アクセス
JP EN

臨時国会での再審法改正の実現を求める会長声明

2025年10月09日

東京弁護士会 会長 鈴木 善和

1年前の今日10月9日、静岡4人強盗殺人・放火事件(いわゆる「袴田事件」)の再審公判における無罪判決が、検察官の上訴権の放棄により確定した。

無罪判決までに、袴田巖さんの逮捕から58年、最初の再審開始決定から10年もの歳月を要したということは、我が国の再審制度が機能していないことを如実に示しており、刑訴法第4編「再審」(以下、「再審法」という)の改正はまさに待ったなしの状況である。再審法の改正に向けて、2024年3月11日に超党派の国会議員により「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」(以下「議連」という)が設立された。本年6月18日、議連により、衆議院に「刑事訴訟法の一部を改正する法律案」(以下、「本法案」という)が提出され、衆議院法務委員会に付託され、継続審議となっている。

本法案は、①再審又は再審の請求に係る被告事件の裁判等に関与した裁判官の除斥及び忌避、②再審の請求の手続に係る規定の整備(期日の指定、裁判長の手続指揮権等)、③再審の請求の手続における検察官保管証拠等の開示命令等、④再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止を内容としている。本法案は、これまで日弁連が求めてきた再審法改正の内容と軌を一にしており、評価できるものである。

他方、再審法改正に関しては、鈴木馨祐法務大臣(当時)の諮問により、本年4月21日以降、法制審議会刑事法(再審関係)部会(以下、「法制審部会」という)において審議が行われており、本法案の上記①~④を含む14項目の論点が対象となっている。

しかし、本法案の上記①~④を含む再審法の改正について、検察官・検察庁と密接な関係がある法務省が事務局を務める法制審部会が主導的な役割を担うことについて、強い懸念を表明せざるを得ない。

冒頭で挙げた袴田事件のみならず、本年7月18日に再審無罪判決が言い渡された福井事件等の数々のえん罪事件によって、再審法の不備は明らかとなっているところである。

それにもかかわらず、法制審部会の審議においては、再審法改正を求める意見がある一方で、再審手続における証拠開示を極めて限定的な範囲に止めようとする意見、再審開始決定に対する検察官の不服申立の禁止に消極的な意見、「現在でも再審手続は適正に運用されている」旨の意見等が見受けられるところである。また、14項目に及ぶ論点について、法制審部会における取りまとめには相当な期間を要することは明らかであり、法案化の目処はたっていないと言わざるを得ない。

言うまでもなく、国会は「唯一の立法機関」であり、「国権の最高機関」である。再審法改正について本法案が上程され、「全国民を代表する」国会議員の意思が示されているのであるから、本法案の審議が優先されることは当然のことである。法制審部会は単なる法務大臣の諮問機関にすぎない。法制審部会により、本法案の審議が制約されるようなことがあってはならない。

また、再審法改正は、何よりもえん罪被害者の速やかな救済に資するものでなければならない。本法案の上記①~④は、数多くある論点の中でもえん罪被害者の速やかな救済を実現するために必要不可欠なものである。

袴田事件の再審公判における無罪判決が確定して1年経過しても法案化の目処がたっていないという現状に照らし、当会は、国会に対して、今秋に予定されている臨時国会において本法案の審議を進め、本法案を可決・成立させることを強く求めるものである。

印刷用PDFはこちら(PDF:91KB)