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非司法競売手続の導入に反対する会長声明

2008年03月25日

東京弁護士会 会長 下河邉 和彦

 現在、法務省競売制度研究会において、現行の裁判所による競売手続(司法競売手続)に加え、オプションとして、裁判所が関与しない不動産競売手続(以下「非司法競売手続」という)を導入することが検討されているが、以下の理由によりその導入には強く反対する。

 第一に、わが国では、かつて暴力団や競売ブローカーなどの反社会的勢力による執行妨害により、迅速な執行が阻害され、売却価格も低落するなどの弊害が見られた。そのため、不当な執行妨害を排除して、透明かつ迅速な競売制度を確立することをめざして法改正が行なわれてきた。その結果として、2006年度では不動産競売事件の約4分の3が申立から半年以内に売却され、売却率は全国では約81%、東京地裁及び大阪地裁では100%に近い数字となっている。このように、現行の不動産競売制度は極めて円滑に機能しており、非司法競売手続を創設する立法事実は現在存在しない。

 第二に、非司法競売手続について検討されている案としては、現況調査報告書、評価書、物件明細書のいわゆる三点セットを作成しない案、作成することを任意とする案及び類似のものを作成する案がある。買受人は入札の際、三点セットの記載をもとに占有状態や権利関係を把握するのであるから、三点セットが作成されないとすれば著しく買受人の保護に欠ける。そればかりでなく、担保物件についての的確な情報を入手することができなければ、一般人が競売に参加することは困難になり、結局一部の悪質金融業者や不動産のプロ等が参加するだけとなり、ひいては反社会的勢力の資金源となることも懸念される。

 第三に、競売価格について現在検討されている案には、下限規制を設けない案、設けることを任意とする案及び設ける案がある。しかし、アメリカと異なり、担保物件売却後債務者や保証人に残債務を請求しないローン制度が普及していないわが国では、不当な廉価で売却された場合、債務者、保証人及び物件所有者の利益が害されることになる。

 第四に、非司法競売手続はオプションであり、融資時に予め債務者らが非司法競売手続によることを合意するというものであるから、一見、債務者らの自由意思による選択が認められているかのようである。しかし、融資時における債権者と債務者らの力関係を考慮すれば、これによって公正さが担保されるとは言い難い。

 以上のとおり、非司法競売手続は、これを導入する必要性がないばかりか、手続の公正さや透明性の確保、債務者、保証人及び所有者の利益を害するおそれのあるものであるから、たとえ現行競売制度との選択制であっても、当会は、その導入に強く反対するものである。