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「日野町事件」検察官による特別抗告を棄却した最高裁決定についての会長声明

2026年02月26日

東京弁護士会 会長 鈴木 善和

本年2月24日、最高裁判所第二小法廷(裁判長裁判官 岡村和美、裁判官 尾島明、裁判官 高須順一)は、いわゆる「日野町事件」の第2次再審請求の特別抗告審につき、再審開始を決定した原々決定(大津地裁)に対する検察官の即時抗告を棄却した原決定(大阪高裁)に対する検察官の特別抗告を棄却し、再審開始を維持し、確定する決定をした(以下「本決定」という)。

本件は、1984年12月、滋賀県蒲生郡日野町で発生した強盗殺人事件である。被害者が営む立ち飲み酒店の常連客であった故阪原弘氏(以下「阪原氏」という)が犯人として逮捕、起訴されたが、阪原氏は公判では一貫して無実を訴えてきた。

第一審判決(大津地裁)は、自白の信用性はないとしながらも情況証拠から有罪を認定し、無期懲役の判決を言い渡した。他方、控訴審判決(大阪高裁)は、情況証拠から有罪認定はできないとしながらも自白の基本的根幹部分は信用できるとして、控訴を棄却した。最高裁は、第一審と控訴審で有罪認定の根拠が異なる中で、2000年9月に上告を棄却し、無期懲役の有罪判決が確定した。

阪原氏は、2001年11月に第1次再審請求を申し立てたが、服役中に病に倒れ、2011年3月に帰らぬ人となり(享年75歳)、阪原氏の遺志を引き継いだご遺族が2012年3月、第2次再審請求を申し立てた。

本件は、阪原氏と犯人を結び付ける直接の物的証拠も十分な情況証拠も存在せず、任意性と信用性に疑問のある自白調書しかないという脆弱な証拠構造であったが、阪原氏が金庫発見場所・遺体発見場所を知っており、誰にも教えられることなく案内できたという捜査結果が有罪認定の大きな根拠となっていた。

第2次再審請求において、捜査時に撮影された写真のネガが開示され、金庫発見場所への引当て捜査報告書に「往路」として貼付されていた写真の中に「復路」の写真が混在していたことが明らかとなった。また、遺体発見場所への引当て捜査で、阪原氏に「リハーサル」をさせて現場再現を行わせていたことも判明した。

これらにより、金庫発見場所・遺体発見場所の引当て捜査結果の信用性が大きく揺らぎ、2018年7月、再審請求審(大津地裁)は再審開始を決定し、2023年2月、即時抗告審(大阪高裁)は検察官の即時抗告を棄却した。

本決定は、「記録によれば、所論引用の証拠の新規性及び明白性を認めて、本件再審請求を認容すべきものとした原々決定の結論を正当とした原判断に誤りがあるとは認められない」と明確に判示し、検察官の特別抗告を棄却して、原々決定の再審開始決定を維持し、確定させたものである。

当会は、再審開始決定を維持、確定させた本決定を心から喜び、長年にわたりえん罪と闘ってこられた阪原氏と同氏の遺志を引き継いだご遺族、再審弁護団の活動に対して、あらためて深甚なる敬意を表するものである。

また、裁判所に対して、直ちに再審公判を開き、必要最小限の審理を行って無罪を宣告することを要望し、検察官に対しては、本決定を真摯に受け止め、無罪を言い渡すべき再審公判の審理に協力することを強く求め、雪冤を果たすことなく他界した阪原氏の名誉回復が早期に行われることを期待する。

本件により、あらためて再審法(刑訴法第4編「再審」)の不備が浮き彫りになった。第2次再審請求で開示された証拠が再審開始決定に向けて非常に大きな力となったものであるが、本来は通常審、遅くとも第1次再審請求で開示されるべきものであった。このような事態は、証拠開示に関するルールが不存在であったことから発生したものである。

また、再審開始決定に対する検察官の2度にわたる不服申立により、再審開始決定の確定までに約7年7ヶ月もの年月が経過している。検察官の不服申立がなければ、阪原氏の雪冤と名誉回復はもっと早期に果たされていた。このような事態を避けるために、再審開始決定に対する検察官の不服申立は禁止されなければならない。

袴田事件(2024年10月に再審無罪が確定)、福井事件(2025年8月に再審無罪が確定)に続き、本決定は、再審法はどのように改正される必要があるのかを明らかにするものである。当会は日弁連とともに、再審請求事件における幅広い証拠開示、再審開始決定に対する検察官不服申立の禁止をはじめとした、えん罪被害者をすみやかに救済するための再審法改正の実現を目指して、全力を尽くす決意である。

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