東京弁護士会

パブリックコメント(法制審議会諮問事項について)

2007(平成19)年12月25日
東京弁護士会
会長 下河邉 和彦

当会は標記の意見募集に関し、下記のとおり意見を述べます。

1 意見の趣旨

(1)犯罪被害者等による少年審判の傍聴については、少年審判規則29条に基づき、裁判所が認める範囲で審判への在席が認められる場合があり、それ以上の規定を設けるべきではない。

(2)記録(法律記録)の閲覧・謄写については、2000(平成12)年「改正」法の運用状況などを踏まえつつ、相当な範囲において、閲覧・謄写を認める場合の要件を緩和することは、積極的な検討に値する。

2 意見の理由

(1)はじめに

本問題を検討するにあたっては、一方で犯罪被害者等の権利・利益をどのように実質化するかを考える必要があるが、他方で少年法の理念・目的を再確認し、そのような理念・目的を実現するために設計された少年審判手続の特徴等を損なうことがないよう十分に配慮することも必要である。そこでまず、少年法の理念・目的等を確認し、その上で、少年審判手続きにおいて現在用意されている犯罪被害者の権利・利益を実現するための制度を概観し、さらに法制審議会諮問第83号が挙げるような制度を設ける必要性・相当性があるかどうかを検討することとしたい。

(2)少年法の理念・目的等

(i)少年法の理念・目的
刑事訴訟法は、事案の真相究明と適正な処罰の実現等を目的とするのに対し(刑事訴訟法1条)、少年法は、少年の健全育成を目的とし、保護・教育の優先をうたっている(少年法1条)。

(ii)少年審判手続の特徴
上述した目的を実現するため、少年審判では、非行事実自体はもちろん、非行に至った動機・背景、少年の家庭内の事情、少年の資質、生育歴、性格などを正確に把握してこれに対処することが必要とされる。このため、少年審判手続は、刑事訴訟手続とは異なる次のような特徴を有する。

  1. 職権主義的審問構造
  2. 非公開原則
    刑事訴訟手続は、憲法に基づき公開が原則とされているが(憲法82条1項)、少年審判手続は非公開とされている(少年法22条2項)。これは、少年の成長支援、更生、再非行防止のため最も適切な処分を選択するには、犯行の動機、態様などの非行事実だけでなく、少年の資質や生育環境等についても十分な審理を行う必要があるところ、そのためには、少年が萎縮することなく審理に参加できる環境を確保し、少年や家族のプライバシーに関する事項を率直に述べてもらう必要性が高いこと、さらには、少年に対する社会的烙印を回避する必要があることなどに基づくものである。
  3. 科学主義
    少年の非行には、生育歴や少年の資質、生活環境などが影響していることが少なくない。このため、少年審判手続では、非行に至った動機・背景、少年の家庭内の事情、少年の資質、生育歴、性格などを正確に把握し、少年に対して最も適切な処分を選択するために、家庭裁判所調査官による調査の制度を設け、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識、特に、少年鑑別所による鑑別の結果を活用して調査を行うべきものとされている(少年法8条、9条)。これは、科学主義の理念の表れであり、刑事訴訟手続にはみられない制度である。
  4. 4.迅速な手続

(3)現在用意されている犯罪被害者の権利・利益を実現するための制度

(i)捜査段階(成人の犯罪と共通)
まず、検察庁による「被害者等通知制度」が設けられており、捜査結果などについて被害者等への通知がなされている。また、検察庁全庁に「被害者支援員」が置かれるとともに「被害者ホットライン」が設けられ、被害者等に対し、事情聴取の過程等についても情報提供がなされるようになっている。

(ii)審判段階
2000年の少年法「改正」により、被害者等に関する規定が新たに設けられた。まず、審判係属中でも被害者等による記録の閲覧・謄写が認められるようになり(少年法5条の2)、家庭裁判所に送致された捜査記録から、事件の経緯・内容や、少年を含む関係者の供述内容などについても知ることができるようになった。また、被害者等の意見を聴取する制度が設けられ(少年法9条の2)、希望する被害者等は裁判所に対して事件に関する意見を述べられるようになった。聴取は、審判期日または審判期日外に、裁判官または調査官によってなされるが、何時誰が聴取するかについては、基本的に被害者等の意向に基づいて決められている。さらに、希望する被害者等に対しては、裁判所から、決定の主文および理由の要旨など、審判の結果が通知されるようになった(少年法31条の2) 。

(4)検討・・・被害者等による少年審判の傍聴について
以上を踏まえたうえで、被害者等による少年審判の傍聴について、検討する。

(i)犯罪被害者等基本計画について
犯罪被害者等基本計画も、被害者等による少年審判の傍聴については、その「可否も含めて」と、少年法との関係における慎重な検討が必要であることを示唆している。

(ii)積極意見の論拠とその検討
被害者等による少年審判の傍聴を認めるべきとする主張において、その論拠として挙げられているのは、以下のような点である。

  1. 被害者等の「知る権利」
  2. 刑事訴訟との対比
  3. 事実認定の「適正化」

これらについて順次検討する。

  • 1.について。
    この点に関しては、上記のとおり、2000年の法「改正」によって、審判開始決定後の記録の閲覧・謄写、意見の聴取、審判結果の通知等の各規定が設けられている。これらの規定を活用すれば、被害者等は、少年や関係者が事件についてどのような供述をしているのか、裁判所がいかなる証拠に基づき、どのような事実認定をしたのか、といった点についても、相当程度の情報を得ることが可能である。場合によっては、少年や保護者を前にして意見を述べることもできる。
  • 2.について。
    刑事訴訟との対比であるが、少年法は刑事訴訟法とは異なる目的を有し、その目的を実現するために、少年審判手続は、手続の非公開、迅速な手続といった、刑事訴訟手続とは異なる制度的特徴を有している。手続への被害者等の関与について、少年審判と刑事訴訟との相違を考慮せずに議論することは相当でない。被害者等による審判傍聴は、後述のとおり、少年審判の非公開原則等との関係で問題が大きく、慎重な検討が不可欠である。
  • 3.について。
    少年が不合理な供述をした場合には、まず捜査機関が、少年の供述を弾劾する客観証拠や関係者の供述などを収集し、取調べで少年を追及するなどして不合理な部分を問い質すことになる。そのようにして作成された少年の供述調書を含む捜査記録は、そのまま家庭裁判所に提出され、伝聞証拠の排除法則がないから、供述調書の全てが裁判官の判断材料となるのであり、必要があればさらに補充捜査が行われることもある。このような実務の現状からすれば、少年による虚偽の供述がそのまま少年に有利な方向で認められるといったことは、通常考えられない。ましてや、2000年の少年法「改正」により、少年が事実関係を争った場合には、少年審判に検察官を出席させる制度が導入され、検察官の抗告受理申立制度も導入されている。これに加えて、被害者が審判を傍聴するとなれば、少年に事実を争うことをためらわせるおそれが一層大きくなり、また、少年は萎縮して事実を主張できなくなる危険もあり、却って事実認定の適正化を妨げる危惧がある。
    以上のとおり、積極説がその論拠とするところは、被害者等による少年審判の傍聴を認めるべき根拠として、十分とはいえない。

(iii)被害者等による少年審判の傍聴の問題点
被害者等が少年審判を傍聴する場合には、以下に述べるとおり、看過できない重大な問題点が生じるおそれが大きい。特に、少年審判手続は、事件発生から短期間のうちに手続が進行することから、被害者は被害を受けて間もない時期に審判を傍聴することになる点を十分に考慮する必要がある。

  1. 少年の萎縮
  2. プライバシーに関する審理の困難
  3. 少年審判のケースワーク機能の減退
  4. 審判運営実務への影響

 一般に少年審判廷は、刑事裁判の法廷と異なり、非常に狭く、傍聴席も置かれていない。このため、被害者等が傍聴する場合であっても、少年との距離は極めて近く、少年との間に何の障壁がない位置に着席せざるをえないのが実情であり、このような状態では、被害を受けてから間もない被害者等と少年の双方にとって極めて緊張感の高い状況となってしまうし、保安上不測の問題が生じる可能性も否定できない。

(iiii)結論
以上からすれば、被害者等による少年審判の傍聴は、これを一般的に認めるべきではない。
なお、現行の少年審判規則29条に基づき被害者等を審判に在廷させることは可能なのであり、実際にそのような運用がなされた例もある。このように、被害者等の審判への出席は、少年審判規則29条の解釈として認められる範囲で行われるべきである。

(5)検討・・・記録(法律記録)の閲覧・謄写について

 現行法の運用状況をみると、上記のとおり、被害者等による申出はほとんど認められており、実際に損害賠償請求権を行使する場合以外でも閲覧・謄写は認められていることに加え、刑事裁判においては、本年6月に成立した「犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事訴訟法等の一部を改正する法律」により、記録の閲覧・謄写が認められる場合の要件が緩和されたことなども考慮すれば、記録(法律記録)の閲覧・謄写が認められる場合の要件について、例えば、「当該被害者等が意見の陳述の申出をなすために必要があると認める場合」などの例示を加えるなど、相当な範囲で要件を緩和することは、積極的な検討に値するものと考える。但し、少年の更生は、少年自身にとっても少年を迎え入れる社会にとっても有益なことであるから、記録の閲覧・謄写の要件を緩和するにあたっては、閲覧・当社によって得た情報を少年のプライバシーを侵害するような形態で使用することについては厳格な歯止めをかける必要がある。
なお、少年審判においては、法律記録のほかに、家庭裁判所調査官による調査や少年鑑別所における資質鑑別等の結果を記載した「社会記録」が作成される。これら社会記録の中には、対外的には開示しないという前提で収集された、少年の出生にまつわる秘密や少年を取り巻く家族関係、少年の身体面・精神面における障害や医学的所見など、プライバシーに極めて深く関わる情報が多く含まれている。これらの情報が被害者等にも開示されることになれば、少年やその家族等のプライバシーを侵害するだけでなく、ひいては裁判所が適切な処分決定のために必要な情報を収集することが困難となる。よって、社会記録については被害者等による閲覧・謄写の対象とすべきでない。

以上
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