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少年事件の実名等の報道に強く抗議し、重ねて少年法61条の遵守を求める会長声明

2015年02月06日

東京弁護士会 会長 髙中 正彦

 株式会社新潮社は、「週刊新潮」2015年2月12日号において、名古屋市で女性が殺害された事件の被疑者として逮捕された少年の実名及び顔写真を掲載した。
 同社のこのような記事は、少年のとき犯した罪について氏名、年齢、職業、住所、容ぼう等、本人と推知することができるような記事または写真の掲載を禁止した少年法第61条に反し、許されない。
 少年法は、第1条において少年の「健全な育成」、すなわち、少年の成長発達権の保障の理念を掲げている。そして、推知報道がされると、少年のプライバシー権や成長発達権を侵害し、ひいては少年の更生と社会復帰を阻害するおそれが強いことから、同法第61条は、少年の推知報道を、事件の区別なく一律に禁止している。
 わが国も批准している子どもの権利に関する条約は、第16条で、いかなる子どもも私生活、家族等に対して恣意的にもしくは不法に干渉され、または名誉及び信用を不当に攻撃されてはならず、不法な干渉や攻撃に対し法律の保護を受ける権利があると規定している。同条約第40条第2項(b)(ⅶ)も、刑罰法規を犯したと申し立てられたすべての子どもの私生活が手続のすべての段階において十分に尊重されるべきものと規定している。さらに、少年司法運営に関する国連最低基準規則第8条も、少年のプライバシーの権利はあらゆる段階で尊重されなければならず、原則として少年の特定に結びつくいかなる情報も公表してはならないとしている。
 新潮社は、1997年7月、同年6月に神戸市須磨区で発生した小学生殺人事件の嫌疑をかけられた14歳の少年の顔写真を掲載したことがある。これに対して当会は、少年法の理念及び少年の人権保障の観点から抗議声明を出し、少年法第61条を遵守するよう強く要請した。しかし、同社は、2005年、2006年及び2013年にも少年事件に関する記事の中で実名及び顔写真を掲載し、当会と日本弁護士連合会はそのたびに抗議声明を出し、少年法第61条の遵守を求めた。それにもかかわらず、再び明白な違法行為が繰り返されたことは極めて遺憾である。
 なお、新潮社は、上記「週刊新潮」の記事において、2000年2月29日の大阪高裁の判決を挙げて、少年の実名報道が認められる場合があると指摘し、実名と写真掲載を正当化している。しかし、同判決は、出版社が少年に対し民事上の損害賠償責任を負わない場合があることを指摘したに過ぎない。むしろ、同判決は、出版物の発行者は少年法第61条の趣旨を尊重し、良心と良識をもって自己抑制することが必要であると述べているのであって、この判決をもって実名と写真掲載を正当化することはできない。
 当会は、新潮社に対し、同社の行為が少年法及び子どもの権利条約に反し、少年のプライバシー権及び成長発達権を著しく侵害するものとして強く抗議するとともに、今後、同社が少年の人権を侵害する報道を二度と繰り返さないことを求める。
 また、すべての出版・報道機関に対して、少年法を遵守し、少年及び関係者の人権の保障に留意して報道を行うことを要望する。

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