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東京都内のすべての区市町村に犯罪被害者条例を制定することを求める会長声明

2021年03月29日

東京弁護士会 会長 冨田 秀実

東京都では、犯罪被害者等が受けた被害の回復又は軽減及び犯罪被害者等の生活の再建を図ること並びに犯罪被害者等を社会全体で支え、世界に開かれた国際都市として誰もが安心して暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的として、東京都犯罪被害者等支援条例が制定され、令和2年4月1日に施行された。
同条例施行後、被害後の弁護士による法律相談費用の助成、死亡遺族又は重傷病被害者に対する見舞金の支給、転居費用支援に加え、令和3年4月1日からは、被害者等支援専門員(コーディネーター)による支援や被害者参加制度における弁護士費用の支援などが進められている。一部施策には、利用要件の定めや、対象範囲が限定されているなど課題はあるものの、着実に被害者支援の取り組みが進められている。
一方、東京都下の23区及び39市町村において、犯罪被害者支援条例を定めているのは、中野区、杉並区、日野市、国分寺市、多摩市の5つにすぎない。
犯罪被害者は、何の準備もないまま突然被害に巻き込まれ、特に重大な被害に遭った被害者は、事件の翌日以降、従前と同じように生活を続けるのはまず不可能である。そのうえ、捜査協力のために何度も警察に足を運んで、時間と労力を使い、精神的にも経済的にも、有形無形の負担は計り知れない。さらに、被害者が亡くなった事件では、近親者の死を悼む暇もなく、複数の役所の複数の窓口にそれぞれ出向いて数々の行政手続をしなければならず、そのたびに、被害に遭ったことを繰り返し説明することを強いられている。
もとより、当会も、弁護士による犯罪被害者に対する支援活動に全力で取り組むものではあるが、区市町村こそが、市民が被害にあったときに、市民が頼る最も身近な組織である。被害にあったことが原因で、それまでの職につけなくなったり、居住地を変更せざるを得なくなったりした場合に、市民生活に寄り添う存在である区市町村は、住宅の確保、雇用支援、家事・育児・介護などの衣食住に関わる直接支援、保健医療の分野での支援など、被害者のためにできることが極めて多い。しかしながら、現場の自治体職員が、熱心かつ自主的に被害者支援のための活動に取り組もうとしても、条例の法的根拠がないまま活動するには限界がある。
犯罪被害者等が、被害を回復し又は軽減し、再び平穏な生活を営むことができるよう支援するための施策の策定・実施は、国だけの責務ではない。地方公共団体も適切な役割分担を踏まえ、地域の状況に応じて、それらを行う責務を有する(犯罪被害者等基本法第5条)。そして、ここにいう地方公共団体は、都道府県レベルに限られるものではない。
東京都の施策だけでなく、区市町村ごとに市民生活に密着したきめ細やかな施策が進められる必要がある。東京都に条例が制定されたから区市町村に条例が必要ないということにはならない。現に、被害者条例を制定した中野区においては、区が被害者支援を行うことの根拠が明確になり、被害者支援に特化した職員が被害者支援に精力的に取り組んでいることに加え、様々な企画が行われたり、区報にも被害者支援の特集が組まれたりすることで、直接支援に結びついただけでなく、区政及び区民、両面の啓発、犯罪被害者に対する理解が進んでいる。
ところが、現状のように、一部の区市町村にだけ条例が定められている状況では、多くの犯罪被害者が必要な支援を受けられていないにとどまらず、偶然、居住する場所が違うというだけの理由で必要な支援が受けられたり、受けられなかったりという不公平をも生んでいるのである。
そこで、当会は、東京都下のすべての区市町村において、犯罪被害者の平穏な生活を取り戻すための、市民目線のきめ細やかな犯罪被害者支援が行われ、市民の一層の理解促進を図るために、犯罪被害者支援に特化した条例を制定し、東京都の犯罪被害者支援の取り組みと両輪になって、犯罪被害者支援がより一層充実したものになるよう求める。

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