トランスジェンダー当事者である弁護士に対する脅迫行為を非難し、改めて、性的指向及び性自認を理由とする差別の禁止の実効的な法制度の確立を求める会長声明
2023年06月28日
東京弁護士会 会長 松田 純一
本年6月3日から同月5日にかけて、自らトランスジェンダーであることを公表し、セクシュアル・マイノリティ当事者の権利擁護活動にも積極的に関わってきた弁護士が代表を務める弁護士事務所のホームページに、当該弁護士の性自認に関する差別用語を使用した殺害予告等のメッセージが断続的に送られるという事件が発生した。
これは、当該弁護士に対する脅迫であるほか、当該弁護士の業務を妨害する行為であり、当会として到底見過ごすことができない。それにとどまらず、本件は、トランスジェンダーという属性に着目した差別的な動機に基づく犯罪(ヘイトクライム)というべきものであり、直接の被害者に対する加害だけに止まらず、被害者と同一の属性を有している全ての者に対し「次は自分が標的となるのではないか」という恐怖心を与える点で、断じて許すことができない。
当会は、本件の脅迫行為を強く非難するとともに、トランスジェンダー当事者を含む全てのセクシュアル・マイノリティの人々が差別されず生きることができる社会を実現すべく、活動を継続してゆく所存であることを、ここに表明する。
なお、当会は、本年3月29日に発出した会長声明において、性的指向及び性自認を理由とする差別の禁止を法律に明記することを求めてきたところ、同年6月16日に成立し同月23日に施行された「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」においては、基本理念として、「性的指向及びジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならないものであるとの認識の下に」との文言が規定されたものの、同法は、理念法に留まり、現に生じているセクシュアル・マイノリティに対する差別の解消に不十分なものである。また、セクシュアル・マイノリティの理解増進のための法律でありながら、啓発等は努力義務である上、立法過程において「全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする」との条項が追加された経緯などから、マジョリティによる不安の声を理由にマイノリティの人権保障のための施策を実施しなくてよいかのような誤解を与えかねず、既に取組みを進めている地方自治体や教育現場への実質的な委縮効果も懸念される。
今回の事件をも踏まえ、当会は、あらためて、性的指向及び性自認を理由とする差別の禁止の実効的な法制度の確立を求める。
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