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違法ダウンロードに対する刑事罰の導入に反対する会長声明

2012年06月19日

東京弁護士会 会長 斎藤 義房

音楽等の違法ダウンロードについて刑事罰(2年以下の懲役または200万円以下の罰金)を設ける規定を含む著作権法改正案が、本年6月15日に衆議院で可決され、現在参議院で審議中である。

2009年の著作権法改正において、同法30条1項3号が新設され、権利者に無許諾でアップロードされたものと知りながら、権利者に無断で音楽、映像をダウンロードする行為が違法になり、差止及び損害賠償請求の対象となったが、刑事罰の導入については、私生活に及ぼす影響が大きいとして見送られていた。一般社団法人日本レコード協会が昨年8月に発表した報告書によると、違法にダウンロードされている音楽関連ファイルの総数は年間12億ファイルに上ると推計されている。また、近時の技術進歩により瞬時に大容量のダウンロードが可能となっている。このような違法ダウンロードの蔓延を抑止するためには、まずは違法アップロードの検挙が必要であるところ、日本国外のプロバイダが利用されるなど、その摘発には困難な側面もある。したがって、権利者に無許諾でアップロードされたものと知りながら、権利者に無断で音楽、映像をダウンロードする行為は許されないことをさらに周知徹底することは、著作物の違法な流通を抑止し、正規の著作権ビジネスの成長と権利者への適切な利益還元を促進するために必要なところである。 

しかしながら、違法ダウンロードに刑事罰を科することには、大きな問題がある。

そもそも、わずか3年前の著作権法改正の提案理由では、違法ダウンロードには罰則を科さないことを明言していた。また、文化庁は、3年前の改正直後に「権利者団体においては,今回の改正を受けて,違法なダウンロードが適切でないということを広報し,違法行為を助長するような行為に対しての警告に努め,利用者への損害賠償請求をいきなり行うことは,基本的にはありません。」と述べ、改正法の民事制裁についてすら慎重に運用すると約束していたことを想起すべきである。

さらに、今回の改正案の内容について言えば、違法ダウンロードの対象となる行為は「録音又は録画」に限られていることから主に音楽及び映画の著作物が対象とされており、同様に被害を受けている他の著作物の保護との均衡を欠いている。また、私的領域が広く捜査の対象となること、捜査にあたり恣意的摘発の恐れがあること、インターネットの利用に対する萎縮的効果が懸念され、とりわけインターネットの利用者に青少年が多いことからその影響が強く危惧されること、教育や損害賠償請求など刑事罰と比べて人権をより制限しない方法で違法ダウンロードの蔓延を抑止できる余地があること等も指摘されている。刑事罰化を導入する前に、まずはこれらの論点を十分に検討する必要がある。

今回、審議が極めて不十分なまま衆議院本会議で可決されたが、当会は、参議院において、今回の著作権法案のうち音楽等の違法ダウンロードに対する刑事罰規定を削除したうえで、さらに十分な審議を尽くすことを強く求めるものである。