない。

さらに、法務省案は、多くの在留資格について、主たる生計維持者が所得税及び住民税を納付していることを求め、いわゆる非課税所得者を除外しているが、シングルマザー世帯や複数の子どもを持つ世帯など、従前であれば永住許可を得られるはずの外国人の多くが、在留資格「5年」を決定されることが不可能となり、ひいては、永住許可を受けられないことになるおそれがある。

これら以外にも、法務省案には、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」の婚姻後の同居期間が3年を超えることを必要としていること、「定住者」の一部に一定以上の日本語能力を求めていること、「投資・経営」、「技術」、「人文知識・国際業務」等の所属機関の規模の要件を定めていることなど、いずれも従来の永住許可以上に厳しい条件を課すものとなっている。

当会は、平成23年11月24日付けの法務省入国管理局に対する意見書(https://www.toben.or.jp/message/file/public_comment111124.pdf)において、在留期間「5年」の新設に当たり、運用によっては、特に、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」の在留資格を有する者について、従来よりも永住許可がされにくくなるおそれがあることから、そのようなことのないようすべきである旨の意見を述べていたところである。

以上のことから、法務省案は、外国人の日本における地位の安定のために在留期間の上限を最長5年とした入管法の改正の趣旨に反し、日本を生活の基盤とする多くの外国人の法的地位を不安定なものにするおそれがあるものと言わざるを得ない。

よって、当会は、法務省入国管理局に対し、在留期間「5年」を決定するに当たり、従来の永住許可以上に厳しい条件を課すことのないよう求めるとともに、在留期間「5年」が決定されていることを永住許可の要件としないよう求めるものである。