東京弁護士会

改めて、少年事件の実名等の報道に強く抗議し、少年法第61条の遵守を求める会長声明

2015年03月06日

東京弁護士会 会長 髙中 正彦

 株式会社新潮社は、昨日発売された「週刊新潮」2015年3月12日号において、去る2月20日に神奈川県川崎市で中学1年生男子の遺体が発見された事件の記事の中で、被疑者である少年の実名を挙げ、顔写真を掲載した。これは、少年のとき犯した罪について、氏名、年齢、職業、住所、容ぼう等、本人と推知することができるような記事又は写真の掲載を禁止した少年法第61条に違反し、許されないものである。
 当会は、去る2月6日にも、同社が、名古屋市で女性が殺害された事件の被疑者として逮捕された少年の実名及び顔写真を掲載したことに対して、少年法第61条の遵守を求める会長声明を発したところである。
 それにもかかわらず、同社が再び、独自の見解に基づいて、少年法第61条に明白に違反する記事掲載を敢行したことは、法治国家に対する挑戦であると言わざるを得ず、誠に遺憾である。
 少年法は第1条において、少年の「健全な育成」すなわち少年の成長発達権の保障の理念を掲げている。そして、推知報道がされると、少年のプライバシー権や成長発達権を侵害し、ひいては少年の更生と社会復帰を阻害するおそれが強いことから、同法第61条は、少年の推知報道を、事件の区別なく一律に禁止している。
 国際的に見ても、我が国も批准している子どもの権利条約は、第16条で、子どものプライバシー権、名誉権の保障を規定しており、第40条第2項(b)(ⅶ)で、刑罰法規を犯したとされるすべての子どもの私生活が手続のすべての段階において十分に尊重されるべき旨規定している。また、少年司法運営に関する国連最低基準規則第8条も、少年のプライバシーの権利はあらゆる段階で尊重されなければならず、原則として少年の特定に結びつくいかなる情報も公表してはならないとしている。
 そもそも、少年事件の背景や要因は複雑であり、事案の真相解明は家庭裁判所の調査・審判を待たなければならないが、重大な事件を起こした少年は、その成育過程において、虐待、貧困その他の劣悪な環境で育ったことにより、人格的発達が未熟であることが少なくないといわれている。
 そのため、報道機関には、事件の背景・要因を正確かつ冷静に報道する姿勢こそが求められる。
 ところが、新潮社はかねてより、少年法第61条に違反することを認識した上で、無罪推定の原則が働いているにもかかわらず、逮捕された少年を犯人と決め付け、少年に対する私的制裁とも言うべき実名等の報道を繰り返している。
 同社は、少年法第61条違反を敢行する理由として、同法違反の記事について出版社等の賠償責任を否定した2000年2月29日の大阪高裁判決や、ネット上で既に実名等の情報が拡散していること、さらには被害者側が実名等で報道されることとの対比などを挙げている。しかし、上記大阪高裁判決は、少年法第61条に違反した記事であっても、出版社が少年に対して直ちに民事上の賠償責任を負うわけではないということを示したに過ぎず、少年法第61条に違反する報道を正当化したわけではない。むしろ、同判決は、出版物の発行者は少年法第61条の趣旨を尊重すべきであると述べているのである。
 当会は、新潮社に対し、同社の行為が少年法及び子どもの権利条約に反し、少年のプライバシー権及び成長発達権を著しく侵害するものとして強く抗議するとともに、今後、同社が少年の人権を侵害する報道を二度と繰り返さないことを、改めて求める。
 また、すべての出版・報道機関に対して、少年法を遵守し、少年及び関係者の人権の保障に留意して報道を行うことを要望する。

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