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外国人人材受入れに係る「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」案に対し、慎重な審議と包括的な制度改革を求める会長声明

2018年12月04日

東京弁護士会 会長 安井 規雄

本年11月27日、第197回国会(今臨時国会)の衆議院において、在留資格「特定技能」を新設し、外国人を労働者として受け入れることを主眼とする「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」案(以下、「本法案」という。)が可決された。
しかしながら、国会の審議においては、以下の点が看過されていることから、参議院においては、これらを踏まえ慎重な審議をした上、包括的な制度改革に向けた本法案の修正及び関係法令の整備がなされるよう強く求める。

第1 本法案について修正すべき点

1 法の目的規定に、「外国人の人権」尊重と「権利利益」の確保を明記すること
本法案は、出入国管理及び難民認定法(以下、「入管法」という。)の目的規定(同法第1条)に「本邦に在留する全ての外国人の在留」との表記を加え、これを「公正な管理を図る」対象として追加している。しかし、本来、現在本邦に在留する外国人及び今後受け入れられる外国人の人権・権利利益の適切な保障こそが尊重されるべきである。また、行政法の目的規定に反対利益が記載されていないことも稀有である。したがって、「外国人の人権を尊重し、その権利利益を適切に確保すること」を入管法の目的に追記すべきである。
2 「特定技能」資格新設にあたり、人権に配慮した制度設計とすること
過酷な人権侵害を生じさせている現行の技能実習制度は即時廃止すべきである。他方、本法案に新設される「特定技能」は、現行制度がこれまで正面からは認めてこなかった産業分野での就労を可能とする在留資格を定めるもので、この点を評価する。しかしながら、労働力確保を急ぐあまり、在留期間の上限設定や、家族帯同の制限など、人権面における配慮が未だ不十分である。「特定技能」の新設においては、これまで指摘されている問題点について十分に審議を尽くし、省令への委任に頼ることなく、人権に配慮した制度設計を行うべきである。

第2 本法案審議において看過されている問題点

当会は、本法案審議に関連し、将来、受け入れられる外国人及び既に在留している外国人の人権保障について、以下の議論が看過されていることから、その問題点を指摘する。
1 在留資格なき状態の人々に対する人道的配慮
本邦における人材確保を本法案の目標に掲げるのであれば、まずは何らかの退去強制事由に該当しているものの、既に相当期間にわたって本邦に定着し在留してきた実績のある外国人及びその家族について、在留特別許可の活用によってその在留状態を速やかに正規化することを、現実的な解決手段として検討すべきである。
2 収容制度の抜本的改革と入国者収容所等視察委員会の独立性の確保を行うこと
本法案では、近時問題となっている入管における長期収容についての検討が全くなされていない。
将来受け入れられる外国人も現状と同様に無期限かつ裁判所の令状なく収容される可能性があるのであるから、国連条約機関による勧告にあるとおり、収容に期限を設けるとともに、逃亡のおそれがないなど送還確保に支障がない場合における収容を禁止し、収容の可否を裁判所の審査に委ねるべきである(本年4月25日付け当会会長声明)。
また、本法案では、入国者収容所等視察委員会は出入国在留管理官署に置くとされるが(本法案第61条の7の2)、これを機に法務省本省に置くことで、その独立性を一層確保すべきである。さらに、個々の被収容者の処遇に関する問題についても、同委員会が入国者収容所等の適正な運営に関わるもので必要と認める場合には、調査、勧告をする権限を認めるべきである。
3 難民行政の独立性・公平性の確保を行うこと
本法案は、政令により難民認定業務全体を出入国在留管理庁に委任することを可能とする(本法案第69条の2第1項)。しかし、出入国「管理」と難民「保護」という相容れない業務を入国管理局が一括して担ってきたことこそが、本来保護すべき難民が取締りの対象として扱われ、供述の信ぴょう性の評価、出身国情報の取捨選択・評価の誤りを招いてきた大きな要因であったというべきである。
この本質的な矛盾を解消し、難民認定制度の独立性と公平性を確保するためには、出入国管理業務と難民認定業務を切り離すべきである。
したがって、難民保護に関しては、明文で委任事項から除外し、出入国在留管理庁への委任を禁止すべきである。
4 外国人差別の禁止を徹底すること(人種差別禁止法の制定)
本法案は、特定技能雇用契約のうち活動の内容及びこれに対する報酬その他の雇用関係等につき「外国人であることを理由として、報酬の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱い」を禁止する(本法案第2条の5)。しかし、そもそも外国人労働者の受け入れの拡大においては、外国人労働者が平等な人間として受け入れられる制度設計が前提となるべきであり、雇用上の待遇のみならず、社会生活全般における差別の禁止が不可欠である。本年8月に出された国連人種差別撤廃委員会の総括所見においても求められているとおり、雇用関係における待遇のみならず、入居差別、入店差別、ヘイトスピーチなどを含む包括的な差別禁止法の制定を行うべきである。

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