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生活扶助基準引下げを違法とした最高裁判所判決を高く評価し、 引下げ分の補償措置、検証及び基準策定の改善を求める会長声明

2025年07月16日

東京弁護士会 会長 鈴木 善和

2013年から2015年にかけて厚生労働大臣が行った生活保護基準中の生活扶助基準の引下げ(以下「本引下げ」という。)について大阪・愛知の生活保護利用者らが保護費減額処分の取消し等を求めた訴訟の上告審で、最高裁判所第三小法廷は、本年6月27日、本引下げの違法性を認め、保護費減額処分を取り消す判決(以下「本判決」という。)を言い渡した。

本判決は、本引下げのうち、物価変動率を指標として、本引下げ前の基準生活費を一律に4.78%減じた部分について、改定率の設定について物価変動率のみを直接の指標として用いたことに、専門的知見との整合性を欠くところがあり、その判断の過程及び手続には過誤、欠落があったとした上で、本引下げは、厚生労働大臣の上記判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり、生活保護法第3条、第8条第2項に違反して違法であると断じた。

生活保護を利用する権利は、憲法第25条第1項が保障する生存権を具体化した権利である。生活保護基準は、市民が安心して生活するための最後のセーフティーネットである。本判決は、厚生労働大臣が生活保護法に反する引下げを行ったとして保護費減額処分の取消しを認めたものであり、人びとの権利を守る司法の役割を十分に果たしたものと高く評価できる。

本引下げ後に生活保護を利用していたすべての利用者らは、その生存権を長期にわたって侵害されていたことになる。国は、本判決を受けて、全国の生活保護利用者が本引下げについて起こしている同種訴訟について早期全面解決を図るとともに、すべての利用者及び元利用者について、本引下げ前の基準によって受けるべきであった生活扶助費と実際の支給額との今日までの差額を支給するなどの補償措置を講じるべきであり、その対応にあたっては、専門家による審議等を理由に徒に時間を費やすことは許されない。

また、なぜ、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」の侵害という重大な結果を生じさせる違法な行政が行われたのかについて調査するため、国は専門家や弁護士を交えた第三者による検証委員会を直ちに設置して、速やかに十分な調査・検証を行う必要がある。

その上で、上記検証を踏まえて生活保護基準策定のあり方を改善し、専門家による生活保護基準の審議が行われるべきであり、そこでは、生活保護利用者の意見も反映されなければならない。また、生活保護基準の策定の方法については、専門的な検討機関の調査審議を経て改定することなどを明記した法改正も行われるべきである(日本弁護士連合会が2019年(平成31年)2月14日付けで公表した「生活保護法改正要綱案(改訂版)」参照。)。

よって当会は、国に対し、同種訴訟の早期全面解決とともに、本判決を踏まえた生活保護の利用者及び元利用者への補償措置の実施、本引下げについての第三者による検証及び生活保護法の改正を含む生活保護基準策定方法の改善を直ちに実施するよう求める。

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