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共謀罪に関する与党修正案に反対する会長声明

2006年04月21日

東京弁護士会 会長 吉岡 桂輔

政府は、昨年の特別国会に、共謀罪の新設等が含まれている「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」を上程し、同法案は衆議院法務委員会での審議を経て、今通常国会に継続審議となっている。
本日の衆議院法務委員会において、この法案の審議が再開され、与党は修正案を提出し、趣旨説明を行った。
与党の修正案は、第1に「団体の活動」を「その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体に限る」との限定を加えること、第2に「その共謀をした者のいずれかによりその共謀に係る犯罪の実行に資する行為が行われた場合」に初めて共謀罪を処罰できるとしたこと、第3に「適用に当たっては、思想及び良心の自由を侵すようなことがあってはならず、かつ、団体の正当な活動を制限するようなことがあってはならない」との注意規定を設けようとするものである。
しかしながら、与党の修正案によっても、共謀罪が、行為を処罰するという近代刑法の原則に反し、行為以前の「共謀」そのものを処罰しようとするものであり、人と人とのコミュニケーションそのものを対象とするために、表現の自由を侵害するだけでなく、思想信条の自由という内心の自由をも侵害する危険性は何ら払拭されていない。
すなわち、与党の修正案は、団体それ自体を限定するものではなく、あくまでも「団体の活動」を限定するものであり、労働組合や市民運動団体など正当に存在している普通の団体についても、共謀罪の対象となる団体に該当しうるという点に違いはない。
団体の主要な構成員が一定の犯罪を実行しようとしているという認定がなされれば、その団体の共同の目的が犯罪を実行する団体に該当すると判断される余地があり、捜査機関の恣意的な判断により、適法な目的の団体が犯罪を実行する目的をもった団体と判断される可能性もある。
このように、与党の修正案でも、依然として、どのような団体について、どのような場合に共謀罪が適用されるのかが不明確であることに変わりはない。
そもそも、この法案は、国連越境組織犯罪防止条約を締結するための国内法整備であり、性質上越境的で組織的な犯罪集団が関与する犯罪が適用範囲とされているのであるから、端的に組織犯罪集団に限定すべきであるが、与党修正案でもそのような限定がなされていない。
また、「犯罪の実行に資する行為」はいわゆる顕示行為を表現したものと考えられるが、極めて広い概念であるから、仮にそれを要件に付加しても、ほとんど限定にならない。
さらに、注意規定を設けたとしても、実際の運用にはほとんど影響がないことは過去の同様の規定が設けられた法律の運用から見ても明らかである。
共謀罪が対象となる犯罪は、長期4年以上の懲役もしくは禁錮の刑が定められている罪は、現時点で619以上もの多数の犯罪に及ぶものであり、非常に広い範囲で、曖昧な要件のまま、捜査機関によって恣意的に運用されるおそれが強いものであり、与党修正案によって修正されたとしても、その本質的な危険性に何ら変わるところはない。
当会は、既に2003(平成15)年7月7日付「共謀罪新設に対する意見書」を採択するとともに、2005年10月18日付で会長名による「共謀罪の新設に反対する声明」を発表しているが、今通常国会で法案が審議入りしたことから、改めて共謀罪の与党修正案に対して強く反対するものである。