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~障害のある人から法律相談を受けるにあたり弁護士として知っておきたいこと~障害者法律相談Q&A

高齢者・障害者の権利に関する特別委員会委員
平河 有里(62期)
清水 満穂(63期)
福元 温子(64期)
大島 洋次(66期)

障害のある方から法律相談を受ける場合,どのようなことに気をつければよいでしょうか。

 障害者を対象とした専門相談以外でも,弁護士であれば誰でも障害者からの相談を受ける可能性があります。相談者の話のつじつまが合わないからといって,直ちに「法律問題ではない」と判断してしまうようなことは厳に戒められるべきです。障害者の人権擁護は弁護士の重要な使命の一つであるというだけでなく,障害者差別解消法により,当会及び弁護士を含む事業者は,障害者の不当な差別的扱いをすることを禁じられており,合理的配慮を提供する努力義務が課せられています。
 障害者からの相談も一般法律相談と同じであり,①相談者の特性で事件をえり好みしない,②言葉が流暢ではなく一見つじつまが合わなくても客観証拠から事実を組み立てる,③相談者の素朴な言い分を,あくまで法的に評価判断することが大切です。
 これに加えて,障害者から相談を受ける場合,障害の種類や個人の特性に応じた配慮が求められます。例えば,車いすを利用される方などの相談場所までの移動に困難がある方に対しては,事前にバリアフリー環境の確認と確保が必要になります。

聴覚に障害のある方とのコミュニケーションの取り方を教えて下さい。

 聴覚障害者に限らず,コミュニケーション手段に関する障害は外見からは分かり難いことがあります。障害のあることに気づいたら,事前にどのような配慮を希望するのか確認することが大切です。
 聴覚障害者のコミュニケーション手段の一つに手話がありますが,手話を用いない方もいます。また,手話にはいくつか種類があり,「日本手話」は,日本語とは異なる独自の文法体系であり,日本語とは別の独立した言語です。「日本語対応手話」は,日本語と同一の語順で手話単語を並べたものであり,日本語を習得した後に聴覚を失った方(中途失聴者)が用いることが多いとされています。相談者が手話通訳の配置を希望した場合,合理的配慮の一環として,できる限り対応することが望ましいです。東京では,社会福祉法人東京聴覚障害者福祉事業協会が運営する「東京手話通訳等派遣センター」に手話通訳派遣(有料)を依頼することが考えられます。オアシス高齢者・障害者専門相談(来館・出張)では,相談者から希望があった場合,当会が上記センターに依頼して手話通訳者を派遣してもらうことになっています。
筆談を行う場合,聴覚障害者の中には日本語の読み書きが苦手な方もいることから,相手の状況に合わせて,遠回しの表現は避けて,簡潔で分かり易い表現を用いるなど留意する必要があります。
 電話は,相談者のそばで手話通訳者に通訳してもらわない限り,利用することはできません。遠隔地の場合,電子メールやファックスを用いることが考えられます。

障害者手帳制度について教えて下さい。

 一般に障害者手帳と呼ばれるものには,身体障害者手帳,精神障害者保健福祉手帳,療育手帳があります。
身体障害者手帳は,身体障害者法を根拠とするもので,手帳交付対象となる障害は身体障害です。精神障害者保健福祉手帳は,精神保健福祉法を根拠とするもので,対象となる障害は全ての精神疾患です。療育手帳は,根拠となる法律は存在せず,都道府県や政令指定都市の判断で交付されているもので,対象となる障害は知的障害です(東京都では,療育手帳を「愛の手帳」と呼んでいます)。
 これらの手帳には障害の程度・等級が記載され,障害の程度によって受けることのできる福祉サービスが異なります。なお,障害者手帳における等級は,障害年金の等級と異なる場合があるので,注意が必要です。
 手帳取得によって受けられる福祉サービスは,地域や障害の種別・程度によって異なるため,詳細は市区町村に確認することが必要ですが,一般的には,医療費の助成,所得税・住民税等の優遇,相続税に関する障害者控除,公共料金の割引サービスといったものがあります。

国民年金の保険料を払っていない方は,障害基礎年金を受給できないのでしょうか。

 障害基礎年金は,公的年金から支給される年金給付の制度で,病気や怪我で障害の状態となった者の生活を保障するものです。
障害基礎年金は,公的年金制度であるため,原則として,初診日(=障害の原因となった傷病で初めて医師の診療を受けた日)の前日までに保険料を納付していることが受給要件となりますが,全額支払っていなくとも受給できることがあります。
 具体的には,初診日の属する月の前々月までの被保険者期間のうち,滞納期間が3分の1を超過していない場合,又は,初診日の前々月までの1年間の被保険者期間に保険料の滞納がない場合は,受給要件を満たします。
また,生まれながらあるいは未成年のときから障害を発症して成人前に受診歴のある障害者(初診日が20歳未満の人)は無拠出制の障害基礎年金を受給できますので,国民年金の保険料納付は一切不要です(但し所得制限があります)。
 初診日の事実認定は,前述の保険料の納付要件との関係だけでなく,障害年金を遡及請求する場合や障害認定日との関係でも極めて重要なものであり,実務でもよく争われています。
 障害年金は障害者の方から相談をよく受ける分野であり,専門的な知識が必要とされることから,弁護士としては,よく調査した上で回答しなければなりません。

精神障害者の方から障害のために仕事が続かないとの相談を受けました。どのような助言をしたらいいでしょうか。

 職業活動を続けるにあたっては,以下の機関・人物に相談することが考えられます。障害者の方は情報から疎外されている場合が多くあるため,情報提供することも重要です。
 (1) 市区町村の障害者就労支援センター:就労支援コーディネーター,生活支援コーディネーターが職業支援,職業準備支援,職場開拓,職場定着支援や日常生活及び社会生活支援を行っています。2017年2月現在,東京都には53か所あります。法律相談の場でインターネットが使用できれば,東京都の支援事業一覧を参照し,具体的に自宅近くの支援センターを案内することが好ましいと思われます。
 (2) (1)のほかに障害者就業・生活支援センターや地域障害者職業センターという機関があります。これらの機関は東京都内にはそれぞれ数か所ずつしかないため,紹介する際は相談者の自宅近くにあるか確認が必要です。
 (3) ジョブコーチ(職場適応援助者):ジョブコーチとは,障害者,事業主,障害者の家族等に対して,障害者がその職場に適応できるよう職場内外の支援環境を整える者を言います。例えば,企業内のニーズを調査して同企業内の障害者の仕事に結びつけたり(一般企業に雇用される企業内ジョブコーチ),外部から障害者の就労先を定期的に訪問して定着支援を行ったりします。

知的障害の子を持つ高齢の親御さんから,子の将来について相談を受けました。どのような助言をしたらいいでしょうか。

(1) 福祉サービスの必要性
まず,福祉サービスを受けているかどうか確認しましょう。障害者に対する権利侵害の要因に,社会における障害者の孤立が挙げられます。障害者を福祉サービスにつなげることは,権利侵害の予防にも繋がります。以下福祉サービスについてご説明します。
①療育手帳の取得:手帳が交付されることによって,一貫した指導・相談が行われるとともに,各種福祉サービスが受けやすくなります。最初に手帳を取得しているかを確認し,取得未了であれば取得を促しましょう。手帳の詳細は前述のとおりです。
②支援施策の利用:まず,暮らしの場として,グループホーム(障害者総合支援法の共同生活援助)があります。次に日中に通所する場所としては,就労継続支援B型事業所(軽作業等を行い,工賃が給付される),生活介護事業所及び地域活動支援センターがあります。多くの自治体では地域生活支援事業の移動支援事業として,ガイドヘルパー派遣事業を実施しており,ヘルパーと外出等の活動をすることも考えられます。
(2) その他障害者を消費者被害等から守る方法
 障害者の予防的な権利擁護の方法としては,①社会福祉協議会が行っている,日常の金銭管理や福祉サービスを受けるための手助けを行う日常生活自立支援事業(旧地域福祉権利擁護事業)の活用,②弁護士との間でホームロイヤー契約の締結,③弁護士等による任意の財産管理契約の締結,④成年後見制度の利用などが考えられます。

精神科病院の入院患者からの退院請求・処遇改善請求の相談依頼を受けたら,どうしたらいいでしょうか。

 日本の現状では,医療的には退院可能なのに,受け入れ条件が整っていないために退院できない「社会的入院」も少なくないとみられています。入院患者からの相談に対応することには社会的意義があり,積極的な対応が求められています。
 精神保健に関する相談・依頼には日弁連の委託援助制度が利用できます。なお,精神保健に限らず,相談者が相談場所へ来られない場合,法テラスの出張無料相談(事前申請要)を利用することもできます。
 精神保健福祉法により,精神科病院の入院には,措置入院,医療保護入院,緊急措置入院,応急入院,任意入院などの種類があるので,まず入院形態を確認しましょう(本稿では医療観察法による入院は除外しています)。
入院患者と弁護士との交通は精神保健福祉法で保障されています。まずはご本人と対面して相談を受けることが肝要ですが,可能であれば早期に主治医や家族等からも情報収集するべきです。
 相談への対応例として,①ご本人と面会(病名・病状,治療状況,薬,希望などを確認),②主治医と面談(退院についての見解,退院に至っていない理由を聴取),③家族等からの事情聴取,④ご本人と再度面談(②③の結果を踏まえ,希望を確認),などを行います。
 相談の結果,退院請求や処遇改善請求を受任した場合の対応例として,①都道府県知事等宛の請求書を,精神保健福祉センターへ提出して,受理通知を受領,②意見書及び資料を提出,③(病院管理者や家族への)意見聴取への立会,④審査会で意見陳述,などを行います。
 参考資料として,日弁連会員専用サイト(https://www.nichibenren.jp/opencms/opencms/shoshiki_manual/kaji_korei_shogai/fukushi.html)に「精神保健福祉マニュアル」が掲載されおり,退院・処遇改善請求書のサンプル書式など,資料も豊富に添付されています。