東京弁護士会

行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律案の可決に反対する会長声明

2013年05月09日

東京弁護士会 会長 菊地 裕太郎

1 本年3月1日、政府は、昨年11月の衆議院解散により廃案となった「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」案(通称「共通番号法」案。いわゆる「マイナンバー法」案。以下「旧法案」という)を、一部修正した新法案を国会に再提出し、今国会での成立を目指している。

2 当会は、旧法案の成立に強く反対してきた。
それは、旧法案が創設を目指している共通番号制度が、プライバシーを著しく侵害する危険が高いからである。
すなわち、共通番号制度は、生涯不変の一つの番号(共通番号)を、本人を特定する背番号(納税者番号、社会保障番号)として、行政と民間の分野において広く利用する制度であるため、事実上、だれもが他者の共通番号を知ることができる。共通番号をマスターキーにして様々なところにある個人データを検索すれば、正確に名寄せ・データマッチング(統合)でき、本人の意思とは関係なく自由に利用できてしまい、深刻なプライバシー侵害が起こりやすくなる。あるいは共通番号は「なりすまし」の手段として利用され、取り返しのつかない甚大な財産的損害を被ることになりかねない。

3 今回提出された新法案は、旧法案以上に明確に、民間分野における共通番号の利用・活用の拡大を目指しており、また、共通番号が記載された個人番号カードを身分証明書として積極的に利用・活用する方向性を打ち出している。ここには、利用範囲を広げることで国民に利便性の実感を持ってもらうという発想が根底にある。しかし、これは旧法案以上にプライバシー侵害の危険が高まることに繋がる。
たとえば、1936年に米国で始まった社会保障番号(SSN)は、事実上、あらゆる分野で本人確認の手段として利用され共通番号化してしまったため、他人が個人データを勝手に名寄せに利用したり、社会保障番号を「なりすまし」の手段に利用して本人に深刻な財産的被害を生じさせたりするなどの社会問題が多発するようになってしまい、現在では莫大な費用と労力をかけて分野別番号化を進めようとしている。オーストリアでは、2001年の住民登録法の改正により、2,300余りの自治体で管理していた住民登録データを内務省で一元管理するようになり、国民には生涯不変の番号がふられるが、利用範囲は限定されており、各行政機関では暗号処理をした分野別番号制(セクトラル方式)を採用することで、上記のような問題の発生を防止している。
このような時期に、生涯不変の番号を全国民に強制する共通番号制度の創設は、世界の趨勢に逆行するものである。

4 共通番号制度には国家の安全保障の上でも重大な問題がある。
すなわち、共通番号は全ての国民に割り当てられるから、国家組織の中枢にいる政府要人や国会議員、官僚、自衛隊の幹部、防衛産業の関係者などやその家族も例外ではない。これらの人たちの生涯不変の背番号付きの個人データも、他の国民同様、共通番号制度によって行政・民間両分野において大量に蓄積されることになり、わが国に敵対的な国家や集団などがこれらのデータを盗んで人的な弱点を見つけ出し、これを利用してその政治活動等を妨害しあるいは誘導するという事態も起こりやすくなる。
米国国防総省が2011年4月から独自の番号制を採用しているのは、かかる事態に対処するためである。

5 そもそも、共通番号制度を創設する具体的目的がきわめて曖昧である。
旧法案の共通番号制度創設の一応の具体的目的とされていた「給付付き税額控除」や「歳入庁」構想などの施策は事実上先送りされた。新法案では「より公平な社会保障制度や税制の基盤」、「情報化社会のインフラ」などという抽象的で曖昧な目的が掲げられているだけである。共通番号制度を創設した場合の費用対効果に関する政府による具体的な説明は一切なく、費用対効果は未だに不明である。
これでは共通番号制度の創設は、IT関連企業に莫大な国家予算を注ぎ込むだけの電子的ハコモノ事業になりかねない。

6 よって、当会は、新法案である共通番号法の制定に強く反対する。

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