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性的指向及び性自認の多様性に関する理解の増進に関する施策を策定、実施するとともに、性的指向及び性自認を理由とする差別の禁止を法律に明記し、あわせて同性婚の法制化を早期に実現することを求める会長声明

2023年03月29日

東京弁護士会 会長 伊井 和彦

岸田文雄首相は、報道によれば、本年2月1日の衆議院予算委員会で同性婚の法制化について「制度を改正すると、家族観や価値観、社会が変わってしまう課題だ」との内容の答弁をした。
また、直後の同月3日には荒井勝喜・首相秘書官(当時)が、性的マイノリティや同性婚に関する取材に対して、「社会が変わる。社会に与える影響が大きい」「見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」「秘書官室もみんな反対する」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」等と発言したと報道され、同月4日に更迭された。
性的マイノリティの人々に対しては長きにわたって社会全体からの差別・偏見が存在し、現在でも根深く残存している。同性カップルの婚姻を認めない現行法は性的マイノリティに対する差別の歴史の上に成り立つものである。そのことを顧みない岸田首相及び首相秘書官による上記の発言は、性的マイノリティに対する差別を追認・助長するものであり決して許されない。
札幌地方裁判所は、2021年3月17日、同性婚を認めていない民法及び戸籍法について、婚姻によって生じる法的効果を享受する法的手段を同性愛者に提供していないことが、合理的根拠を欠く差別取扱いに当たり、憲法第14条第1項に違反すると判示している。
さらに東京地方裁判所は、2022年11月30日、現行法上、自らのパートナーと家族になるための法制度が同性愛者にはないことは、同性愛者の人格的生存に対する重大な脅威、障害であり、個人の尊厳に照らして合理的な理由があるとはいえず、憲法第24条第2項に違反する状態にあると判示した。
岸田首相及び首相秘書官による上記の発言は、これらの司法判断にまったく目を向けようとしないものである。
また、岸田首相は、本年3月6日の参議院予算委員会で、LGBTQなど性的マイノリティへの理解増進を目的とする「LGBT理解増進法案」の成立に向けて努力する旨答弁したと報じられているが、政権与党である自民党においては、性的指向や性自認を理由とする差別禁止を法律に明記することについては、「分断を生む」「訴訟の乱発を招きかねない」等を理由とする反対論があると報じられている。
しかし、そもそも法の下の平等を定める憲法第14条第1項は差別を禁止している。国家は、すべての国民に対し、いかなる差別もすることなく、人権を尊重する義務を負うのであり、現実に差別が存在するとすれば、国家はその差別を是正する責務を負う。実効的な人権保障の観点からも、性的指向及び性自認を理由とする差別が禁止されることを法律に明記するとともに、婚姻の平等を実現するために同性婚を法制化することが必要である。
当会は、2021年3月8日に「同性カップルが婚姻できるための民法改正を求める意見書」を採択したほか、同年6月10日に「LGBT理解増進法案に関する会長声明」を発出するなどして、性的指向や性自認を理由とする差別が許されないことを指摘してきた。
本年5月、広島市で主要国首脳会議(G7サミット)の開催が予定されているが、G7諸国で、同性カップルに対する法的保障がなされていないのは日本のみであり、性的指向及び性自認の多様性についての日本の人権保障の立ち後れは、もはや看過することができない。
当会は、国会及び政府に対し、性的指向及び性自認の多様性に関する理解の増進に関する施策を策定、実施するとともに、性的指向及び性自認を理由とする差別の禁止を法律に明記し、あわせて同性婚の法制化を早期に実現することを求める。

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