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弁護士が果たす役割について市民の理解を求めるとともに、 弁護活動の自由の保障の確保に関する声明

2007年07月12日

東京弁護士会 会長 下河邉 和彦

 現在広島高等裁判所で、最高裁判所から差し戻された、山口県光市で当時18歳の少年が主婦と長女を殺害したとされる、いわゆる「光市母子殺人事件」についての裁判が行われています。
この事件の裁判に関しては、さきに日本弁護士連合会あてに「元少年を死刑に出来ぬのなら、元少年を助けようとする弁護士たちから処刑する。」「裁判で裁けないなら、武力で裁く。」などと記載された、同事件の弁護団を脅迫する書面が届いていたのに続いて、今月になってから朝日新聞社および読売新聞社、そして主任弁護人が所属する法律事務所あてにも同様の脅迫文が届いたとのことです。
弁護団の弁護活動に対するこのような脅迫行為は、憲法37条3項が「刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人に依頼することができる。」と定めている、被告人が弁護人の援助を受ける権利を否定し、また国連犯罪防止会議で採択されている「弁護士の役割に関する基本原則」にも反するものであって、断じて容認できないものであります。
価値観が多様化し、利害もまた鋭く対立する現代社会において、自由な言論を基に、基本的人権の擁護と社会正義の実現をめざす弁護士の役割は、民主主義の基盤として、その重要性をますます増しています。しかし同時に、このような弁護士の活動に対する妨害や脅迫や干渉、さらには暴力の行使も絶えることはありません。
そのため、国連の上記基本原則16条は、「政府は、弁護士が脅迫、妨害、困惑あるいは不当な干渉を受けることなく、その専門的職務をすべて果たしうること、自国内及び国外において、自由に移動し、依頼者と相談しうること、確立された職務上の義務、基準、倫理に則った行為について、弁護士が、起訴、あるいは行政的、経済的その他の制裁を受けたり、そのような脅威にさらされないことを保障するものとする。」とし、そして18条は「弁護士が、その職務を果たしたことにより、弁護士の安全が脅かされるときには、弁護士は、当局により十分に保護されるものとする。」と定めています。
当会は、今回の度重なる脅迫行為に対して強く非難と抗議をし、広く市民の皆さんと、憲法と国連の基本原則に則って、弁護活動に対するこのような妨害や脅迫が、被告人が弁護人の援助を受ける権利の否定であり、民主主義への挑戦でもあることについての理解を共有していくとともに、弁護活動の自由の保障を確保するために、全力を尽くす決意であることを表明します。