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障害のある人の人権に関して理解しておくべき基礎用語・基礎概念

高齢者・障害者の権利に関する特別委員会委員
大瀧 靖峰(61期)

(1) 障害(観)の社会モデルとは
 「障害」の理解は,世界でも日本でも,身体的欠陥のある障害者本人が努力して克服していく対象という従来的な考え方(医学モデル)から,支援の欠如によりハンディをもたらしている社会の側にこそ障害の原因・責任があるという考え方(社会モデル)へ,パラダイム転換がなされていることを理解しておくことが大切である。つまり,足に障害があって車椅子に乗っている人が,段差があるために進めない状況について,足が動かないから進めないと捉えるのではなく,段差を社会が放置しているから進めないと捉えるものである。

(2) 障害者とは
 「障害者」とは,2011年8月5日施行の改正障害者基本法2条によると,「身体障害,知的障害,精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する)がある者であって,障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう」とされている。そのため,いわゆる障害者手帳の有無には関係ない。

(3) 障害者の人数
 厚生労働省が2012年に調査した統計数値によると,日本の障害者の数(概数)は,身体障害者(児)が393万7000人,知的障害者(児)が74万1000人,精神障害者が392万4000人の合計860万2000人であった。およそ国民の約6.7%が何らかの障害を有していることになる。但し,発達障害者や手帳を所持しない難病者の多くは統計から抜けており,実数はこれを遥かに上回ると思われる。

(4) 障害の種類と特性
 主な障害としては,身体・知的・精神の3障害に加え,発達障害,難病が挙げられ,身体の中にも肢体不自由,視覚障害,聴覚障害等があり,それらの重複障害者もいる。以下では,各障害に分けて特性について説明する。
 まず,視覚障害の主な特性としては,視覚的な情報を全く得られない(全盲)又はほとんど得られない(弱視)人と,文字の拡大や視覚補助具等を使用し保有する視力を活用できる人とに大きく分けられる。視力を活用できない人の場合,音声,触覚,嗅覚など,視覚以外の情報を手掛かりに周囲の状況を把握している。文字の読み取りは,点字に加えて最近では画面上の文字情報を読み上げるソフトを用いてパソコンで行うこともある(点字の読み書きができる人ばかりではない)。視力をある程度活用できる人の場合は,補助具を使用したり文字を拡大する等様々な工夫をして情報を得ている。見え方や見えづらさには個人差が大きく,外見からでは判断できないことに留意が必要になる。
 次に,聴覚障害の主な特性としては,生まれつき耳の聞こえない人は,手話でコミュニケーションをとる人が多い。難聴者(少しでも音声が聞こえる人)は,補聴器や人工内耳で聞こえを補うことが多い。補聴器や人工内耳を装用している場合は,スピーカーを通じる等の残響や反響のある音は聞き取りにくい。
 聴覚障害は外見上わかりにくい障害であり,その人が抱えている困難も他の人からは気付かれにくい側面がある。
 聴覚障害者のコミュニケーション方法は手話,筆談,口話(補聴器を使って残存聴力を活用しながら,相手の唇の形や動きを見て,話す内容を理解し,同時に自ら発声すること)など様々な方法があるが,どれか1つで十分ということではなく,多くの聴覚障害者は話す相手や場面により複数の手段を組み合わせるなど使い分けている。
 肢体不自由の主な特性としては,車いす使用者にとっては段差や坂道が移動の大きな妨げになる。脊髄損傷等により,体温調整が困難な人もいる。段差をなくす,車椅子移動時の幅・走行面の斜度,車椅子用トイレ,施設のドアを引き戸や自動ドアにするなどの配慮をすることなどが必要である。
 知的障害の主な特性としては,概ね18歳頃までの心身の発達期に現れた知的機能の障害により,生活上の適応に困難が生じる。「考える,理解する,読む,書く,計算,話す」等の知的機能に発達の遅れがある。言葉による説明を理解しにくいため,ゆっくり,丁寧に,分かりやすく話すことが必要である。
 また,精神障害の原因となる精神疾患は様々であり,原因となる精神疾患によって,その障害特性や制限の度合いは異なり,その中には長期にわたり,日常生活または社会生活に相当な制限を受ける状態が続くものがある。代表的な精神疾患として,統合失調症や気分障害等がある。たとえば,統合失調症は,脳の病気であることを理解し,病気について正しい知識を学ぶ必要がある。
 さらに,発達障害の主な特性としては,相手の表情や態度などよりも,文字や図形,物の方に関心が強い,見通しの立たない状況では不安が強くなることがある。
 そのため,肯定的,具体的,視覚的な伝え方をする(「〇〇をしましょう」といったシンプルな伝え方,その人の興味関心に沿った内容が図・イラストなどを使って説明するなど)などの工夫が挙げられる。
 また,難病の特性としては,神経筋疾病,骨関節疾病,感覚器疾病など様々な疾病により多様な障害を生じる。医療的対応を必要とすることが多い。それぞれの難病に特性が異なり,その特性に合わせた対応が必要である。

(5) 障害者福祉施策
 2005年,それまでの身体障害者福祉法,知的障害者福祉法,精神保健福祉法,児童福祉法と障害の種類や年齢で分立する法律に基づいて行われていた障害者福祉法制を給付面において一元化したのが障害者自立支援法であった。しかし,同法の応益負担の仕組みに批判が集中し,全国で違憲訴訟が提起され,国は新たな総合的な福祉法制の実施を約束し,裁判上の和解が成立した。その後,障害者法制について制度改革が行われたが抜本改革はなされないまま2012年6月に障害者総合支援法が成立し,現在の障害者福祉施策の根拠法となっている。

(6) 所得保障制度
 障害者の所得を保障する制度として,障害基礎年金や障害厚生年金,特別障害者手当,障害者福祉手当,特別児童扶養手当,東京都重度心身障害者手当,心身障害者福祉手当等がある。
たとえば,2017年4月分からの障害基礎年金の支給額は,年97万4125円(1級),年77万9300円(2級)である。

(7) その他,基礎用語
 「合理的配慮」とは,障害のある人が他の市民と平等に生きていくために,過度な負担にならない範囲で,社会的障壁を取り除くために必要な便宜のことである。障害者権利条約2条などに定義がある。
 「ノーマライゼーション」とは,障害のある人とない人とが平等に生活する社会を実現させる考え方である。
 「インクルージョン」とは,障害のある人とない人が区別なく,共に学び,共に生きる機会を作っていくことである。