東京弁護士会

〈ロースクールについての中間意見書〉
新しい法曹養成制度の構築~

平成12年 3月21日
東京弁護士会

第1章【法科大学院(ロースクール)設置の必要性】

新たな法曹養成機関設置の必要性に付いて、以下の第1、第2の2つの考え方がある。

第1 法曹一元制度の実現を前提とする考え方

1.司法研修所の評価
現行の法曹養成制度の中核は、司法研修所にあり、司法試験で法曹としての素養のあるものを絞り込み、その素養のあるものに対してのみ、最高裁判所に設置された司法研修所(司法研修所規程1条)において実務の要諦の基礎を教育する制度となっている。
これまで、裁判官、検察官だけでなく、在野法曹たる弁護士を目指す者もその司法研修所で研修を受けることについて、弁護士側から否定的な見解が提唱されたことはほとんど無い。むしろ、日弁連は、平成9年10月に開催された総会において、現行修習制度の堅持が、大きな争点となり、最終的に従前の修習期間より半年間の短縮を了承する形となったものの、基本的には、司法研修所の枠組みの中で、多方面からの影響に極力対処しようとする立場に立っている。
元々司法研修所は、昭和14年、判検事の研究及び司法官試補の修習に関する事項を所管するために司法省の中に設置された「司法研究所」を母体として発足し、現在でも、司法研修所は、法曹三者共通の人材給源たる司法修習生の人格識見の向上、司法に関する理論と実務の研究または習得を指導することを目的とするだけでなく、裁判官をも指導するための最高裁判所の管轄下にある機関である。修習生の修習カリキュラムは、弁護士が業務上必要な書類の作成だけでなく、当然、判決書や起訴状の起案を含む技術的な指導も含めて行われている。 
この機関が昭和22年12月の第1期修習生の修習開始以来、法曹三者共通の養成機関として弁護士からも支持されてきたのは、裁判官・検察官についてキャリアシステムがとられている中にあって、法曹三者間の資格の平等を担保する制度として「統一・公平・平等」を基本理念とする統一司法修習制度が重要な機能を果たしていたからである。裁判所法は、司法修習生の修習を終えたものを直ちに判事補として採用しており(同法43条)、検察官も同様であり(検察庁法18条1項1号)、採用後の法曹三者の人事交流は「例外的な現象」である。特にその中でも終局的な判断者である裁判官の登用についてキャリアシステムが原則的に維持される限り、その意義は今後も失われないといえよう。
ただ、司法研修所は、司法修習生の中から裁判官、検察官の官職への任官をリクルートし、残りのものが弁護士となる機能を結果的に営んできた制度である事実を看過してはならない。そのような意味で司法研修所がキャリアシステム、官僚制の維持に事実上大きな貢献をしてきたことを素直に認める必要がある。

2.法曹一元のもとの法曹養成制度
ところで、これまで50年あまりに亘り、司法修習制度の基本的な部分を変えることなく維持してきたが、日弁連が従前から提唱しながら(司法改革ビジョン第1総論3、第2各論1(1)参照)従来最も実現困難な改革の一つと見られていた法曹一元制度(非官僚裁判官制度)は、今春成立した司法制度改革審議会設置法の付帯決議にも、与野党の合意を得て、法曹一元を含む重要な論点を十分論議することが掲げられ、保岡興治衆議院議員(自民党)も、その議論の重要性を認識している旨の発言をし(自由と正義平成11年(1999年)1月号66頁)、司法制度改革審議会も本年11月9日の会議において、法曹一元制度についての検討を開始する認識で一致したと言われるなど、その実現可能性は、戦後の司法制度発足以来最大と言っても過言ではない状況となった。
法曹一元制度(非官僚裁判官制度)が実現化へのタイムスケジュールにのる情勢の下では現行の法学部、司法試験、そして最高裁判所の一機関と位置付けられてきた司法研修所での司法修習で構成される現在の法曹養成制度の枠組みでの対応は困難であると考えられる。そこで、今までの司法修習制度にとらわれない法曹養成制度が提案されなければならない。
弁護士自治を貫徹し、その構成員を裁判官の給源とする法曹一元制度を提唱する以上、後進の選抜・指導・育成のために主体的に監督・運営を行っていくあらたな制度を策定する責任は、当然、弁護士会が自ら負わなければならないからである。
一方、多様な人材を法曹界に登用する必要がある。そのためには学問の自由の保障された大学教育との密接な連携が必要となろう。また、各地域の要請に配慮した教育を行うことにも対応していく必要がある。そして、このような法曹教育を行うためには、各地域に根ざした地方単位弁護士会の積極的役割が期待される。さらに弁護士会は、今以上に法曹養成過程に関わっていくことが必要であり、司法試験合格後だけでなく、司法試験受験前にも積極的関与が要請される。このような弁護士会が主体的に関与し、且つ、司法試験受験前に位置づけられる新たな法曹養成のための専門的な教育機関の設置は必須である。これを「法科大学院」ないし「ロースクール」と呼ぶか否かは別論として、官僚裁判官制度を前提としない法曹全体のあらたな人材育成機関(以下、本稿において「ロースクール」という。)を設置することが正に今、社会的な要請ともなっているのである。
これまで、「ロースクール」については、経済団体や自由民主党等から、司法制度改革に関連して、その設置を標榜した意見が表明されたことがあり、最近では、文部省の特化大学院構想とこれに沿う各大学の法科大学院構想の提言が花盛りの感がある。それらの提言は、必ずしもその全体像は明らかではないが、提言の目的、理念及び動機において少なくとも法曹一元制度の実現を視野に置いたものは無く、大学自身による新しい法曹養成システムの構築を目指すとは言うものの、単なる法学部ないし大学院改革に矮小化されているきらいがあり、質の高い実務法曹の養成の観点からの検討と提言としては満足できるものとは言い難い。また、従前「行政国家」と言われたわが国が閉塞感にとらわれている一方で、司法国家と言われるアメリカ合衆国の法曹養成制度の中核を「ロースクール」が担っているために、憧憬の念を込めて語っていると思われるものもあり、わが国における存在意義、設立理念、運営方法などが総合的具体的に検討されているとは言い難い。よって、司法制度改革審議会においてもロースクールの問題が検討の対象になるに至った現実を前にするとき、弁護士会としては、早急且つ積極的に、法曹一元制度の実現を目指すにふさわしい法律専門教育機関を構想し、法曹の質の維持向上に資するような「中身のある」提案をし、ロースクール問題についての議論をリードして行く立場に置かれているといえよう。この意味で、先に発表された第二東京弁護士会の提言は、われわれの意見と内容を異にするものではあるが、敬意を表するものである。

第2 現在の法曹養成制度が抱える問題点を改善するために必要であるとする考え方

 これまでの検討を踏まえて整理すると、現行の法曹養成制度においては次の諸点を問題点として指摘することが出来る。

1.法の支配の徹底化

 (1) あらゆる分野への法曹の供給
近年、政官財の各界で噴出した不祥事は、法による公正公平な処理が民主国家となって50年を経てもなお、わが国で不徹底であることを露呈した。そこで従前の法曹の活動範囲であった法律事務所・司法関係機関にとどまらず、立法・行政・企業へ広く国民生活の隅々にまで、「法の支配」すなわち紛争を法に基づいて解するための人材を供給する教育機関が必要である。

 (2) 法曹が最低限習得していなければならない能力(ミニマムスタンダード)の向上
法曹養成課程に、大学学部4年間(ロースクールには大学3年終了時から編入を認めることも考えられる)と司法研修所に加え、ロースクールが創設されることにより、養成期間が長くなり、習得可能な範囲も広がるものと考えられる。現行の司法試験の受験科目・試験問題は、論文試験ですらわずか6科目12問であり、択一式は3科目、口述式においては民事・刑事・憲法のわずか3系統に限られ、法曹選抜の方法として貧弱である。日々複雑化・拡大化の様相を示す法律家に対する需要に応えられる人材を、今後とも選別し続けていけるとは言い切れない。
今般司法試験受験科目から消滅することとなった行政法を初めとする旧法律選択科目および税法、実務法曹が日常業務で遭遇するその他の諸法についても基礎的理解を深める教育機関が存在することは、法曹全体の力量の底上げ及び行政官に対するカウンターパワーとしての存在意義を強めることにつながると考えられる。

 (3) 法曹以外の法律関係業務従事者のレベル向上
前項で述べたミニマムスタンダードの向上を確実にするためには、ロースクール卒業までの学内試験・授業を厳格にする必要がある。このため、一定の比率で単位未修得の中退者がでることが予想される。しかし、ロースクールを中退したとしても、学部卒業後、一定の法律専門教育を受けていたのであり、単なる法学部卒業生より、法的思考力を身につけた者を社会に輩出することとなり、法曹以外の法律関係業務従事者のレベルアップを期待できる。

2.学者と実務家との交流促進

 実務家は、ますます複雑化する一般市民の法務需要に接しつつ、これを理論的に昇華させるだけの時間的余裕がない者が多く、他方、多くの学者は理論を極める時間と素材を持ちながら日々一般市民の法務需要に接することはない。
理系の分野に於ける「産学協同」と同趣旨で、法学の分野で「学」「実」それぞれの長所短所を補い、新たな法創造を探求する研究機関として、また、理論教育と職業教育の融合を図る機関として、次世代の法創造の目的でインフラストラクチャーとしての機能を持ち、実務家と学者とが協力しながら後進の指導に当たる教育研究機関が必要である。
ロースクールの教授陣を学者と実務家の両者で構成し、相互の交流を図ることにより、学者が、実務家の経験に触れて、批判的検討がより実践的になり、他方、実務家が学者の見解を取り入れて、理論を実践化することがこれまで以上に容易になる可能性がある。

3.選抜制度に関する問題の改善

(1) 選抜方法の多段階化(一回型選抜制から段階的選抜制へ) 
現行の法曹への関門は司法試験と研修所終了時のいわゆる2回試験であるが、後者は、実質的には選抜の機能を有しておらず、99%司法試験(主として択一式・論文式・口述式からなる2次試験)に選抜機能の負担がかかっているのが現状である。すなわち、司法試験は、広く門戸を開放した開かれた公正な試験制度ではあるものの、いわば、一発勝負のペーパーテストを中心とする選抜試験となっている。
制度的にはわずか1回のペーパーテストを中心とした試験で、法曹としての適格者を選抜しえているか疑問なしとしない。そこで、一定期間時間をかけて選抜教育し、一般市民より高度な倫理観、高潔さを備えているかなどの法曹としての適格性をスクリーンしていく教育機関が必要である。

(2) 社会の高度化への対応
前述の通り司法試験で試している問題は、「司法試験の若年合格者増員政策」のため、論文試験ですらわずか6科目12問であり、択一式で3科目、口述式も憲法・民事・刑事の3系統にすぎなくなってしまった。当然受験生の習得範囲も、その範囲では深いものの、それ以外の法分野については、殆ど習得していないと考えられる。
しかし、弁護士が知識・技能を習得すべき分野は、基本6科目に留まらない。ことに行政法の分野は、行政組織関係に留まらず、経済・社会福祉関係まで、ますます高度化し、複雑化の様相を呈している。司法試験改革は、一面で若年合格者の数を増やしたものの、その副作用として、社会の要請する法曹像とは逆の方向に向かって改革をしてきた懸念がある。
そこで、時間をかけ、基礎法学・基本6法以外の諸法を含めた教育を行い、資格取得者が最低限備えるべき知識・技能の底上げを図る法律専門教育機関が必要である。

4.法学部教育に関する問題点

(1) 大学法学部の正規の講義、演習が、名実ともに法曹養成の一過程となること
戦後、法学部も含め大学が大衆化したことにより、大量の「法学士」が輩出されてきた一方で、その卒業者数に比すれば卒業後の司法試験合格者数を極端に絞っているため、司法試験浪人が増えると同時に早期合格を図るために大学入学後低年時から予備校に通い始めるいわゆる「ダブルスクール」現象が顕著である。これにより、授業に積極的に参加する優秀な学生が減り、大学専門教育の空洞化、予備校との主客転倒現象が著しい。法学部における専門教育が実務法曹の養成にほとんどコミットしていない異常な現状はもはや放置できないところまで来ている。

(2) 教養科目教育の充実
司法試験の早期合格を目指すため、大学入学後早い段階から、司法試験受験科目の勉強に絞り、また、受験予備校への通学を開始するため、それ以外の科目の習得が疎かになっている。紛争処理をその職責とする法曹には、技術的な法解釈論以前に幅広く一般教養(リベラルアーツ)が身につけられていなければならない。
殊に、近時司法研修所の教官経験者や実務庁会における修習生の指導担当者からは、修習生の起案等において、認定した事実を文章で表現する能力の低下を憂慮する声を耳にすることが多い。生の社会事象を分析し論理的に構成、表現する能力を養い、深い洞察力を身につけるため、哲学、論理学及び法社会学等の教養科目の充実が喫緊の課題である。現在教養課程と専門課程との境界があいまいとなっている学部低学年次の教育を教養課程教育に徹底させ、大学専門課程は、教養課程終了後に位置付ける必要がある。

第3 まとめ

1.われわれは、ロースクール導入の必要性の根拠を説く第1の考え方及び第2の考え方において指摘される問題点はいずれも正鵠を得ていると考える。そして、現在の法曹養成システムではその目指すべき改革にマッチした制度ではなくなってきているとの認識で一致している。われわれは、日弁連が「司法改革実現に向けての基本的提言」において司法制度実現の為に法曹一元制度の導入や法曹養成システムの改革を提言したことをふまえ、以下のとおり考える。

2.われわれの理想とする司法制度は、法曹一元と陪・参審の実現により「官僚司法」から「市民による司法」へ根本的転換を求めるものである。そうだとすれば、法曹後継者の養成に付いても、あるべき司法制度に相応しい法曹養成制度の構築を目指し、日弁連を中心とする、弁護士、弁護士会が積極的にその運営に関与しなければならない。そのためには、法曹の質と量(数)の拡充を図りつつ現行法曹養成制度の大学法学部教育、司法試験制度、司法研修所及びOJT(オンザジョブトレーニング)という一連のシステムを大幅に改革し、充実する制度改革を目指さなければならない。
われわれは、いわゆる「ロースクール構想」及びそれと関連する範囲で司法研修所(実務修習機関)と司法試験のあり方などに焦点を絞り、ここに提言をするものである。

3.ただ、このロースクール構想は、当初は、政界及び経済界から、その後文部省及び大学側から問題提起されてきたという事実に留意する必要がある。そして、それらの提唱する目的と理念の方向性は必ずしも同一方向ではなく、少なくともわれわれの意図するところとは軌を同じくしていない。
われわれは、ロースクールが、法曹人口増員のために司法研修所に代替すべきものとして考えられたり、文部省の権益拡大、そして低下した法学部の地盤回復を目指した生き残りのための単なる大学改革として矮小化されたりすることのないように注意しなければならない。
われわれは、法曹一元制度における必要な法曹人口と良質な弁護士、裁判官及び検察官の育成のために、現行法曹養成制度に比して、法曹一元制度とより親和性を持つ法曹養成システムの一つとして、ロースクール構想を構築せんとするものである。
そのためには、大学との協力と共同作業が求められるし、50余年の歴史と実績のある司法研修所のノウハウを如何にして承継発展させるかにも意を用いる必要がある。ロースクールを構築することと併せて、大学と司法研修所の現状を改善・改革することが必然となる。

4.以上により、われわれは、第2のアプローチによる現行制度の抜本的改革の実現を図りながら、第1の考え方の法曹一元制度の実現を目指すロースクールを構想するものである。
すなわち、われわれの構想は、現行の司法研修所を中心とする法曹養成制度を転換するため、大学及び弁護士を主要な担い手とするロースクールを創設するとともに、実務法曹の質を維持するための実務修習課程とその運営機関を設け、この修習終了を法曹資格付与の要件とし、完全な法曹一元制度の実現に至るまでの過程に於いては、研修弁護士制度へ繋ぐ道筋を整備しようとするものである。この実務修習課程と運営機関は、完全な法曹一元制度の実現とともに必要のないものとなる。実務修習課程と運営機関は、法曹一元制度のなかに位置づけられる弁護士養成のための新たな実務研修機関(いわゆる弁護士研修所)に代わることとなる過渡的なものと認識し、われわれは、ロースクールの法曹養成機能の充実及び法曹一元制度実現のための諸制度の成熟を早期に達成することを目指さなければならない。

第2章【新たな法曹養成機関の位置づけ】

第1 ロースクールの位置づけ

法曹養成過程において、ロースクールが置かれるべき位置を図式化すると以下の通りとなる。
現行制度イメージ図
改正案イメージ図

 (A)は、アメリカ型のロースクールの位置付けであり、(B)が、当意見書の提唱するロースクールの位置付けである。
(B)の「実務修習機関」とは、現行司法研修の実務修習に代る研修制度を実施する機関であり、新司法試験に合格したものは、所定の実務修習を経た後、法曹資格が付与され、研修弁護士制度により、研修を受けることになる。

第2 ロースクールの定義

 ロースクールを具体的に構想するに当たって、その意義については、論者により異なる意味合いで用いているために混乱が生じているので、ここで、再度整理し、確認する。その意義付けのために、アメリカで行われている法曹養成方式である「ロースクール方式」からその定義を整理すると以下の通りである。

1.アメリカのロースクール方式
  アメリカのロースクール方式は、一般に次のような構成となっている。
 
(1) 学生は、高校卒業後カレッジに入学してそこで一般教養教育を受ける。
(2) カレッジを卒業した学生は、弁護士を養成することを目的とする大学院レベルのロースクールに進学し、法学専門教育を受ける。
(3) ロースクールの卒業生は、司法試験を受け、合格すれば弁護士資格を得る。
2.ロースクールの定義
  日本においてロースクールという場合、それは、「アメリカのロースクール方式(上記1)を参照しながら、日本の実状に照らしてしかるべき修正を加えたもの」と定義することができる。

第3 ロースクールの営むべき機能

 前述のロースクール設置の必要性から,ロースクールでは以下の機能を営むよう構築されるべきである。なお,ロースクール構想の概要は後に述べる(第5)。

 
(1) 法曹一元制度の実現に向けて、弁護士・裁判官及び検察官共通の給源となる「法の支配」を体現する人材の育成機能
(2) 法律専門的教育のレベルアップを図る機能
(3) 法理論と実務の融合発展を図り、相互の交流を盛んにするシステムの構築をする機能
(4) 正規の講義、演習等を名実ともに法曹養成課程に位置づける機能
(5) 実務研修への橋渡しとしての現行の前期修習に相当する集合教育を実施する機能
(6) 現行司法試験が、受験生の高年齢化に対応するため、科目数の減少及び平易化並びに受験回数の少ないものを優遇する施策を進めてきたことによる法曹のミニマムスタンダードの低下の虞れを解消する機能
(7) 司法試験といういわば一発勝負のペーパーテストだけでなく、一定期間をかけて、知識・能力・倫理感等において法曹たるにふさわしい人材の育成・選抜を行う機能。

第4 大学等の関連性について

大学等の法曹教育関係の機関及びその試験とロースクールとの関連性について以下のように考える。

1 大学教養課程(1~2年次)
現在司法試験受験開始年齢の若年化により、法学部内の一般教養課程が十分に機能していないといわれるが、専門教育の中心を大学3年次以降又は大学卒業後のロースクールに置くことにより、理念通りに一般教養習得に徹することができる。

2 大学専門課程(3~4年次)
法律専門職(従来の法職よりも広く捉えるべきである)を養成する役割をロースクールに担わせるため、文字通りの「専門」ではなく、教養としての法学(主として、法哲学・法政策学など)を広く習得させる課程と位置付ける考え方と、例えば法学部3年生よりコース分けをし、法曹を目指すものは「法曹コース」を選択させてある程度の法理論教育を行うものとし、科目としては、従来通り専門科目としての法解釈学を中心に据えつつ、ロースクールでは、目標とする到達度に差を設けるべきであるとする考え方とがあり、この点については、ロースクールのカリキュラムを策定するうえでも大きな問題であり更に大学関係者と協議をする必要がある。広い視野をもつ法曹人の育成という趣旨からすると、前者の考え方に立つべきであろう。

3 学部卒業後司法試験まで
学部卒業後司法試験までの過程(学制上、現行の大学院修士課程と同等)の中に、2年間のロースクールを位置付ける。
ロースクール受験のために、ダブルスクール化するのでは、大学の課程が空洞化し、現在の問題点をそのまま承継してしまうので、入学許可人数と選抜方式を工夫する必要がある。そのために、学部課程での成績を重視し、学部で履修した多くの科目を広く浅く試し、出来るだけ間口は広げる必要がある。現在の大学の入学試験が、高等学校のカリキュラムのありようを規定してしまっている過ちを繰り返してはならない。一定の標準的学力を試し、審査の公正を担保するために統一的なペーパーテストは有効であるが、ロースクールの入学審査は、ペーパーテストのみならず、大学における講義の受講状況、成績を勘案し、ペーパーテストのウエートを下げる必要がある。ロースクール入学試験は、後述の新司法試験、実務修習の終了試験と合わせて、新たな法曹養成制度の根幹となるものであり、法曹関係者、大学関係者からなる後述の「審査会」によって、総合的有機的に関連づけられる必要があり、かつ、大学序列化を回避するために、全国統一試験が望ましい。
また、ロースクール内では、学生を厳しい競争にさらし、入学者の大部分が必ずしも卒業できるとは限らないシステムの方が有効である。

4 新司法試験

(1) 試験合格と法曹資格の関係について
合格者に法曹資格を付与する方式(アメリカ)と司法試験に合格しただ けでは法曹資格は付与しない方式(現行日本。イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン及びカナダも類似)とが考えられるが、後述のように現在の我が国の修習制度のなかで、特に実務(庁)修習には、その必要性も含め一定の評価があり、また、各国制度中、大陸法系諸国には類似の制度も多く見られることなどから、これを廃止することは得策でなく、現行の司法修習制度を改革した上で、少なくとも、実務(庁)修習は存置すべきである。
したがって、司法試験合格後、一定期間の実務修習を経た後に、法曹 資格を付与するものとすべきである。なお、ロースクールに於ける実務研修を充実させて合格後の実務研修は不要とし、あるいは、法曹一元制度を前提として実務研修は不要として、直ちに法曹資格を付与すべき(法曹資格付与後の位置に研修弁護士制度を新設する)とする意見もある。
現時点での大学側の考えは、実務修習、実務訓練をロースクールで行うことはできないとする意見が多数であり、実務研修(修習)をロースクールの課程において行うことは現実的でないと思われる。
われわれは、法曹一元が直ちに実現するとの制度的保障が得られない限り、ロースクールとは別個の機関により、実務研修(修習)を実施することは必要であると考え、実務研修(修習)を不要とする意見にはにわかに組みすることはできない。

(2) 受験科目等の見直し
ロースクール生の学習が、新司法試験のみを念頭におくあまりに、ロースクールで学ぶことがおろそかになるようでは、ロースクールのカリキュラムを如何に充実させようとも無意味である。ロースクールで学んだ科目すべてを受験科目とするか、一定の科目に絞るとすれば、ロースクールで学んだ事項の到達度を確認する程度のレベルとすべきである。また、ロースクールでの成績を新司法試験の合否判定に加味させるなど、ペーパーテストの弊害を少なくするような試験方法の工夫も検討すべきである。

(3) 合格者数の決定方法
合格者数は、資格試験であるとしてロースクール卒業生の大部分であるのが理想である。但し、法曹人口政策と受験生の質の観点から合格者を絞ることはありうる。その場合は、滞留者を増加させないためにロースクール卒業生の社会的ステータス、他試験での特典などメリットを制度的にも考えるべきである。
司法試験管理委員会により合否が決定される現行の方式は、後述の新しい「実務修習機関」ないし法曹関係者及び大学関係者からなる後述の新しい「審査会」にその機能を担わせる方向で改革すべきである。

(4) 受験資格
受験資格は、後述の審査会による審査によって認められたロースクーの卒業生にのみ認められることとすべきである。なぜなら、ロースクールは、法曹としてのミニマムスタンダードを備えるに必要なカリキュラムを実施する法律専門教育機関であり、その卒業生は所定のカリキュラムに沿った単位を履修したからこそ、法曹としての専門的素養を備えた者と認められるからである。

5 実務修習機関、現行司法研修所を大幅改組して、実務(庁)修習を存続させる法曹実務教育機関

(1) 実務修習機関の位置付け
現在実務修習制度のないアメリカにおいても、ロースクールでのわずかな実地研修を除き、実務研修なしにOJT(オンザジョブトレーニング)に委ねてしまうことは問題とされており、国民に対し責任ある法曹としてのミニマムスタンダードの確保のためには、完全な法曹資格を習得するまでに一通りの実務修習を行うことはプロフェッションたる法曹には不可欠である。
ところで、ロースクール在学生は、法曹としての高度な倫理観・法的知識・法律事務処理能力を習得する途中の「学生」であり、かつ、新司法試験によって法律実務家としての素養が「公認」される前のものである。ロースクールにおいて、現行の実務(庁)修習と同様なカリキュラムを行うことは、学生に守秘義務の担保がない点、学生の法曹人としての成熟度と権限及び受入れ容量等に問題がある点などから不可能であると考えられる。
そして現在の司法修習制度における実務(庁)での修習は、現実の事件に立ち会いながら実践的に学習する制度であって、わが国における法曹養成制度において高い評価を受けている。
従って、ロースクール卒業後新司法試験合格者に対し、現行の実務(庁)での修習を必要な範囲で改善した上、ほぼ同じ待遇(有給)と内容で実務修習を行なわせることが必要であると考える。そして、この実務修習を運営するための新しい組織・機関を設ける必要がある(以下、これを仮に「実務修習機関」という。)。
なお、実務修習機関の位置づけは、ロースクールのカリキュラムにおいて実務研修を行えるか、どの程度行いうるかによっても大きく変わるが、大学側の大勢は、実務修習をロースクールで受け入れようとすることに消極的である。

(2) 実務修習機関の組織(管轄と運営主体)
現行の司法研修所は、最高裁判所が管轄し運営している。この方式は法曹一元制度の実現を目指す法曹実務教育機関としてはふさわしくなく、前述のごとく、キャリアシステムの維持に事実上貢献してきた事実があるので、これを改革すべきである。即ち、その所轄を最高裁判所だけとすべきではない。また、法曹養成は、大学教育との有機的な関連においてなされる必要があり、ロースクールの中心的担い手である大学関係者もその責任の一端を担うべきと考える。
そこで、弁護士会を中心とする法曹三者及び大学関係者で構成する新設機関(実務修習機関)に移すべきである。

(3) 新しい実務修習機関が担うべき主たる機能
従前の司法修習制度における前期修習に大旨相当する集合教育は、ロースクールが受け持ち、後期修習のそれは、必要な範囲で弁護士会における実務修習中の集合研修や登録後の新規登録弁護士研修制度又は研修弁護士制度で行われることとすべきである。新たな実務研修システムにおいては、実務修習が中心となり、実務研修機関は主としてその連絡調整等を行う機関となる。実務修習は、法曹養成を総括する課程となるので、この運営を行う主体には、法曹養成課程全般を運営する役割を担わせることも可能である。
例をあげると以下のとおりである。

 
(1) 司法試験の管理・運営
(2) ロースクールの認定審査
なお、実務修習機関がロースクールの認定審査機能を持つ場合には、弁護士会が主導的な役割を果たすべきである。
(3) 研修所の終了試験(2回試験)の運営
(4) 実務修習の連絡調整機関

(4) 現行の前期修習について
現行の前期修習は実務修習のプレ講義として重要な役割を担い、実績を残している。実務で起案する書面等について全く予備知識なしに実務研修を行ったのでは、その研修の実はあがらない。従って、実務研修の前提、掛け橋として、少なくとも実務修習開始前に現在の前期修習に相当する課程の集合教育を行う必要がある。
この研修は、建物の増設や教官を増員すれば、現行の司法研修所を利用して行うことも可能であろう。
しかし、われわれは、むしろ集合教育になじむ部分については、ロースクール課程の終期に3ないし4ヶ月のカリキュラムを設定すべきであると考える。前期修習相当の課程をロースクールに位置づけることにより、実務科目とそれ以外の理論科目とで関連する科目を担当する実務家と学者とが、ロースクール内で交流する機会が増加し、実務法学の更なる発展という効果も期待できるからである。

(5) 実務修習地での収容能力―現状で限界か
現行の前期修習に相当する集合教育を既にロースクールにおいて行っていることを前提とすれば、実務修習期間は最低限1年で足りると考える。
そして民事・刑事にわたって広く知見することができ、裁判所、検察庁に比して指導担当者の確保が可能で、かつ、法曹一元制度実現の趣旨を踏まえると、弁護士会(法律事務所)での研修を6ヶ月とし、裁判所(民事・刑事)及び検察庁での研修はそれぞれ2ヶ月程度で足りると考える。そうなれば、「受け皿」としては、現在以上の数(少なくとも1500名)を研修させることは可能である。また、裁判官、検察官の増員が喫緊の課題であり、漸次予算措置が講じられることで任官者の増員が図られれば、仮に近き将来に法曹の需要が更に高まったり、新司法試験合格者が更に増大したとしても、裁判所や検察庁での修習生指導担当官も確保でき、裁判所や検察庁も漸増する合格者の受入に対応できるものと思われる。
さらに、弁護士研修制度の充実・発展によって、実務研修制度が弁護士研修所(あるいは研修弁護士制度)に吸収ないし発展的解消されれば、司法研修所を中心とする現行研修制度の流れを汲む新しい実務研修機関は、その歴史的役割を終えることとなる(但し、司法研修所の裁判官研修制度の担い手としての役割は存続し、完全な弁護士研修制度の開始に合わせて弁護士任官研修所となることになろう)。

(6) 修習内容についての問題

 
(1) 実務修習の期間
2年のロースクール在学を考えると、実務修習の期間は、前述の通り、1年で足りると考える。
(2)

前後期修習の存廃・内容
前述の通り、従前の前期修習は、ロースクールの過程の中に吸収されるべきである。
後期修習は、必要とされる範囲で、研修弁護士制度などに承継させるべきである。

(3) 現行司法研修所のノウハウの承継
前期修習に該当するロースクールでの集合教育及び実務修習の内容と修習方式などについては、50余年の歴史と蓄積を持つ司法研修所のノウハウを活用・承継し、更なる改善を重ねるべきである。

(7) 卒業試験
実務修習の終了時にその履修状況をチェックし、修了を認定する方法が考えられなければならない。

6 法曹資格取得後(実務修習終了後)の研修

(1)法曹一元制度が実現すると、「弁護士研修所(新設)」がOJTを一手に引き受けることになろう。但し、完全な法曹一元実現までの過渡期には、法曹資格取得後、裁判官任官までの一定期間中の「研修弁護士制度」も検討されよう。

(2) アメリカのロースクールに存するLLM的な制度を継続的な教育制度として置付けることも検討に値する(いくつかの大学で試みられている「専修コース」が参考となる)。

7 結論
以上の検討によれば、ロースクールの位置付けとしては多様な見解があるが、先述(P7)の改正案の図(B)の位置付けが最も望ましいと考える。

第5 ロースクールの概要

1.各国制度の概況
他国のロースクールに日本へ応用可能なものがあるかについては、更に調査、研究する必要がある。

2.ロースクールの審査と運営 他国のロースクールに日本へ応用可能なものがあるかについては、更に調査、研究する必要がある。

(1) 認定審査と運営主体
 
(I) ロースクール認定審査機関と権限
ロースクールには、一定の人的物的水準が要求されるところ、その水準に達しているか否かの審査に当たっては、第一義的に、ロースクールが弁護士養成を中心とする実務法曹の教育機関であることから、弁護士会が主導的役割を果たさなければならない。
ロースクールは、学問の自由の保障された既存の大学に併設されるのが望ましく、また、既に教育機関として運営組織をもっていることから最も現実的である。
そこで、学校法人の組織にかかわるロースクールの設置認可に関しては、文部省と法務省との共管とし、カリキュラムやロースクールの教授陣の体制などについて一定の認定審査を行う権限は法曹三者と大学関係者とによって構成される「審査会」に付与し、その審査に合格したロースクールの卒業生を新司法試験受験資格者とする方式(cf. ABA)がもっとも実効的であり、妥当と考える。審査会は設置のみならず定期的な監査を行い、認定権限を有する。この審査会において弁護士会が積極的な役割を担うものとする。
(II) 認定審査の基準
認定審査の基準は、後述の講座をカリキュラムに組み込み、これを消化できる実務家を含めた教授陣及び物的施設を擁し、学内考査が厳正に実施されていることなどが必要となるが、更に具体的検討が必要である。
(III) ロースクールの運営主体
既設の大学に併設し、当該大学が運営主体となる方法が、最も現実的で望ましいと考えられる。上記(i)の審査会の定める設備、教員の構成やカリキュラムなどについて一定の基準を満たし、審査会により認定されたロースクールの卒業生が新司法試験の受験資格を認められることとなる(以下、ここで「ロースクール」とは、「審査会の認定を得たロースクール」を言うこととする。)。
(2) 財政援助
   大学が運営主体となるのであれば、授業料収入等の大学の財源のほか国等からの助成金が必要となる。特に私立大学の財政的事情がロースクール設置の障害となり、結果として国立大学との間で差別や不平等が生じないよう、私立大学に対する手厚い財政的援助が必要である。
(3) 実務法曹の教授陣への登用
   大学が運営主体となる場合であっても、実務に即した法学専門教育、特に前述した前期修習は相当する実務教育を行わなければならないので、実務家を教員として大幅に登用しなければならない。弁護士も、非常勤も可とするなどして、大量に教授、講師としてロースクール教授陣の中核とならなければならない。また、現職の裁判官や検察官が教授・講師となりうることが必要であり、この点への配慮が不可欠である。現在、司法研修所では、裁判官及び検察官は専任で教官をしているが、裁判所と検察庁の人事政策上大きな負担となっているといわれているので、ロースクールを設置する場合には、裁判官及び検察官も兼任ができる体制にする必要がある。ロースクールにおいて実務家を教員として登用する場合に、従前の大学における兼任講師待遇では、実務の第一線で活躍する有能な裁判官、検察官及び弁護士を招聘することは難しく、好待遇を保障するよう報酬体系を見なおす必要がある。その場合には、大学の財政的負担を軽減するため、少なくとも、従前司法研修所の前後期修習に要している予算相当額をロースクールに対する国庫補助として振り向けるべきである。


3.ロースクールの認定校数等
  (1) 認定校数
認定校の数については、予め人為的に限定するのではなく、審査会が、所要の基準を満たすと判断すれば、ロースクールとして全て認定されることとする。当意見書は6.で述べるとおり第1次の統一試験でロースクール生の数をある程度絞り込み、更に審査基準を厳しく限定することによって法曹人口の無限定の増大を抑制できると考える。統一試験による絞込みを前提としなければ、審査基準をより厳しくして、認定校の適正数の維持を図る方向になる。
  (2) 設置地域(ロースクールの適正配置への配慮等)
法曹一元を支える法曹養成制度としてロースクールが位置付けられるものであるから、ロースクールの設置については、全国の適正な地域配置が図られなければならない。その為には、審査基準及びその運用において、複数の大学の連合・提携を可とするなど地域性を加味した弾力的な工夫がなされる必要がある。
4.ロースクールの在学期間(修業年数)
   基本的には、法曹に最低限備わるべき知識技能を身につけるのに最低限必要な年限で判断すべきである。これまでの議論を踏まえると、法学部出身者は2年とし、他学部出身者には、法理論の補講期間として1年加えて、3年とすることが相当である。
5.ロースクールの入学許可人員
  (1) 全体数
ロースクール入学者のうち原則として全員卒業を前提とするか、一定割合の中退者を見込むかという点及び卒業生のうちどの程度の割合の司法試験合格者を見込むか、ロースクール認定校数を限定するか否かという点などが、ロースクール入学許可者数を考える上で大きな考慮要素となる。
ロースクールでの原級留置(落第)制度を導入してロースクール生の緊張感を持続させ、ロースクール卒業生としての実力を認定された者の7~8割は司法試験に合格させるのがロースクールの設置の趣旨から考えて理想型であろう。その理想型からすれば、司法試験合格者を仮に、1500名とすると、ロースクール卒業者は2000名となり、入学者数は前述の要素を考慮してその何割か多い人数で決められることとなろう。但し、ロースクールがはたして卒業者の7~8割を司法試験に合格させるだけの実力をロースクール生に身につけさせることができるかが最も重要な今後の課題である。
なお、新司法試験にロースクール卒業生の大部分を合格させることは、論理必然の結論ではない。ロースクール卒業生の7~8割が法曹資格試験に合格することが理想的とは言え、ロースクール卒業生の7~8割が実務法律家に必要な法的素養と能力を備えた実力を身につける教育をロースクールが為し得ることが前提である。
「ロースクール卒業生にのみ司法試験の受験資格を与え、その7~8割をこれに合格させるべきであり、さもなければロースクールの存在理由が問われる」等の主張は、本末転倒したものである。
  (2) 各校入学許可者の決定と定員
  (I) 人数教育を目指すため、1校あたりの受入人数の下限は定めるべきではなく、上限を200名程度とする。
  (II) 各校の入学者の決定については全国一斉の統一試験(1次試験)を実施し、更に、2次試験を行い、その内容及び合否(入学許可)の判定は各校の事由とする(参考:米国のLSAT)また多様な法曹人育成のためにも、他大学・他学部出身者の占める一定割合を義務付けるべきである。
6.ロースクール入学試験の内容
  (1) 第1次試験について
 
(I) 本章第4の3(10P)に既に述べたとおり、全国一斉統一試験(1次試験)を実施する。この試験は処理能力の点からマークシート式になることが予想される。 1次試験の科目は、共通科目である教養科目を中心とし、これに法律・経済・理数系その他の基礎的学力を試す試験を付加して、出身学部受験生に応じた選択科目とを併用する。
(II) 統一試験の合格者数をどう考えるか。点数を付けるだけで合格・不合格の区別をしない(合否はロースクール各校の2次試験に委ねる)という考え方もあるが、法曹のミニマムスタンダードを試す試験である以上、一定数で合否を判定せざるを得ない。この場合どこまで数を絞込むかであるが、その時の法曹人口政策の観点から、卒業後実務修習を経て法曹になる人数とその他の分野に進出する人数、中退者数などの実績を考慮しながら、ある程度の人数に絞り込む必要があると考える。
(III) 自校の学部生のみを入学させる、ないし推薦入学とし、他大学生のみロースクール入学試験を行うというような現在唱えられている閉鎖的な大学側のロースクール構想は、否定されなければならない。 1次試験を実施せず各大学独自のロースクール入学試験(2次試験)にのみ委ねることはかかる構想を事実上容認することになる。
(IV) 2次試験について
2次試験は論文、口述、面接等その方法を含め各校で実施し、また大学での受講履習状況、成績等を勘案するなど、ペーパーテスト受験勉強に偏った学習が合否判定にならないように配慮されなければならない。1次試験の結果をどの程度重視するかも各校の判断による。
(V) いずれにしろ、ロースクール受験予備校の隆盛を招来しないよう、大学のカリキュラムとの関係を密にし、マニュアル化しにくい問題を出題するなど幅広い試験の内容や合否の判定基準が工夫されなければならない。
7.ロースクールの学内考査の方法
   ロースクールの学内試験も法曹養成過程における段階的選抜の一過程であることに鑑み、学内考査も、匿名性を確保し、公正かつ透明で国民から信頼を得られるように厳正に実施されなければならない。成績不良者に対する進級留保や中退制度の導入も必要である。
8.ロースクール生の経済的負担の軽減
   学生が学習に集中できるよう、公的な奨学金を十分な額で完備すべきであり、学生寮を含めた学習施設の完備が必要である。経済的余裕のない者が入学を断念しなくてもすむよう、ロースクールへの国の財政的援助と同様、国家予算上での大幅な配慮が必要である。
9.ロースクールの教育内容・方法
  (1) 内容
考えられる科目の内容を網羅すると以下の通りである。特に、集合教育を中心とする現行の前期修習に相当するものは、実務修習のプレ講義として必要であり、これをロースクールの終期3~4ヵ月で行うこととし、(5)の実務科目を、カリキュラムに組み入れることを提唱する。
    なお、審査基準との関係で、以下の全ての講座を設けなければならないという趣旨ではない。但し、ロースクールは、法曹としてのミニマムスタンダードを備えさせる法律専門教育機関であるからこそ、ここを通過しなければ原則として法曹として認めないのであるから、このことに留意して、必要なカリキュラムを検討しなければならない。
   
(I)法律必修科目 憲法、民法(契約法)、刑法、商法、民事訴訟法、 刑事訴訟法、保全法、執行法
(II)法律選択科目 行政法、行政手続法、税法、労働法、破産法(清算手続に関する法律)、国際法、 知的財産法、独占禁止法、国際私法・国際取引関係法、刑事政策、監獄法
(III)外国法 英米法を必修とする。
(IV)その他の選択科目 法哲学、法社会学、社会政策、各国法制史、論理学、倫理学、立法学、心理学、 法律家のための経済政策、経済原論、会計学、財政学及び経営学概論
(V)実務科目
(ア)民事系統 民事裁判(争点整理、事実認定、判決起案)、民事弁護((訴訟)訴状・答弁書・準備書面・保全申立書等の訴訟関係書類の起案、尋問技術、和解交渉・和解及び調停条項起案)、訴訟外紛争処理(交渉学、契約書・意見書起案、仲裁《ADR》)、民事共通(模擬裁判)
(イ)刑事系統 刑事裁判(事実認定、法条適用、判決起案)、検察(事実認定、起訴状・不起訴裁定書起案、冒頭陳述起案)、刑事弁護(事実認定、捜査・公判での弁護活動、弁論要旨起案)、刑事共通(模擬裁判)
(ウ)その他 裁判所法、検察庁法、弁護士法、弁護士倫理、文献・判例検索
  (2) 方法
昨今、修習生が、正解のない問題に果敢に挑戦しようとする態度が著しく落ちているという指摘があり、非常に憂うべき事態である。実務は確たる正解のない世界ともいえるのであり、パターン化できない問題に対して、問題点を分析抽出し、回答を導いていく思考方法をトレーニングするべきである。いわゆるソクラテスメソッドは特に参考にされるべきである。
ただし、これに関しては、アメリカ合衆国のロースクールで行われているいわゆるソクラテスメソッドは、判例の中から法理を探求するトレーニングが目的であり、成文法体系をもつわが国においてはその有効性に疑問が呈され、実務上生じ得る事例の法的分析と関連する成文法の適用範囲を考えさせる日本独自の「ケースメソッド」方式を考案する必要があるとの指摘がある。
交渉技術は、法曹にとって最も基礎的な素養の一つであり、かつ、陪・参審制への対応のため、ディベート方式の授業も取り入れられなければならない。
また、少人数によるゼミや演習の単位を多くし、教授陣を質・量ともに大幅に増員すべきである。
10.ロースクールの卒業試験
   その要否も含めて各ロースクールの判断に委ねられるべきである。現在の多くの大学と同様、所定の単位を履修すれば、卒業が認められ、卒業試験は別途には必要ではないとする意見が有力である。
11.ロースクール卒業生・中退者の進路
  (1) ロースクール卒業生の内、訴訟業務を中心とした法曹を目指す者は、新司法試験に合格し、実務修習機関での修習を経て、現在の法曹と同様な法曹資格を取得しなければならない。
  (2) ロースクール卒業生の内、行政官の法律職を目指す者は、新司法試験ないし国家公務員試験に合格した後、各省庁に就職する資格を得られるような制度にする必要があるが、現行の国家公務員試験との調整が必要である。なお、新司法試験に合格している者は、各省庁などを退職して、実務修習機関での修習を経れば、訴訟業務を行えるとするべきであろう。
  (3)

ロースクール卒業後の新司法試験の滞留現象を回避する為の方策について、検討が必要である。

第6 今後の検討課題

今後の検討課題の主な事項は以下の通りである。

1 法曹三者になれなかったロースクール卒業生の社会的受け容れ(例えば、司法書士、税理士等の一部試験受験免除の特典を付与するなど)が課題となる。他方、ロースクールの入学人数を絞りすぎると、現在よりも法曹への第一歩の間口が狭くなり、ロースクールへの入学競争が激化するなどの問題が生じる。なお検討を要する。

2 ロースクールを大学卒業後司法試験受験前の教育機関として位置づけると、法学部で行うべきカリキュラムとロースクールで行うべきカリキュラムとの棲み分けを検討する必要がある。また、実務教育と理論教育のうち具体的に何をロースクールのカリキュラムに盛り込んで行くべきかについては更に検討する必要がある。

3 ロースクールが法曹実務家の養成機関だとすれば,当然のことながら、法曹実務家である判事、検事及び弁護士の関与が随所になされなければならない。
まず、ロースクールの設置認可基準、及び卒業生に新司法試験の受験資格を認めるに値するロースクールか否かの審査基準の策定、及び現実の認可・審査を文部省や最高裁に全て任せきるわけにはいかない。また、ロースクールの入学試験と新司法試験の運営と合否決定権について弁護士会を中心とする実務家のコミットを大きくする必要があるがそれらの具体的方法論と内容は更に検討を要する。

4 ロースクールでの実務教育のためには、弁護士を中心とする法曹実務家が教師として協力関与しなければならない。その供給体制と、受入体制については、更に大学側と実務法律家との協議検討を要する。

5 ロースクール受験生を法学部卒業生に限定せず、また、学部とロースクール間のエスカレーター式入学を抑制し、受験生に開かれたロースクールにするためには、入学試験方法を含めて更に細かく検討を要するであろう。

6 ロースクールが特定の大学に特権を与えるシステムであってはならない。特に私立大学にロースクールを設置する場合に国家予算の面からの十分な配慮がないと私立大学とその学生に多大な経済的負担をかけることになり、結果として特定の国立大学のロースクールのみが生き残ることとなる。よって、予算の確保と配分について十分な検討を要する。

7 ロースクール制度導入に際しては、ロースクール卒業生が輩出されるまでの間は、一定期間現行司法研修所を併存させるなど、「移行期間の経過措置」をどうすべきかについては引き続き検討を続け、提言していくことが必要である。但し、固定的な制度としてロースクールと併存させるとの考え方は、われわれのロースクール構想とは、全く異なるものであって強く反対する。

8 ロースクールの認定基準の具体化及びロースクール入学全国統一試験や新司法試験など一連の試験制度については、試験科目、内容、方法など公正で妥当なものにすべく、多くの英知を集めて更に具体的に検討すべきである。

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