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六 4名の方(当事者3名、支援者1名)へのインタビューから考える合理的配慮

Ⅰ 聴覚障害者と合理的配慮

柳 匡裕さんの写真

柳 匡裕さんへのインタビュー

【プロフィール】
ろう者。一般社団法人ありがとうの種代表として手話カフェ「Sign with Me」、「手話で生きる子どものあ~とん塾」や手話普及事業を営んでいる。
生まれつき「ろう」。医学的には聴力は90~110デシベルだが、聴力に頼ることはせず、手話を第一言語として生活している。

1 インド料理との出会いがきっかけに

なぜ飲食店を始めたのですか。

起業のヒント探しで街を歩いていたとき匂いにひかれて入ったお店がインド料理店でした。美味しく何度も通ううちに、自分の思い込みとは異なりインド人にも色々な人がいると気づかされました。そういった経験から、当事者の手で当事者の雇用をつくる、当事者の手で当事者の職域を開拓する、当事者の手で当事者のロールモデルを発信するという3つのミッションを同時に達成でき、かつ「ステレオタイプ」に気付かせてくれる場所にできる、と飲食店をやることに決めました。

2 法人を立ち上げる際の社会的障壁はなかったが、まだ課題も

社会的障壁等はありましたか?

昔は、ろう者は話せない・聞こえないので、準禁治産者(民法旧11条)とみなされて銀行口座も開設できず、ローン等の契約もできないという差別がありました。しかし先人の活動のお陰で民法旧11条は撤廃され、私は問題なく銀行口座を開設する等、法人を立ち上げる際の社会的障壁はありませんでした。
ただ、飲食事業の上で、電話での商談が商習慣となっていることが社会的障壁でした。それも少しずつ社会も変わり、今はメール等も増えています。また、法人をつくった後に、「電話リレーサービス」の試験的プロジェクトが始まり、やがて公共インフラとして整備されました。FAXやメールだと1カ月かかったことが電話(リレーサービス)だと20分で済ませられる等、社会的障壁が解消されつつあります。ですが、電話相手に疑念を抱かれることもあり、さらなる周知が必要です。

3 弁護士に期待すること

聴覚障害の方から弁護士事務所に相談の連絡をしたが、耳が聞こえないことを言った瞬間、弁護士から断られたと聞いたことがあります。何かアドバイスはありますでしょうか。

どんな人でもステレオタイプは持っています。本能に近い先入観というか、フィルターを外すというのは難しいことですが、フィルター自体をアップデートすることはできます。また、対応方法については、当事者のいるところに行って当事者と会うのが一番の方法です。弁護士の方も色々な人とまずは会うことで、自然とアップデートできるはずです。手話を公用語にしたスープカフェ「Sign with Me」もありますので、是非一度お越しください。

弁護士会への要望を教えてください。

遠隔手話通訳サービスの導入をぜひ検討していただきたいです。現在の社会では手話でも問い合わせたり、相談できる機関・企業窓口が増えていますが、遠隔手話通訳サービス業者に委託して導入しているところが多いです。弁護士会でも、例えば、聴覚障害者から法律相談センターや法律事務所・弁護士に法律相談が来た場合、手話通訳が必要なときは、弁護士会の遠隔手話通訳サービスを利用できるようにすれば、弁護士や法律事務所にとっても助かると思います。

【インタビュアーのコメント】

ステレオタイプな見方で決めつけて判断することは避けることが、合理的配慮を考える上でも大事だと感じました。

Ⅱ 精神障害者と合理的配慮

山田 悠平さんの写真

山田 悠平さんへのインタビュー

【プロフィール】
一般社団法人精神障害当事者会ポルケ 代表理事
2016年8月設立 2021年12月法人化
精神障害の当事者が交流する場づくりや、講演活動、調査研究等を通じて、当事者主体の価値を発信し、精神障害の社会課題の解決に向けて取り組んでいる。

1 精神障害の当事者が交流して理解を深める場

ポルケの活動内容についてお聞かせください。

最初は、精神障害の当事者同士が交流できるお話会を定期的に開催することから始まりました。精神障害の当事者がそれぞれの体験談を話し合い、そこで挙がった問題を昇華して、別の機会のアンケート調査や講演活動で活かすことがあります。
私自身、統合失調症で4回の入院経験があります。入院中の当事者同士の語りで感じる温かみのあるつながりは、当事者活動を行ううえでの原体験となりました。

2 精神障害は目に見えないので、理解しにくい

精神障害の特性として、どのようなことが挙げられますか。

障害の状態像を一義的に説明できないことに難しさがあります。
精神障害の状態は、身体障害のように見た目でわかりやすい固定的な状態ではなく、症状に波があり、断続的に反復的に起こります。私自身、元気な時は元気ですが、体調が悪い時は、寝込んでしまい、電車に乗ることさえもハードルが高いことがあります。

3 合理的配慮の前に、何が社会的障壁になっているかを知ってほしい

精神障害を理解する上で、大切なことは何ですか。

まず、精神障害のある人は国内に600万人超いるにもかかわらず、「社会の中で」見えにくい存在となっていることに意識を向けることです。つまり、病気や疾病としての対個人へのケアの視点だけではなく、医療提供体制のあり方や偏見や差別の問題など、社会側の問題にもしっかり目を向けることを大切にしていただきたいです。

4 精神障害に対する一番の社会的障壁は、社会の偏見

これまでの経験で、社会的障壁を感じたことはありますか。

アパートを借りられないことがありました。大家さんは、直接障害を理由として断るわけではなく、遠回しに別の理由を挙げて繕うのですが、実質は、障害を理由として断るというようなことがありました。偏見や差別、無理解に私たちは苦しめられています。

5 精神障害は誰か個人の問題ではなく、社会全体の問題

合理的配慮を考えるポイントはどのようなものがありますか。

合理的配慮とは、当事者側から自分の障害の状態を言語化して、こういう配慮をしてほしいと言うことが求められますが、一定数の精神障害者にとっては、偏見や差別の問題から時に難しいことを理解してもらいたいです。障害全体の中でも精神障害は、しばしば遅れがちな状況にあります。当事者のエンパワーメントの促進とあらゆる領域での障害理解の取組みがますます期待されています。多様性を価値とする社会づくりに向けてともに学び考えていきたいです。

【インタビュアーのコメント】

「精神障害者への合理的配慮を考える前提として、何が障害者にとって社会的障壁になっているかを知っておくことが重要だ」という山田さんのお話が印象に残りました。

Ⅲ 視覚障害者と合理的配慮

大石 亜矢子さんの写真

大石 亜矢子さんへのインタビュー

【プロフィール】
本名は大胡田亜矢子。未熟児網膜症により失明し両目とも全盲。武蔵野音楽大学声楽科卒業。ソロによる歌唱やピアノの弾き語りによる演奏活動を行う。また、盲導犬の啓発活動、夫で全盲の大胡田誠弁護士(第一東京弁護士会)とともにコンサートを開催している。一男一女の母。

1 法律相談等に必要な合理的配慮の例

初めて法律事務所を訪問する場合、どのような配慮が必要ですか。

私は、パソコンで情報を調べるので、ウェブサイトに弁護士の人柄が分かる自己紹介が載っていると安心します。道案内は、最後は人に聞くため、見えるものなどを詳しく文章化してもらえると嬉しいです。Google Mapの画像は読み上げできません。PDF は読み上げできるようになってきていますが、できないことがあります。初めて訪問する時は、ビルの入口を探すことなどが難しいため、できれば最寄り駅まで迎えに来てもらえると助かります。

弁護士が事件を受任する場合、書面についてどのような配慮が必要ですか。

ワードであれば、普通のパソコンで読み上げできます。相手方の書面が紙やPDFで読み上げできない場合、人によってニーズは異なりますが、私は、ワードにしてもらうか、読み上げて録音したデータを提供してもらえると助かります。

2 点字が必須という誤解

弁護士の中には、視覚障害者に対し、書面を点字にする必要があるから事件は受けられないと誤解している人がいるかもしれません。

私は文章を点字で読みたい方ですが、中途で見えなくなる視覚障害者も多く、点字を使わない人も増えています。点字ではなくワードや読み上げ、自分でPDFやワードを点字化する方法もあるので、依頼を断らず力を貸していただきたいです。

3 盲導犬同伴の入店拒否と対話の大切さ

盲導犬を理由に入店拒否等にあった経験はありますか。

入店拒否は時々あり、病院や飲食店が多いです。病院のケースで、事前に電話で問い合わせた時はよいと言われたのに、実際に行ったら駄目だと言われて、病院の方針が決まっていなかったことがありました。どのようにしたらよいのか対話することが大事だと思います。

4 法律に対する社会の理解は不十分

障害者差別解消法の施行による影響はありますか。

お店に対して、障害者差別解消法や身体障害者補助犬法について伝えると、調べ始めたり、別の担当者に連絡を取ってくれるなど態度が変わって、話が良い方向に進むことは結構あります。

5 積極的な声掛けの必要性

視覚障害者と初めて会う時、どのようにお声がけしたらよいですか。

「大丈夫ですか」と聞かれると、「大丈夫です」と反射的に答えてしまうので、「何かお手伝いすることはありますか」でよいと思います。最近コロナの影響もあり、手伝ってくれる人を探すのが難しいので、介助の仕方が分からなくても、積極的に声をかけてもらえると助かります。

6 弁護士への期待

弁護士に期待することがあれば教えてください。

勉強して知識を得るよりも、障害者と直接会って知ることで、相談が来た時に、慌てずに相手の状況を想像できるようになると思うので、障害当事者による研修はよいですね。障害者としても、自分たちの言葉で法律について説明できるように、勉強会など法律を学べる機会が増えるとよいと思います。

【インタビュアーのコメント】

事前にご著書を読むなど準備しましたが、一緒に歩いて移動し、お話を聞く過程で自分の思い込みに気づかされ、直接会って知ることの大切さを痛感しました。

Ⅳ 発達障害者と合理的配慮

箕輪 優子さんの写真

箕輪 優子さんへのインタビュー「障害ってなんだろう」

【プロフィール】
横河電機(株)人財総務本部に所属
1999年横河ファウンドリー(株)/特例子会社横河ファウンドリー設立に尽力、
横河電機(株)ダイバーシティ推進担当等を経て2022 年4月~現職

1 障害の特性を生かす

横河電機、横河ファウンドリーでの障害のある方の働きぶりについて教えてください。

国内のYOKOGAWA グループでは、2024年6月1日現在、障害者手帳を持っている社員は139名で、そのうち、私が設立に関わった横河ファウンドリーには知的障害や発達障害のある社員が29名働いています。特別支援学校在学中は、作業学習において「木工」や「はた織り」を得意としていた方、入社前までにPC操作や、アルファベットの読み書きを学ぶチャンスが無かった方も、横河ファウンドリーではPC を使った仕事に就いています。いずれも特別な仕事ではなく、YOKOGAWAグループにおいて障害のない社員が担っていた仕事です。漢字の読み書きが苦手な方、スムーズに会話をすることが難しい方、PC操作の経験が全くない方でも、経験のないことにも興味を持ってチャレンジする意欲があれば、担える仕事はあると思います。例えば、"こだわり"の強い方は正確性という点では極めて優れていますし、文字が読めない、また読めても意味を理解することができない、長期的に記憶が保てない方は、紙面を電子化し、不要な紙面を廃棄する仕事においては、情報漏洩のリスクが極めて低いと言えます。横河ファウンドリーにおいても、障害の特性や得意なことを生かして仕事をしています。

2 分からないのは教える側の責任

障害のある社員も活躍し続けるために、どのような点を心掛けていらっしゃいますか。

企業ですので、社員へは賃金を支払うこと、会社としては利益を生むことが前提です。そのためには「障害があるからできない」のではなく、誰もが品質や効率を維持・向上できる環境を整えることが重要です。社員一人ひとりが持っている力を常に100%引き出すために、併せて成長し続けるためにどうしたらいいのかを考えることも人事の仕事です。
「発達障害は****」という先入観や固定概念ではなく、目の前にいる個人の特性に応じて、平易な言葉、文字、図を用いるなど「正しく伝わる」よう最もふさわしいコミュニケーションの方法を考えます。障害の有無にかかわらず、入社直後や配置転換直後は誰でも「初心者」です。経験がないために、スムーズに指示を理解することが難しいという状況もありますし、説明や指示の内容、既存マニュアルが適正かの検証も重要です。一方的に「障害があるから理解できない」と決めつけることのないよう十分に留意する必要があります。「できるように教える」ことが「教える側の責任」ですね。

3 障害は関係ない

何か合理的配慮をしなければならないと難しく考える人もいるかと思いますが。

コミュニケーションをとるときに、お互いに、相手の話を聞こう・相手に伝えようという姿勢が大切で、障害の有無は関係ありません。例えば、選考プロセスにおいては書類で判断せず、まず会って話を聞いてみることが大事です。応募者の方が安心してコミュニケーションをとれるよう、まずは、アイスブレイクとして、面接官から、自分の趣味や最近嬉しかったことなどを含めた自己紹介をし、応募者との心理的距離を縮める工夫も大事です。もし、応募者が自分の「好きなこと/やりたいこと」をわかっていない場合は、例えば「PC を使った仕事では"文字入力"と"英数字入力"どちらが得意か/チャレンジしてみたいか」など内容が少しだけ異なる選択肢を並べ「希望に近いのはどちらか?」を繰り返していくと、真のニーズに近づいていくと思います。また、例え話や専門用語を避け、できるだけシンプルに伝えるように工夫をしています。今は「合理的配慮」といわれるようになりましたが、いかに丁寧に伝え、相手に理解していただくか、相手が本当に伝えたいことは何かを理解しようとするのは当たり前のことで、障害の有無とは関係なく、弁護士の皆さんも日常的に行っていることではないでしょうか。

【インタビュアーのコメント】

「分からないのは教える側の責任」、「障害があろうがなかろうが、目の前の人に、いかに丁寧に伝え、相手に理解してもらうかは、当たり前のこと」とのお話は、弁護士が相談者に接する場合の気づきになるのではないでしょうか。