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イラクに対する武力行使に反対する会長声明

2003年02月21日

東京弁護士会 会長 伊礼 勇吉

1 アメリカは、2002年11月8日に採択された安保理決議1441号に基づく査察が実施されている中において、武力行使について国際連合の授権ないし承認の決議が採択されない場合においても、イラクに対して先制的に武力を行使する旨を表明し、現に空母数隻を含む15万人の軍隊を湾岸地域に集結し、武力攻撃態勢を整えつつある。

2 しかし、仮に査察に対するイラクの協力が不十分であった場合あるいはイラクによる義務違反の事実があった場合であっても、理由のいかんを問わず、これに対する是正措置は、国連自らがこれを行うものでなければならない。
国連憲章1条1項及び2条3、4項は、国際紛争の解決等にあたっては、まず平和的手段が優先されなければならず、武力による威嚇又は武力の行使は慎まなければならないことを定めており、また、やむを得ず軍事的行動をとる場合であっても、同39条、42条に則り国連軍または少なくとも国連から授権を受けた軍隊により実施されなければならないことを定めているからである。
この原則に対する唯一の例外は、同51条に基づく自衛権ないし集団的自衛権の行使であるが、これは、あくまで急迫不正の侵害に対する緊急行為として行われる武力行使を認めたものにすぎず、アメリカが表明している先制的な武力の行使は、自衛権の行使とはいえない。

3 日本国憲法は、国連憲章と理念を共通にしつつ、さらにこれを徹底しており、世界に先駆け、国権の発動たる戦争と武力による威嚇または武力行使の放棄、戦力の不保持、交戦権の否認を明定し、徹底した平和主義をとっている。
したがって、わが国は、最大の人権侵害を引き起こす要因となる大量破壊兵器の廃絶 についても、憲法の平和主義の原則に則り、あくまで平和的外交的手段によって、対処しなければならない。

4 当会は、周辺事態法、テロ対策特別措置法につき、これらの立法は平和、人権、民主という憲法の三原則に照らして違憲の疑いがあるとして反対した。さらに、現在国会で審議されている有事法制三法案についても同様の理由から廃案とすることを求めている。
アメリカのイラクに対する武力攻撃を支援すること並びにそれを認める立法をするこ とは、わが国に対する武力攻撃を誘引する危険性を有するのみならず、違憲の疑いが払 拭できない周辺事態法、テロ対策特別措置法等の枠をすら超えるものであって、より一層違憲の疑いが強いといわざるをえない。

5 よって、当会は、わが国が、国連憲章と国際法に違反するアメリカのイラク攻撃を支 援することの憲法上の問題点を指摘するとともに、いかなる意味においてもアメリカの 軍事行動に協力することは憲法上許されないことを主張し、日本政府に対し、イラクに対する武力攻撃を表明するアメリカの言動に対して反対の意思を明確に表示すべきことを要請する。