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障害者虐待防止法のポイント─頻繁に起きている障害者虐待─

高齢者・障害者の権利に関する特別委員会委員
瀬谷ひろみ(60期)

1 障害者虐待の現実

 2016年6月15日,鳥取県の障害者支援施設において知的障害のある女性入所者3名に対し,最長20年から3年にわたり,1日14時間から6時間半,居室を外部から施錠する虐待が行われていたというショッキングな事件が報道されたことは記憶に新しい*16。それ以降も,静岡県の障害者支援施設の職員が,施設に入所している重度心身障害者に暴力を振るったとして逮捕・起訴された事件*17,熊本県の知的障害者支援施設の職員による利用者の所持金の使い込みや差別的発言,入所者の襟首をつかむ等の身体的虐待等につき県が改善指導を行った事案*18(ともに同年11月報道),長崎県の障害者就労支援施設の元利用者2名が性的虐待や精神的虐待を行った施設運営団体の役員に対してなした損害賠償請求が認容された事案(2017年2月報道)*19等,障害者虐待に関する報道は枚挙に暇がない。
 また,平成27年度に自治体により障害者虐待と判断された件数は,養護者による虐待件数は前年度からはやや減少したものの1593件に上り,障害福祉施設従事者等による虐待件数は339件で前年度から9%増加した*20。また,使用者による障害者虐待の相談・通報件数も前年度から28%増加(848件)しており*21,「障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律」(障害者虐待防止法)施行から4年以上が経過した現在も,障害者虐待の問題は依然として深刻な状況にある。

2 障害者虐待防止法のポイントと障害者虐待案件対応の留意点

 弁護士が障害者虐待案件に関与する場合の多くは,虐待を受けている者の家族や福祉関係者からの相談を契機とするものと思われる。障害者虐待の場合,虐待行為の多くが家や施設,職場等の密室で行われ,本人が被害を訴え難く,また,本人がSOSを出していても我々がそのサインを上手く受け取れない場合もある。そのため事実確認や証拠収集が困難な場合が多い。そのような場合,相談を受ける弁護士も一人で全て対応しようとせず,早い段階から自治体や地域の福祉関係者に相談するとともに,これらの関係機関を通じて精神保健福祉士等,専門家のサポートを受ける等関係者と連携し,役割分担を行い本人の保護のための最適な手段と着地点を検討する必要がある。
 その際,よって立つところが2011年6月17日に成立し,翌2012年10月1日から施行された障害者虐待防止法である。同法のポイントは図4のとおりである。相談を受けた弁護士は自治体及び関係者等とケース会議を行いこれら機関と連携して,同法に定める自治体の調査監督権等の発動を促して事実確認や証拠収集を行い,本人の一時保護を図る等の対応を行う。虐待の案件は本人の生命身体の危険に関わるため相談やケース会議等で専門職として迅速かつ正確な判断を求められる場合もある。困難事例に直面し判断に迷った場合には,一人で抱え込まずに当委員会*22へ相談されたい。

*16:2016年6月15日付産経新聞

*17:2016年11月17日付静岡新聞

*18:2016年11月16日付西日本新聞

*19:2017年2月26日付長崎新聞

*20:2016年12月16日付厚生労働省プレスリリース「平成27年度都道府県・市区町村における障害者虐待事例への対応状況等(調査結果)」

*21:同上

*22:東京弁護士会人権課 TEL 03-3581-2205