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国旗国歌強制の懲戒処分を取り消した東京高裁判決に関する声明

2011年03月14日

東京弁護士会 会長 若旅 一夫

2011年3月10日,東京高等裁判所第2民事部(大橋寛明裁判長)は,東京都の公立学校での教職員への国旗国歌の強制をめぐる2件の訴訟で,それぞれ一審判決を変更して合計169名の懲戒処分を取り消す判決を言い渡した。
判決は,東京都教育委員会が2003年10月23日に発した通達およびこれに基づく職務命令の違憲性・違法性までは認めなかったものの,控訴人らが上記通達に基づく職務命令に従わずに受けた懲戒処分について,「本件各処分は,社会通念上著しく妥当を欠き,裁量権を逸脱し,又はこれを濫用したものというべきであると判断する」と判示した。国旗国歌については人によって多様な考え方があり,国旗に対して起立し国歌を歌う行為を個人に義務づけることは,思想・良心,信仰の自由との関係で許されないことである。この点,本判決は,「これを強制することについては,憲法19条の思想及び良心の自由の保障との関係において,問題があるといわざるを得ない」と指摘し,「控訴人らも,1個人としてならば,起立を義務づけられることはないというべきである」と判示して,思想・良心の自由に基づく国歌を歌わない個人の自由を明確に確認した。
そして,判決は,公立学校の教職員といえども,懲戒処分まで科して強制するのは行き過ぎであるという一般市民の健全な感覚に沿った判断をしたものであって,司法の良識を示した判決として,高く評価することができる。
ところで,当会はこれまでも,2004年意見書および2006年会長声明をもって,上記通達による教職員に対する国旗国歌の強制が,教職員の思想・良心の自由を侵害するだけでなく,児童生徒にも心理的強制を加え,その思想・良心の自由の侵害をも招くものであるとして,同通達に基づく教職員に対する懲戒処分や厳重注意等を行わないよう意見を表明してきた。
そこで,当会は,本判決を契機に,あらためて東京都および東京都教育委員会に対して,国旗に向かって起立し国歌を歌うことの教職員に対する義務づけおよび懲戒処分をいっさい取り止めるよう求めるものである。

2011年3月14日
東京弁護士会
会 長 若 旅 一 夫