東京弁護士会

文藝春秋3月号の小学生殺傷事件供述書掲載について

1998年02月16日

東京弁護士会 会長 堀野 紀

 昨年5月に神戸市内において発生した小学生殺傷事件について、今月10日に発売され た文藝春秋3月号(株式会社文藝春秋発行)は、この事件によって保護処分を受けた少年 の検察官に対する供述調書7通を入手したとして、そのほぼ全文を掲載したが、これは少 年の健全育成を目的とする少年法の精神を著しく踏みにじるものであり、絶対に許されな いものであるから、強く抗議する。

 本件掲載は、少年が特定される固有名詞等が伏せ字になっているので、少年法第61条 には抵触せず、また、すべからく犯罪は、国民の知る権利の下、その詳細が報道されるべ きであるということを根拠にするもののようである。

 しかし、まず、少年法第61条は、同法における「非公表の原則」から必然的に導かれ る一態様であり、同法には第22条2項により審判の非公開が定められている。この非公 開の原則は、少年法の目的である少年の健全育成を支える大原則である。健全育成とは、 ひとたび非行をおかしても、少年の成長発達する力に着目して少年の更生を援助しようと いうものである。非行の中身が公開公表されれば、少年の更生や社会復帰は困難となり、 健全育成は期し難い。このように少年法第61条と第22条2項は、単にプライバシーの 保護だけでなく、少年法の目的と一体となるものである。

 したがって、同法第61条は、株式会社文藝春秋の理解のように、単に少年が特定され なければ足りるとの趣旨ではなく、本件掲載は、この非公表の原則に対する正しい理解が 欠けていると評さざるを得ない。 このように少年事件手続の供述調書を公開することは、少年法第22条2項、同法第 61条に抵触するものであることは明らかである。

 ひるがえって、国民の知る権利及びこれを実現するための表現の自由は、民主主義の基 本である重要な権利ではあるが、基本的には国家との関係において保障されるものであり 、また、その適用において何らの制約がないのでなく、個人のプライバシーの権利とのバ ランス等に対して十分な配慮がなされなければならないものである。それゆえ、少年に限 らず、犯罪の発生をきっかけとして、犯罪行為のすべてが国民の知る権利の対象となるも のではない。とりわけ、本件のように犯行の全容にわたる供述調書を公開することは、被 害者のプライバシーまで踏みにじるものであり、断じて許されないものである。

 言論機関たる株式会社文藝春秋は、本件掲載の前提として報道の使命を論ずるのであれ ば、まず、少年事件手続の非公開の原則の当否、国民の知る権利についての十分な議論を 尽くすべきであった。それなくして、短絡的に行った今回の報道は、あえて暴挙と称して も過言ではなく、報道機関としての姿勢に猛省を求める次第である。

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