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人の生命・身体に対する直接の加害行為や人種的憎悪や民族差別を扇動する集団的言動に対する会長声明

2013年07月31日

東京弁護士会 会長 菊地 裕太郎

近時、東京都新宿区新大久保などで、排外主義的主張を標榜する団体による、在日外国人の排斥等を主張するデモ活動が繰り返されている。そこでは、「朝鮮人首吊レ 毒飲メ 飛ビ降リロ」、「殺せ、殺せ朝鮮人」、「良い韓国人も悪い韓国人もみんな殺せ」、「ガス室に朝鮮人、韓国人を叩き込め」などのプラカードを掲げてデモ行進し、人の生命・身体に対する直接の加害行為を扇動したり、特定の民族的集団に対する憎悪を煽り立てたりする言動が繰り返されている。

上記のデモ参加者による言動等によって、在日コリアンや韓国朝鮮系日本人など、日本以外にも民族的・種族的ルーツを持つ日本在住の人々が、身体・生命に対する危険を感じ、平穏な生活を脅かされる深刻な状況が続いている。こうした人の生命・身体に対する直接の加害行為を扇動する言動は、憲法13条で保障される個人の尊厳や人格権を侵害するものである。よって、当会は、このような言動を直ちに中止することを求める。

また、日本が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)第20条第2項は、「差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する。」と定めている。日本が加入しているいわゆる人種差別撤廃条約第2条第1項(d)は、「各締約国は、・・・いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させる。」と規定している(同条約第1条第1項は「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先」を人種差別の重要要素としている)。さらに、同条約第4条柱書は、「人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。」と定めている。日本が批准、加入しているこれらの国際人権規約、条約に照らし、当会は、上記のような人種的憎悪や民族差別を煽り立てる言動に反対する立場を表明する。

日本弁護士連合会は、2004年10月の第47回人権擁護大会において、「多民族・多文化の共生する社会の構築と外国人・民族的少数者の人権基本法の制定を求める宣言」を採択し、多文化の共生する社会を築き上げるべく全力を尽くすことを宣言している。また、2009年6月の「人種差別撤廃条約に基づき提出された第3回・第4回・第5回・第6回日本政府報告書に対する日本弁護士連合会報告書」は、朝鮮民主主義人民共和国側による拉致事件や核実験の強行の報道などを契機とする在日韓国・朝鮮人児童・生徒等に対する嫌がらせ等の行為についての対応を述べた日本政府の報告書に対し、日本政府の対応は不十分であるとし、「政府は、朝鮮学校生徒等に対する差別言辞・言動・暴行・嫌がらせがなされる状況を改善するために克服すべき障害を検証した上で、より実効性のある断固たる措置を講じるべきである。」と述べ、2010年3月の国連人種差別撤廃委員会の上記日本政府報告書に対する総括所見についても、同年4月6日、「インターネット上や街宣活動で被差別部落の出身者や朝鮮学校の生徒等に対する人種差別的な言辞が横行している日本においては、法律による規制を真剣に検討する必要がある。」との日本弁護士連合会会長声明を出している。

当会は、政府に対し、上記のような検証や調査研究を進め、人種的憎悪や民族差別を煽り立てる言動を根絶するための実効性ある措置をとるよう求める。