東京弁護士会

障害者権利条約と日本の成年後見制度─本人意思の探求こそが後見人業務の主題─

高齢者・障害者の権利に関する特別委員会委員
稲村 晃伸(60期)

1 障害者権利条約の批准と成年後見制度

 日本は,2014年1月20日,障害者権利条約を批准した。同条約は第12条で,①障害者を法的能力によって差別することを禁止するとともに,②これまでの「代行的意思決定」を廃止し,本人に不足する判断能力を意思決定支援により補い,本人が法的能力を行使できるようにする「支援付き意思決定」に転換するように締約国に求めている。
いわゆる「代行的意思決定から意思決定支援へ」のパラダイム転換である。
 日本の成年後見制度は,精神上の障害による判断能力の低下に応じ後見・保佐・補助の3類型に分け,後見類型では画一的な行為能力制限と包括的な代理権が付与され,保佐類型でも民法13条所定の行為につき画一的に行為能力制限がなされている。そこで,同条約の批准を受けて,日本の成年後見制度は,①後見類型への偏重や過重な費用負担,家庭裁判所の監督体制の不備等の問題点について運用面での改善と②代行的決定制度から支援付き意思決定制度への法改正を含めた根本的な制度改革を迫られている。
 以上を念頭に,弁護士が成年後見実務を担当するにあたり注意すべき点を検討したい。

2 意思決定支援における後見人の基本姿勢

 日本の成年後見制度は,後見人に包括的代理権を付与し,比較的広範な裁量を与え,後見人が本人の客観的な最善な利益を図ることが是とされている。しかし,その一方で「自己決定権の尊重」「残存能力の活用」「ノーマライゼーション」の理念からは,広範な裁量に一定の制約があり,民法も意思決定支援を直接規定してはいないが,民法858条(876条の5第1項,876条の10第1項)は,本人の意思尊重義務を課している。
 そのための,成年後見業務追行上の実務的留意点としては,本人の意思決定の形成過程において福祉支援員,相談支援員,友人,医療従事者,親族などとの協働作業を意識すべきであろう。
 まず本人が自己決定できるように,実行可能なあらゆる支援(自己決定を行う上で不可欠な情報理解・記憶保持・比較検討・表現それぞれの局面において,本人の特性に基づく合理的配慮を行う)を関係者とともに追求し,当該事案において意思決定支援がこれ以上不可能もしくは不適切になった時点で,身上配慮義務に基づく他者決定支援へと切り替え,最後の手段としての法的な代理・代行決定権限を行使して本人の利益保護を図るべきである。そこでの後見人による決定の指針はあくまでも本人の意向や主観的価値観に求められる。

3 実務上の留意点

 成年後見業務を行うに当たり,まず探求すべきは,本人(成年被後見人)の意向ないし意思である。よって,後見人としては,これまで以上に,日頃から本人とコミュニケーションを密にし,本人の正確な意思や選好・価値観を把握するよう努めたい。一見すると不合理な決定を本人が選択しようとする場合も,直ちに本人に能力がないと結論づけるのではなく,まずは,様々な選択肢を本人が検討したうえで自己決定できるよう,本人の支援者とともに意思決定支援を尽くすことが肝要である。
 仮に意思決定支援を尽くしても本人の現在意思が把握困難又は本人が意思決定を行うために不可欠な前提要素(例えば,決定に至るために最低限必要な情報理解等)が欠けている場合には,本人が過去に表明した意思や,福祉関係者等の周囲の支援者等からの情報を総合考慮して,その現在意思を推測せざるをえない。その場合には,周囲の支援者と議論を尽くすことが重要であり,そのような協議の積み重ねが,本人にとっての「(主観的)最善の利益」の追求,ないし国連の障害者権利条約委員会が同条約12条の解釈に関する一般的意見第1号において言及している本人の「意思と選好に基づく最善の解釈」に繋がるものと思われる。
 最後に,本人の現在意思の推測すら困難な場合には,最終手段として,後見人が代理・代行決定権限を行使せざるを得ない段階に至ることもあろうが,本人にとっての「(主観的)最善の利益」の追求を念頭に,権限行使(介入)が許されるとしても必要最小限度の範囲に限られる。

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