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武器輸出三原則等緩和に反対する声明

2012年02月09日

東京弁護士会 会長 竹之内 明

政府は2011(平成23)年12月27日安全保障会議(議長・野田佳彦内閣総理大臣)を開き、原則としてすべての武器や関連技術の輸出を禁じた武器輸出三原則等を緩和する「防衛装備品等の海外移転に関する基準」(以下「新基準」)を決め、藤村修内閣官房長官の談話として発表した。

言うまでもなく、武器輸出三原則は、政府が1967(昭和42)年に(1)共産圏諸国(2)国連決議で禁止された国(3)国際紛争の当事国やそのおそれのある国に対する武器輸出を禁止する旨表明して政策として確立され、さらに1976(昭和51)年に日本製の銃が紛争地域に出回ってしまったという事件を背景に国会審議の結果、「平和国家としての我が国の立場から、国際紛争等を助長することを回避する」ため、憲法の精神に則り、武器輸出禁止の範囲を上記対象地域以外にも拡大し、かつ武器製造関連設備についても「武器」に準じて全面的に禁輸とした政策である。この原則は「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とした憲法9条の理念に則った国是として世界に高らかに掲げられてきた。

今回の決定は、長く我が国の国是とされてきたこの政策を国会審議も経ずに抜本的・包括的に見直して緩和しようとするものであり、看過しがたい政策変更であって、立憲主義にも反する。

新基準は、(1)米国や友好国との防衛装備品等の共同開発・生産と(2)平和貢献、国際協力などのための防衛装備品等の供与を包括的に可能にしようとするものである。しかし、(1)は防衛産業の維持・高度化に配慮し、また高性能化する戦闘機など装備品のコスト削減をめざすもので、防衛産業や防衛省の論理に基づき我が国の先進技術の軍事転用を認めることにつながり、諸外国とりわけ極東アジアの軍事的緊張関係を高める懸念がある。また、(2)も、国際テロ・海賊問題への対処も供与の目的とされており、戦闘地域化したイラク及び活動範囲を限定せずにソマリア沖に自衛隊を派遣した過去の経緯に照らせば、供与目的の拡張的運用が行われる危険があり、やはり平和憲法に抵触するおそれが極めて高い。更に、新基準は、防衛装備品等の供与後の目的外使用や第三国移転については我が国政府の事前同意を求めるとしているが、供与後の目的外使用や第三国移転を規制する手段はなく、紛争地域への流出のおそれは否定できない。

また、武器輸出三原則等については、一昨年8月に内閣総理大臣の一諮問機関である「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(いわゆる「新安保懇」)が「動的防衛力への転換」の一要素として見直しを指摘していたものの、同年12月に政府が正式に閣議決定した「新防衛計画大綱」においては敢えて積極的には見直されていなかった。にもかかわらず、年末の政治的空白時期に国民的な議論を経ないまま、突如、このような重大な国是の転換を図った点も看過しがたい。

以上、今回の武器輸出三原則等の緩和は、その内実において、武力の放棄を謳う憲法9条の下、戦後営々と築いてきた平和国家日本に対する世界の信頼を損ね、ひいては憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義」を裏切るものであると同時に、その手続において、民主的意思決定過程を無視しており、立憲主義に反するものである。

よって、当会は、憲法の定める平和主義の擁護を使命とするものとして、武器輸出三原則等の緩和に、強く抗議し、その撤回を求める。