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商品先物取引法の施行規則改正による不招請勧誘禁止の大幅緩和に反対する会長声明

2014年04月22日

東京弁護士会 会長 髙中 正彦

 経済産業省、農林水産省は、本年4月5日、商品先物取引法施行規則(規則102条の2)改正案をパブリックコメントに付したが、その改正案ではハイリスク取引の経験者に対する勧誘以外に、熟慮期間等を設定した契約の勧誘(顧客が70歳未満であること、基本契約から7日間を経過し、かつ、取引金額が証拠金の額を上回るおそれのあることについての顧客の理解度等を書面により確認した場合に限る)を不招請勧誘の禁止の適用除外とすることにしている。
 不招請勧誘(顧客の要請によらない訪問・電話勧誘)の禁止規定は、商品先物取引による深刻な被害が長年にわたり発生し続け、業者に対する他の行為規制では沈静化しなかったため、2011(平成23)年1月施行の商品先物取引法で導入された。この導入により消費者被害は激減しており、不招請勧誘禁止が消費者被害防止の決め手であることが認められた。
 今般、経済産業省、農林水産省が、施行規則の不招請勧誘禁止の除外事由を大幅に緩和するなら、再び被害を多発させることになるのは火を見るより明らかである。
 とくに、改正案のうち、70歳未満の個人顧客に対し、7日間の熟慮期間を設け、取引のリスク性に対する理解度の確認さえ行えば、不招請勧誘禁止の例外として認めるとの部分は、70歳未満に対する不招請勧誘をほぼ全面解禁するに等しいものであって、当会は到底見過ごすことができない。熟慮期間を設けた契約は、かつての海外商品市場における先物取引の受託等に関する法律に14日間の熟慮期間を設ける類似規定があり、また、理解度等を書面で確認する方法も、過去に類似の例をいくつも置きながらいずれも顧客保護のために全く機能しなかった。

 そもそも不招請勧誘の一番の問題点は、商品先物取引の知識がなく、関心もない者に対し、専門業者の従業員が、その仕組みや危険性について十分な説明を行わず、独特の甘言を用いて取引に引き込むことにある。勧誘を受け取引に引き込まれた者は、従業員の甘言を信じ込んでいるので、7日間程度の期間では翻意の可能性は低く、またいかなる書面であろうと業者の従業員の指示に従って作成してしまう。この程度の障壁を設けてみても、不招請勧誘の持つ問題点を払拭することはできないのであって、今回の適用除外事由を大幅に拡大する施行規則の改正案は、実質的には70歳未満に対する不招請勧誘の解禁に等しいものである。
 また、今回の改正案は省令の改正についてであるが、政令で指定した取引について不招請勧誘を禁ずる商品先物取引法第214条第9号は、「委託者等の保護に欠け、又は取引の公正を害するおそれのない行為として主務省令で定める行為を除く」として、省令による除外事由については「委託者等の保護に欠けないこと」「取引の公正を害するおそれのない行為であること」という一定の枠をはめている。今回の熟慮期間の設定、理解度の書面による確認のいずれもが、過去の経験に照らし委託者等を保護するのに実効性がないものである以上、それをもって不招請勧誘禁止の適用除外とする施行規則は、商品先物取引法の趣旨に適合せず、同法の委任の範囲を逸脱した違法なものである。

 なお、今回、商品先物取引業者等の監督の基本的な指針も同時に改正するとして、改正案が示されているが、その改正案も、いずれも過去において自主規制として定められ、あるいはガイドラインに記載されていたが、多くの潜脱事案が被害事例として報告されており、その有効性にははなはだ疑問がある。

 当会は、過去において一貫して商品先物取引被害を撲滅すべく会長声明を出すなどの活動をしてきたところであるが、消費者保護の観点から、今般の経済産業省・農林水産省の商品先物取引法の施行規則改正による不招請勧誘禁止の大幅緩和に強く反対する。