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防衛庁立川宿舎イラク反戦ビラ投函事件高裁判決に関する会長声明

2005年12月26日

東京弁護士会 会長 柳瀬 康治

 2005年12月9日、東京高裁第3刑事部は、防衛庁立川宿舎イラク反戦ビラ投函事件について、これを無罪とした東京地裁八王子支部刑事第3部判決を破棄し、被告人ら3名に対し、「正当な理由なく人の看守する邸宅に侵入したものである」として各罰金刑の言渡しを行った。
地裁判決は、「ビラの投函自体は、憲法21条1項の保障する政治的表現活動の一態様であり、民主主義社会の根幹を成すもの」であるとして政治的表現活動の自由の優越的地位にも言及し、被告人らの行動は住居侵入罪の構成要件に該当するが、動機・態様・生じた法益侵害の要素にてらし可罰的違法性がないとした。
他方、高裁判決は、地裁判決がビラの投函に優越的地位を認めている点を批判して,「しかしながら,表現の自由が尊重されるべきことはそのとおりであるにしても,そのために直ちに他人の権利を侵害してよいことにはならない」「何人も,他人が管理する場所に無断で侵入して勝手に自己の政治的意見を発表する権利はない」と判示して,被告人らの行動の可罰的違法性を肯認した。
本件で投函されたビラの記載内容は、政府の自衛隊のイラク派遣政策を批判したものである。民主主義社会において表現の自由とりわけ政治的表現の自由は、大きな意義を有する。地裁判決の「ビラの記載内容は・・・自衛隊のイラク派遣という政府の政策を批判するものであるから・・・不当な意図を有していると解することは根拠に乏しい」「ビラの投函自体は・・・政治的表現活動の一態様であり・・・商業的宣伝ビラの投函に比して、いわゆる優越的地位が認められる」との判示も、この理を認めたものと解される。しかるに、高裁判決は政治的表現活動の自由の意義をふまえた被害法益保護などとの比較考量に乏しいと言わざるを得ない。
また、ビラ投函行為は、マスメディアのような意思伝達手段を持たない市民にとって表現の自由に基づいて自己の意見を他に伝達する重要な手段となっている。2005年5月14日、当会と日本弁護士連合会及び第一・第二東京弁護士会共催の憲法記念行事において、「今、問われる表現の自由、憲法21条―テレビからビラまで」と題してシンポジウムを行ってきたのは、このことを明らかにするためである。高裁判決は、この点についての理解も乏しいと言わざるを得ない。
ビラ投函に関連しては、本件以後も起訴される事案が続いている。当会は、こうした高裁判決が民主主義社会の根幹をなす表現の自由を萎縮させる結果をもたらすことを憂慮し、本声明を発するものである。