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「福井女子中学生殺人事件」再審無罪判決に関する会長声明

2025年07月18日

東京弁護士会 会長 鈴木 善和

本日、名古屋高裁金沢支部(増田啓祐裁判長)は、いわゆる「福井女子中学生殺人事件」について、前川彰司氏に対し再審無罪判決を言い渡した(以下、「本判決」という)。

1986年3月19日、福井市内で卒業式を終えたばかりの女子中学生が自宅で惨殺されたという殺人事件(「福井女子中学生殺人事件」)で、前川氏は事件発生の1年後に逮捕されたが、逮捕以来一貫して無罪を主張していた。第一審(福井地裁)は、前川氏の犯人性を裏付ける関係者らの供述には信用性がないとし、1990年9月26日、前川氏に無罪判決を言い渡したが、控訴審(名古屋高裁金沢支部)は、1995年2月9日、逆転有罪判決(懲役7年)を言い渡し、前川氏の上告も棄却され確定した。

前川氏が申立てた再審請求(第1次再審請求審)では、95点の証拠が開示された上で一旦は再審開始が決定されたものの、検察官の異議申立により再審開始が取消されたため、再度前川氏が申立てた再審請求(第2次再審請求審)においてようやく再審開始が確定した。

第2次再審請求審(名古屋高裁金沢支部)においては、第1次再審請求審では開示されていなかった証拠が新たに287点も開示され、その中には関係者供述の信用性判断を左右する極めて重要な証拠も含まれていた。また、検察官が関係者の供述が客観的事実に反すること(事件当日に見たというテレビ番組が別の日の放送であったこと)を知りながら、それを隠していたこと等も明らかになった。2024年10月23日の再審開始決定において同支部は「確定審検察官の訴訟活動は、公益を代表する検察官としてあるまじき、不誠実で罪深い不正の所為といわざるを得ず、適正手続確保の観点からして、到底容認することはできない」と厳しく検察官を非難した。検察官は異議申立を断念し、再審開始が確定した。

本年3月6日に始まった再審公判において、検察官は有罪の立証活動を行わず即日結審し、本年7月18日、上記のとおり名古屋高裁金沢支部は、確定第一審の無罪判決(1990年9月26日)に対する検察官の控訴を棄却する判決を言い渡したのである(再審無罪判決)。

本判決は、捜査に当たった警察が、前川氏が犯人であるという関係者のうその供述の形成になりふり構わず積極的に加担した疑いが濃厚であるとし、警察官の職務の公正さの観点から到底看過できないとした。また本判決は、検察官が、関係者供述が客観的な事実に反するという不利益な事実を隠そうとしなければ、前川氏が1990年9月26日に得た無罪判決が確定していた可能性も十分に考えられるとした上で、検察官の公益の代表者としての職責に照らし、失望を禁じ得ないとした。さらに、検察、警察の不正、不当な活動ないしはその具体的な疑いは、刑事司法全体に対する信頼を揺るがせかねない深刻なものであるとした。本判決は、捜査機関による証拠の捏造にまで言及した袴田事件再審無罪判決に続き、許されざる捜査機関の不正義を厳しく断罪する画期的なものである。

当会は、本判決を心から喜び、逮捕から約38年間という長期にわたってえん罪と闘い抜かれた前川彰司氏、同氏を支えてこられたご家族並びに支援者、そして再審弁護団の活動に対して、改めて深甚なる敬意を表するものである。また、検察官に対して、本判決を真摯に受け止め、上告をすることなく速やかに本判決を確定させるように強く求めるものである。

本件により、あらためて再審法(刑訴法第4編「再審」)の不備が浮き彫りになった。2度に亘る再審請求の中で、前川氏の無罪を裏付ける極めて重要な証拠が開示されたが、このような事態は、証拠開示に関するルールが不存在であったことから発生したものであり、証拠開示のルールが定められる必要がある。

また、2011年11月30日の第1次再審請求の再審開始決定に対し、検察官が不服申立をしたことにより、前川氏の有罪が取消されて無罪となるまで13年以上の年月が経過している。検察官の不服申立がなければ、前川氏はもっと早期に救済されていた。このような事態を避けるために、再審開始決定に対する検察官の不服申立は禁止されなければならない。

2024年10月9日に再審無罪が確定した袴田事件に続き、本判決は、再審法改正の必要性を明らかにするものである。当会は、えん罪の悲劇を繰り返すことなく、えん罪を負わされた被害者を速やかに救済するための再審法改正の実現に全力を尽くす決意である。

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