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NHK連続テレビ小説『虎に翼』美術のこだわりに迫る!

NHK連続テレビ小説『虎に翼』(NHK総合【毎週月曜~土曜】午前8時~8時15分ほか)の主人公「佐田(猪爪)寅子」のモデルは、日本初の女性弁護士の一人「三淵嘉子」さん。三淵さんは、明治大学専門部女子部法科で学んだ後に弁護士となり、戦後は裁判官となりました。

2024年4月から放送されている物語は、寅子が戦後設立された家庭裁判所の判事補として活躍し始めたところで、ちょうど折り返し地点。これからは新潟地家裁三条支部での判事としての活躍がはじまります。
本作品は史実を基にしたエピソードも数多く散りばめられており、本作品をきっかけに法曹界や憲法・法律に興味を持って下さる方が増えれば我々弁護士としても大変嬉しいです。

本作品に関しては、会報誌「LIBRA」で制作統括の尾崎裕和さん、多岐川幸四郎役の滝藤賢一さんにお話を伺いましたが、今回は『虎に翼』美術デザイナーの日髙一平さん、川名隆さんにお話を伺いました。どのようにして本作品のリアリティを高めていったのか、こだわりが詰まったお話を是非ご覧ください!                bentora_tenkai015_sns.png
                             

                                               
                                                 東京弁護士会公式キャラクター
                                                    「べんとらー」

<戦前の裁判所について>

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                                   ©NHK

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― 戦前の裁判所は法廷の雛壇の上に裁判官と検察官が並んでいますよね。我々も戦前の裁判所は見たことがないので、知識としては聞いていましたが、映像で見ると感動して。質感も戦前はこういう感じだったのかなと。すごくクラシックな感じがしたのですが、この辺りの工夫を教えていただけますか。

桐蔭学園に移築復元されている旧横浜地方裁判所の法廷や、かつて裁判所として使用されていた名古屋市市政資料館などをいくつか見ながら当時の法廷について勉強しました。今とは違って、裁判官と検察官が壇上に並んでいて、弁護人は下に居て対等ではありません。時代劇で見る「お白州」のような位置関係で行っていたというのは法律考証の方からも聞きましたので、時代の描き方として取り入れました。
法廷の中の様式についても、桐蔭学園などを見ると、今よりもデコレーションが効いていて、とても立派で気圧されるような空間です。今はもっとシンプルで、あんまり圧迫感がないように配慮されているのかなという印象を受けます。戦前の法廷は威圧感があり特別な空間に見えるようになっていて、それが時代とともにシンプルになっていくようにしています。
法廷のセット一つでも時代が移り変わっていって、検察官が壇の下に降りて弁護士と対等に話をするような並びになるということを、劇中で説明がなくても、美術で表現できたらと思います。

― 映像で傍聴席側から見たときに威圧感を感じました。

そうなんです。段差も意図的に今の法廷より高くしています。昔の法廷は実際高いところもあったので、裁判官と検察官が上から見下ろしている風に見えたらいいのかなと。今は目線がそれほど大きく差が付かないように配慮されていると思いますが、昔は違ったということが印象的だったのでそのように美術で表現しています。

― 戦前、女性は弁護士になれるようになっても裁判官や検察官になれなかったのも官民の格差があったからですが、それが画としてはっきりわかる場面でした。検察官と弁護人は本来対等な当事者であるべきなのに、この位置関係で裁判をやるのは嫌ですね。

そうですよね。昔の方が職権構造が顕著に表れているように思います。

― 戦前の法廷が残っているところがあっても、ロケではなくセットにしたことには理由があるのでしょうか。

セットにするかロケにするかは、収録のスケジュールや撮影条件と相談しながら決めています。たとえば、歴史的価値が高いとどうしても撮影に気を使います。また、ドラマの題材上、法廷は何度も登場しますが、その都度スタッフや機材の移動に費用をかけてというのはあまり現実的ではありません。朝ドラは毎日収録があり、放送も毎日あるので、効率的にたくさん撮れるようにしなければいけません。
たしかにロケで実際の場所で撮影したほうが迫力も出ますが、一方でスタジオのセットの場合であれば、セットの壁を取り外したり自由に動かせるので、監督が狙いたいカメラアングルで撮ることができるという利点もあります。

― 天井や床や壁も全部作っているんですよね。

壁などはベースとなる規定のサイズのものがパーツとしてあります。例えば大法廷を小法廷にするとなったら、パーツ内で縮めたり、サイズを変えたりと柔軟に調整することができます。その都度、壁ごと作るというよりは、壁に装飾をつけて前回と違う部屋に見せたり、模様を変えたりなど、同じ壁のベースで変幻自在に変えています。

― 証言台も、今と比べると、随分装飾がありますよね。

そうですね。馬蹄形というのは確か旧横浜地裁を見学した際に見たものです。今は普通の演台みたいな形だと思いますけど、馬蹄形はクラシックでいいなと思いました。檻を連想させるような形でもあったので、最初の頃はこれで、表現としてのちのち箱形にしていこうと考えています。装飾は威厳を示すためにあったということもお聞きしました。裁判官の後ろも結構立派な装飾がついていました。

― 法廷について他にこだわった点はありますか。

今まで外光が入っている法廷はあまり見たことがなくて、調べると日本でも幾つかはあるようですがメジャーではないですよね。ただ、ドラマの中では、外光の入り方によって、裁判の経過時間が視聴者に伝わるように、特に弁護士さんの後ろ側に窓を作って光を入れられるようにしました。
照明も、蛍光灯は昭和30年ぐらいにならないと普及してこないので、それまで多かった吊りの天井照明にしています。シャンデリアは豪華ですが、空間の威厳を出すために使っていて、柱に照明がついているのも装飾的な意味合いです。
裁判所の表や、玄関から法廷に入るまでの廊下は名古屋市の市政資料館で撮影しています。法廷の中に入ったらセット、としているので、実際の建物の荘厳さは市政資料館に合わせています。
床についてですが、旧横浜地裁や旧名古屋地裁が "リノリウム"という素材を使っていました。板張りの方が立派に見えそうだとつい思ってしまいますが、その当時は最先端の素材だったとの事です。当時、威厳のある建物は、新しいものをふんだんに使っていたようなので、ドラマでもあえてそのままリノリウムにしています。

― シャンデリアとの対比がすごいですね。

長野県松本市にも古い裁判所が残っているのですが、そこも他は板張りなのに、判事の部屋や壇上だけは床がリノリウムでした。今見ると不思議ですが、昔はそちらが最先端で、価格も高かったのでしょうね。

― やはり実物を一番参考にされるんですか。

そうですね。文献も調べたりはしましたが、昔の法廷については文献に残っているものが少なく、数は少ないですが実物で残っているものから調べて、要素として取り入れています。

<カフェ燈台・轟法律事務所について>

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                                   ©NHK

― カフェー燈台、戦後は轟法律事務所ですが、お芝居の舞台のように感じました。

当時のカフェーはいわゆる今の喫茶じゃなくて、どっちかというと風俗的な意味合いが強く、女給さんが席についてくれるというところで、店内も不思議な雰囲気の内装だったようです。桜の枝が壁にさしてあったり、商店街の飾りのようなものが天井から吊ってあるかと思えば、シャンデリアが吊ってあったり、ぼんぼりが飾ってあったり。すごく奇抜な見た目ですよね。それが当時の特徴だったようです。
半地下にフロアがある設定ですが、下界に降りてきたみたいな感じで、明かりも上から入っていて、舞台上の装置みたいなイメージになっていますね。戦後、再会した轟とよねが話すシーンでは、舞台としての狙いはなかったんですけど、出来上がった映像では、上から明かりが差していて、かっこいい映像になっていました。今は轟法律事務所になっていますけど、金銭的に余裕もなく、戦後すぐは家具を新しく買える時代ではないので、いろいろとかき集めて、何とか事務所の体裁を整えているというつくりにしています。

― 一つの建物を作る時というのは、間取りをイメージされるんですか。

そうですね。例えば1つのビルの中にいろんなお店が入っている設定のときは、他のお店の設計まではもちろんしませんが、全体の大きさと位置関係は演出のイメージとしては必要です。どのぐらいの広さであるかとか、今、映っているところが一部なのか全部なのかということは、一応設計上は考えていますね。
あと、セット外でも、こっちに行ったら何があります、ということはセットに書いています。こっちにトイレがあるとか。実際トイレは作ってないんですけどね(笑)。こっちの方に行ったら風呂があるとかは、匂わせで一応描いておきますね。

― 今は壁に憲法14条が書いてあって、弁護士的にはグッとくるんですが、実際に書いてあるんですか。

書いています。よねが書いた設定なんですけど、あれも監督からかなりやり直しをさせられました。もう何回も書きましたね(笑)。そんなに丁寧に書いてあるはずがないとか、垂れが欲しいとか、書き殴り過ぎても違う!みたいなところがあって、最終的にはあのぐらいの、よねが魂を込めて書いた、という書き方になっています。

― カフェ時代から轟法律事務所に変わって、部屋の印象としてはちょっと落ち着いた感じがしますが。

実はほぼ変えてなくて。本当にこのへんてこりんな飾りをやめたぐらいですね。全部外して、事務所として使える椅子と新しく追加した打ち合わせ用のテーブルを並べたっていうだけなので、箱としてはいじってないですね。戦争を経て、壁の一部分が焦げている表現などを施してはいます。
燈台のステンドグラスはこのセットの魂みたいなものと考えていて、今後ずっと象徴として見せていきます。よねが暗闇を照らす光なんでしょうね。

― 装飾がなくなるだけであんなに印象が変わるんですね。

セット内に何もない状態から、装飾さんが小道具を飾り終えた瞬間、おおー、と感動する事は多いです。セットという箱だけだと、そっけないな、とか大丈夫かなと感じることはあっても、装飾さんが飾ってくれることによって、セットとしてちゃんと動き出すという感じがするので、装飾さんの力は大きいです。

― 小物の方とか装飾の方とか細かく分かれているんですか。

とても細かく分業化しています。壁とか床とか天井を大道具、簡単に動かせるものは小道具ですが、その他にも役者が持っている物は持ち道具、カバンとか眼鏡とか靴とかですね。服装を考える衣装さん、メイクさん。文字や壁の造作や経年の表現をしてくれる造画さん。例えばタイルは結構素材として使っているんですけど、実は本物のタイルを張っているわけでは無く、造画さんに描いてもらっています。少し凹凸があるベースに描いてもらうことで、昔のタイル風に見せたり、レンガ風に見せたりするんですよ。

<雲野法律事務所について>

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                                   ©NHK

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― いかにも弁護士の事務所だなという風に見ていて思いました。

当時の弁護士事務所についてはなかなか資料が見つからなかったので、今の弁護士事務所から想像してデザインしました。今、事務所で使われているものを、当時のものに置き換えて飾っているという感じです。

― 机の上に書類や本があふれて雑然としている感じは、今もありそうです。

雲野さんは仕事一筋で家にも帰らずに、お金のことも気にせずにやっているというキャラクターを表現したいと担当のデザイナーが言っていたので、お風呂に行くためのタライがあったり、毛布があったり、使い古した手拭いを飾っています(笑)。映像では見えないですけど、ここに住んでるんじゃないかな、という要素はちりばめています。

― ちょっと狭そうな感じも、お金に頓着しない雲野さんのイメージにあっている感じがしました。

有楽町の雑居ビルの半地下の設定です。ここも上から差す光の演出ができるような事務所を目指しました。

― 光はかなり重要なんですね。

照明さん次第で本当に変わってくるので、効果的に光を入れられるような仕掛けは、できることなら毎回してあげたいなと思っています。
カフェ燈台もそうですが、ちょっと暗いところに光が差す、みたいなことはみんな意識してやっています。日の当たらないところに光を当てるようなイメージです。

― とてもリアルに見えるんですが、書籍はどの程度本物なんですか。

すべて作りものです。基本的には背表紙や表紙を作るだけですが、演出上どうしても開いて中身を撮影する場合は、当時のフォーマットを参考にして中身も作っています。六法全書は1冊、しっかりと丸まる作っています。当時の六法を探して、再現をしていますね。

― 映るのはほんの一部でも、空白があったらおかしいですものね。

特に手書きの時代だと手で書かなきゃいけないので、そこはきちんと制作スタッフが書いております。

<日比谷公園、御茶ノ水の街並みなどについて>

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                                   ©NHK

― 日比谷公園のベンチが印象的に使われているなと思うんですが、時代の移り変わりなど工夫されているところはありますか。

実は日比谷公園は表現するのが難しかったです。スタジオに広い公園は作れないので、日比谷公会堂の裏口をイメージしたタイルの壁を作り、その近くのベンチっていう設定です。上野の街などは空襲で焼けてしまって、様変わりしたところが多いですが、日比谷公会堂は実際に空襲でも焼けなかったそうです。
公園のベンチのセットは、あえて戦後を感じさせていません。ただ傷痍軍人がハモニカを吹いてお金を集めていたり、往来する人たちで時代の流れが見えるといいかなと思っています。

― 御茶ノ水の街並みも全く違和感がありませんでしたが、どのように撮影されたのでしょうか。

御茶ノ水の街並みはオープンセットで撮っています。そこに明律大学や御茶ノ水の街をイメージした外観を作って撮影しています。当時の地図を見ながら色々設定を決めたんですけど、YWCAについては、三淵嘉子さんのエピソードでもYWCAのプールで泳いでから教室に通っていたというものがありました。第1週で印象的だった御茶ノ水の橋は、都内に四谷から移築された橋が残っているので、そこで撮っています。もちろん当時と現在では周辺に建っている建物などは違うので、昔の街並みや御茶ノ水のニコライ堂がある風景は合成しています。

<戦後の裁判所について>

― 戦後の家庭裁判所を作るに際して、工夫されたことはありますか。

裁判所の建築の成り立ちについての資料があるのですが、そこに家庭裁判所は温かみがある、温かみを感じられる裁判所にしたいということが書かれていました。窓も大きく作られていて、光がいっぱい入るようになっていた、とあったので、セットもそのようにしています。
窓をなるべく大きくして光がたくさん入るようにして、腰壁(壁の腰までの部分)を明るい色調にしたりして、明るく表現するようにしています。あとは三淵さんが新潟地家裁に赴任された際、史実で裁判所に絵を掛けたり花を飾ったりしたと伺ったので、それも取り入れたりしています。花を飾ったり、壁に絵を掛けたり、威圧的にならないようにというのは意識して作っています。

― 確かに明るいですよね。

壁や家具の木目の色を明るくしています。ただ、戦後なのであまり高い材料を使ってないということと、威圧感を与えないつくりとして、ベニヤを使用しています。戦前とはちょっと違う風に見せたいという意図です。

― 家庭裁判所の待合室には今も植物などが飾ってありますが、ずっと続いているんですね。これから新しく地方裁判所の場面も出てくると思いますが、そちらは今の法廷と同じような感じになるのでしょうか。

現在の法廷とこれまで描いてきたゴシックな法廷の中間ぐらいですかね。だんだんシンプルになっていって、照明も吊りじゃなくて蛍光灯になったり、配置も今に近いものになっていっています。

― 中間も楽しみです。今後の展開にも目が離せないですね。本日は、ありがとうございました。

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