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戦後70年を迎えるにあたっての談話

2015年08月10日

東京弁護士会 会長 伊藤 茂昭

 今から70年前の3月10日、東京大空襲により10万人以上の方が亡くなりました。全国各地への度重なる空襲、沖縄の地上戦、そしてその年の間に14万人の命が奪われた8月6日の広島への原子爆弾の投下、7万4千人の命が奪われた長崎への原爆投下、そして8月15日ようやく日本がポツダム宣言を受諾し戦争が終わりました。
 この昭和の戦争において300万人を超える日本人の命が奪われました。
 また、我が国は、植民地支配と侵略によりアジアの国々に対しその多くの生命・財産を奪い甚大な被害を与えました。
 この戦争は、時の政府、軍部に対する民主主義的統制が全く機能しない状況下で、計画され遂行されて行きました。当時、警察等による多くの人権蹂躙事件が発生しましたが、昭和8年9月にはこれらの事件の弁護を中心的に担っていた東京弁護士会の会員10名が治安維持法違反で一斉に検挙されました。思想信条を守る弁護士の組織的活動はその後終息していくことになり、国民の思想信条の自由、表現の自由は大きく制限されることになりました。そして昭和12年には日中戦争が勃発し、当会会員弁護士15名が招集を受け、同年末までに中国大陸の戦線でそのうちの4名が戦死しました。当会は、応召会員の会費免除と戦死会員家族に対する慰問寄付金募集のための委員会の設置を決め、その後は戦争に協力する活動が中心になっていきました。多くの国民も当時の弁護士会もその戦争遂行に協力する社会が作られて行ったのです。
 その結果もたらされたのが冒頭に述べた大きな惨禍です。この悲惨な歴史に対する反省の上に、「政府の行為によって再び戦争の惨禍を起こることのないようにすることを決意し」て、定められたのが現在の日本国憲法であります。
 その前文に掲げられた恒久平和主義と第9条の戦争の放棄の規定の存在は、戦後70年間、自衛隊の活動に制約を設け、日本が戦争の当事者とならず平和国家としての道を歩み、国際社会の信頼を得るうえで多大な役割を果たしてきたものであります。そしてその平和の中で、人権の保障も前進してきました。
 私は、この戦後70年を迎えるにあたって、戦争に至る戦前の歴史とその後の平和な70年の歴史のそれぞれの重みに思いを致すとともに、戦争の惨禍をもたらしたことに対する反省を忘れることなく、その戦争の惨禍の中で生命財産を奪われた、すべての国の犠牲者に対し心から哀悼の意を表したいと思います。
 一方、昨年の集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に続き、現在進行中の集団的自衛権の行使を容認する安全保障法制の立法化の動きは、このような戦後の恒久平和主義に立脚した我が国の70年の平和的な存立の歴史を真っ向から否定するものとして到底許されるものではありません。
 軍事的抑止力に頼ることは、かつての歴史が教えるように軍事力が軍事力を呼ぶ結果になること、強力な軍事力ほど民主的統制が困難で暴走の危険性があることに思いを致し、日本国憲法にうたう「諸国民の公正と信義に対する信頼」こそが「真の平和」、戦争防止の力となることを強く訴え、政府にかかる強力な外交努力を求めるものであります。
 特に特定国をいたずらに仮想敵国扱いすることなく、すでに多くの国と経済的に相互に依存関係にあること、また民間外交や国際交流が進展している状況を踏まえ、人類愛と寛容に基礎をおいた外交により、国際社会で名誉ある地位を占めることを望むものであります。
 東京弁護士会は、日本弁護士連合会及び全国の弁護士会、そして真の平和を愛するすべてのみな様とともに、この日本国憲法の理念と基本原理を不断の努力によって堅持し、戦争のない日本を引き続き維持するために全力を尽くすことを誓います。

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