「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」に抗議し、差別と偏見のない多文化共生社会の実現を求める会長声明
2025年09月17日
東京弁護士会 会長 鈴木 善和
2025年5月23日、出入国在留管理庁(入管庁)は、「国民の安全・安心のための不法滞在者ゼロプラン」と題する資料(以下「ゼロプラン」という。)を公表した。
このゼロプランの策定目的について入管庁は、「ルールを守らない外国人により国民の安全・安心が脅かされている社会情勢に鑑み、不法滞在者ゼロを目指し、外国人と安心して暮らせる共生社会を実現する」ためであると説明している。
しかしながら、そもそも「ルールを守らない外国人」とは具体的にどのような外国人を指すのか、また、「国民の安全・安心が脅かされている社会情勢」は何を根拠として判断されているのかといった点について、前者は国会において一応の説明がなされているものの、後者は、ゼロプラン公表後3ヶ月余を経た現段階においてもなお、入管庁から十分な根拠を示した説明はなされていない。よって、ゼロプランに対してはその策定目的自体に大きな疑問を持たざるを得ない。
加えて、ゼロプランのもたらす悪影響も計り知れない。
まず、「ルールを守らない外国人」という安易な否定的表現を政府があえて用いることにより、日本に在留する外国人全体が排外主義と差別に晒されるリスクが増大することが想定される。そして、これがヘイトスピーチをはじめとする人権侵害を助長し、ひいては日本社会の分断へとつながっていくことが強く懸念される。
さらに、入管庁がゼロプランで打ち出している具体的施策の中では、収容や送還の対象として難民申請者に焦点が当てられている。日本の極めて不透明な難民認定制度と極めて低い難民認定率の下においては、迫害の危険のある出身国に難民申請者の送還が強行されるリスクが大きいといわざるを得ず、難民条約や拷問等禁止条約に定めるノン・ルフールマン(不送還)原則に違反する事態の発生が危惧される。
また、難民申請者以外でも、様々な事情により出身国への帰国ができず、あるいは日本での在留継続を必要とする当事者が様々な類型で存在するが、ゼロプランによってこれら人権・人道上の配慮を要する当事者の収容や送還が強行されるおそれも増大している。
このように、ゼロプランについては、その策定根拠自体に強い疑念がある上に、その実施によって当事者と日本社会に取返しのつかない悪影響をもたらす懸念があることから、当会はゼロプランの策定と実施に強く反対する。
むしろ、今こそ必要なのは、外国人の人権が保障されるとともに多様性が尊重される社会である。非正規滞在状態の解消は、適正な難民認定や人権・人道に基づいた在留特別許可の推進によっても相当程度達成されるはずであることに鑑みれば、政府においては、まずもってこれらにかかる入管実務の改善と改革に注力するべきである。あわせて、政府が率先して真の多文化共生社会の構築に向けた実効的施策を打ち出すことを、改めて強く求める次第である。
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