「飯塚事件」第2次再審請求即時抗告棄却決定に対する会長声明
2026年03月06日
東京弁護士会 会長 鈴木 善和
福岡高等裁判所第1刑事部(溝國禎久裁判長)は、2026年2月16日、いわゆる飯塚事件の第2次再審請求の即時抗告審について、再審請求を棄却した福岡地裁第4刑事部の原決定(鈴嶋晋一裁判長)を是認し、即時抗告を棄却する決定をした(以下、「本決定」という。)。
飯塚事件は、1992年2月20日に、福岡県飯塚市で通学途中の小学1年生の女児2名が行方不明となり、翌21日に同県甘木市内の山中で遺体が発見された事件である。事件発生から約2年7か月後に逮捕された久間三千年氏(以下「久間氏」という。)は、当初から一貫して無実を主張していたが、死体遺棄、略取誘拐、殺人で起訴され、福岡地裁は1999年9月29日に久間氏に対して死刑判決を言い渡し、控訴、上告も棄却されて2006年10月8日に死刑判決が確定した。
飯塚事件においては、久間氏と事件を結びつける直接証拠は全くなく、①被害女児の遺体から検出されたDNA型と久間氏のDNA型が一致したとするDNA鑑定、②誘拐現場とされる通学路上で被害女児を見たとする目撃供述、③事件当日に久間氏の所有車両と特徴が一致する車両を見たとする目撃供述等の情況証拠によって有罪認定がされている。
しかし、飯塚事件のDNA鑑定(MCT118型鑑定)は、再審無罪が確定した足利事件と同じ手法のものであり、後に足利事件においてはMCT118型鑑定が冤罪を生んだ最大の原因の1つとされている。飯塚事件でも、もともとMCT118型鑑定の信用性に疑問が呈せられていた上に、第1次再審請求において、DNA鑑定には写真の改ざん等の極めて重大な問題点があったことが明らかとなり、裁判所もMCT118型鑑定の証明力は減殺されると認めたが、再審開始は認めなかった。
第2次再審請求では、上記②の目撃者は、捜査機関の強引な誘導で供述調書が作成され、被害女児を見たのは事件当日ではない旨新たに証言した。また、別の目撃者は、事件当日に後部座席に2人の女児を乗せた犯行使用車両と思われる車を目撃したが、久間氏の所有車両とは特徴が異なり、運転していた人物も久間氏ではなかった旨新たに証言した。しかし、福岡地裁は「警察官がこのような捏造を行うというのは考え難い」等として、上記目撃者の新証言の信用性をいずれも全面的に否定し、再審請求を棄却した。
即時抗告審において裁判所は、証拠開示の範囲を限定し、かつ、裁判所のみが確認するインカメラ手続を行うに止め、証拠開示命令や提出命令の発出等弁護人に対する開示の措置を講ずることのないまま、本決定により即時抗告を棄却した。本決定は弁護人が提出した新証拠の証拠価値を否定しているが、それについての審理を尽くしたとは到底言えず、また、新旧全証拠の総合評価を行っていないという点で白鳥・財田川決定にも違反する。このような本決定は「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則に反し、裁判所は無辜の救済や真実究明を放棄したという他ない。
また、原審において、警察からの送致文書リストの開示を書面で裁判所から勧告されたにも関わらず、その開示を拒否した検察官の対応は、えん罪被害者の救済をさらに困難にするものであり、「公益の代表者」(検察庁法第4条)とはかけ離れている。
MCT118型鑑定が冤罪を生むおそれを孕んだものであることが広く報道されていた2008年10月28日に、再審を望む久間氏に対して死刑が執行された。飯塚事件は再審制度に対してだけではなく、我が国の死刑制度に極めて重大な問題点を提起するものである。
本年2月24日、弁護人は本決定に対する特別抗告を行ったとのことである。当会は、飯塚事件の再審請求について引き続き注視していくとともに、えん罪被害者を速やかに救済するための再審法改正、死刑制度の廃止並びに死刑執行の停止に向けて、努力していく所存である。
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