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改めて、少年事件の実名等の報道に強く抗議し、少年法第61条の遵守を求める会長声明

2017年02月27日

東京弁護士会 会長 小林 元治

 株式会社新潮社は、「週刊新潮」2017年2月16日号において、名古屋市で女性を殺害したなどとして、殺人や殺人未遂等の罪に問われている事件(以下「本事件」という。)について、犯行時少年であった被告人の実名を、同年3月2日号において被告人の実名及び顔写真を掲載した。
 同社のこのような記事は、事件の重大性や被害者及び遺族の心情を考慮したものとしても、少年のとき犯した罪について氏名、年齢、職業、住所、容ぼう等、本人と推知することができるような記事または写真の掲載を禁止した少年法第61条に反し、許されない。
 少年法は、第1条において少年の「健全な育成」、すなわち、少年の成長発達権の保障の理念を掲げている。そして、推知報道がされると、少年のプライバシー権や成長発達権を侵害し、ひいては少年の更生と社会復帰を阻害するおそれが強いことから、同法第61条は、少年の推知報道を、事件の区別なく一律に禁止している。
 わが国も批准している子どもの権利に関する条約は、第16条で、いかなる子どもも私生活、家族等に対して恣意的にもしくは不法に干渉され、または名誉及び信用を不当に攻撃されてはならず、不法な干渉や攻撃に対し法律の保護を受ける権利があると規定している。同条約第40条第2項(b)(ⅶ)も、刑罰法規を犯したと申し立てられたすべての子どもの私生活が手続のすべての段階において十分に尊重されるべきものと規定している。さらに、少年司法運営に関する国連最低基準規則第8条も、少年のプライバシーの権利はあらゆる段階で尊重されなければならず、原則として少年の特定に結びつくいかなる情報も公表してはならないとしている。
 同社は、1997年7月、同年6月に神戸市須磨区で発生した小学生殺人事件の嫌疑をかけられた当時14歳の少年の顔写真を掲載した。これに対して当会は、少年法の理念及び少年の人権保障の観点から抗議声明を出し、少年法第61条を遵守するよう強く要請した。しかし、同社は、2005年、2006年、2013年及び2015年にも少年事件に関する記事の中で実名及び顔写真を掲載し、当会及び日本弁護士連合会はそのたびに抗議声明を出し、少年法第61条の遵守を求めた。特に、本事件に関する「週刊新潮」による実名報道・写真掲載については、2015年2月6日付け「少年事件の実名等の報道に強く抗議し、重ねて少年法61条の遵守を求める会長声明」でも実名報道・写真掲載をすることのないよう要請していたほか、2015年3月6日付けでも、同誌の別事件に関する実名報道・写真掲載に対して、同様の会長声明を発出しているところである。それにもかかわらず、再び明白な違法行為が繰り返されたことは極めて遺憾である。
 少年の氏名や容ぼうが報道されれば、インターネット上に少年の情報が半永久的に残り、少年は就労や日常生活において著しい不利益を受け、更生が阻害されることは明らかである。また、少年の更生可能性は裁判過程において裁判所によって判断されるべきものであり、報道機関が断片的情報から独自に判断し、実名報道をすることは許されない。
 当会は、株式会社新潮社に対し、同社の行為が少年法及び子どもの権利条約に反し、少年のプライバシー権及び成長発達権を著しく侵害するものとして強く抗議するとともに、今後、同社が少年の人権を侵害する報道を二度と繰り返さないことを強く求める。
 また、すべての出版・報道機関に対して、少年法を遵守し、少年及び関係者の人権の保障に留意して報道を行うことを要望する。

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